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第二十六話 分かち合うシチュー
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湊は、ギデオンのために、特別な料理を作ることにした。それは、この店の看板メニューの一つでもある、具沢山のビーフシチュー、もとい、「岩トツゲの濃厚シチュー」だ。
ドワーフが持ってきてくれた、岩トツゲのすね肉を、香味野菜と、果実から作った赤い酒で、一晩じっくりと煮込む。肉は、スプーンで触れただけで、ほろりと崩れるほど柔らかくなっていた。
大鍋の中では、肉の旨味が溶け出した、深い褐色のソースが、ことことと、心地よい音を立てている。そこに、大きくカットした根菜を加えて、さらに煮込む。野菜の甘みが、ソースに、より一層の深みと、コクを与えてくれた。
仕上げに、隠し味として、森で採れる、カカオに似た苦い木の実を、ほんの少しだけ削り入れる。これが、味全体の輪郭を、きりりと引き締めるのだ。
湊は、深皿に、熱々のシチューをたっぷりと盛り付け、焼きたての黒パンを添えて、ギデオンの前に差し出した。
「お待たせしました。どうぞ、召し上がれ」
ギデオンは、兜を外し、露わになった、厳つい顔で、目の前の皿を睨みつけた。その顔には、深い猜疑の色が浮かんでいる。
しかし、湯気と共に立ち上る、豊かで、複雑な香りは、彼の理性を、少しずつ、麻痺させていく。
彼は、意を決したように、スプーンを手に取り、まずは、ソースだけを、慎重に口に運んだ。
その瞬間、ギデオンの厳つい顔が、驚きに、わずかに歪んだ。
なんだ、この、味の深みは……。
肉と野菜の旨味が、何層にも重なり合い、そこに、果実酒の芳醇な香りと、隠し味のほろ苦さが、絶妙なアクセントを加えている。今まで、宮殿で食べてきた、どんな高級料理よりも、複雑で、力強い味だった。
彼は、次に、肉の塊を、スプーンで崩した。驚くほど、柔らかい。口に入れると、繊維の一本一本が、とろけるように、舌の上でほどけていく。
夢中だった。
騎士としての立場も、魔物への敵意も、何もかも忘れて、彼は、ただ、目の前のシチューを、貪るように食べ進めた。
黒パンを、ソースに浸して食べれば、パンが、全ての旨味を吸い上げて、これまた、格別の味わいだった。
あっという間に、皿は空になった。
ギデオンは、ふぅ、と、満足のため息をつく。空腹が満たされたことで、彼の心にも、少しだけ、余裕が生まれたようだった。
彼は、改めて、店内を見回す。
魔物たちは、相変わらず、彼を警戒してはいるが、先ほどのような、殺気立った雰囲気はない。彼らは、ただ、静かに、自分たちの食事を、楽しんでいるだけだ。
そして、その中央で、甲斐甲斐しく働く、一人の人間の若者。
その時、テーブル席で、小さな事件が起こった。
コボルトのギルが、食事に夢中になるあまり、誤って、水の入ったカップを、倒してしまったのだ。水は、隣に座っていた、ゴブリンの足元へと、こぼれていく。
ギデオンは、身構えた。これをきっかけに、争いが始まるに違いない、と。
しかし、彼の予想は、外れた。
ゴブリンは、怒るどころか、自分の腰布で、黙って、こぼれた水を拭き始めたのだ。ギルは、バツが悪そうに、小さな声で、何かを呟いている。それは、謝罪の言葉のようにも聞こえた。
ギデオンは、信じられないものを見た、という顔で、その光景を見つめていた。
自分が、今まで、信じてきた「正義」とは、一体、何だったのか。
ただ、空腹を満たすため、一つの食卓を囲む。そこには、種族も、立場も、関係ない。
鎧の奥で、凝り固まっていた彼の心が、温かいシチューの湯気と共に、少しずつ、解きほぐされていくのを、ギデオンは、感じていた。
ドワーフが持ってきてくれた、岩トツゲのすね肉を、香味野菜と、果実から作った赤い酒で、一晩じっくりと煮込む。肉は、スプーンで触れただけで、ほろりと崩れるほど柔らかくなっていた。
大鍋の中では、肉の旨味が溶け出した、深い褐色のソースが、ことことと、心地よい音を立てている。そこに、大きくカットした根菜を加えて、さらに煮込む。野菜の甘みが、ソースに、より一層の深みと、コクを与えてくれた。
仕上げに、隠し味として、森で採れる、カカオに似た苦い木の実を、ほんの少しだけ削り入れる。これが、味全体の輪郭を、きりりと引き締めるのだ。
湊は、深皿に、熱々のシチューをたっぷりと盛り付け、焼きたての黒パンを添えて、ギデオンの前に差し出した。
「お待たせしました。どうぞ、召し上がれ」
ギデオンは、兜を外し、露わになった、厳つい顔で、目の前の皿を睨みつけた。その顔には、深い猜疑の色が浮かんでいる。
しかし、湯気と共に立ち上る、豊かで、複雑な香りは、彼の理性を、少しずつ、麻痺させていく。
彼は、意を決したように、スプーンを手に取り、まずは、ソースだけを、慎重に口に運んだ。
その瞬間、ギデオンの厳つい顔が、驚きに、わずかに歪んだ。
なんだ、この、味の深みは……。
肉と野菜の旨味が、何層にも重なり合い、そこに、果実酒の芳醇な香りと、隠し味のほろ苦さが、絶妙なアクセントを加えている。今まで、宮殿で食べてきた、どんな高級料理よりも、複雑で、力強い味だった。
彼は、次に、肉の塊を、スプーンで崩した。驚くほど、柔らかい。口に入れると、繊維の一本一本が、とろけるように、舌の上でほどけていく。
夢中だった。
騎士としての立場も、魔物への敵意も、何もかも忘れて、彼は、ただ、目の前のシチューを、貪るように食べ進めた。
黒パンを、ソースに浸して食べれば、パンが、全ての旨味を吸い上げて、これまた、格別の味わいだった。
あっという間に、皿は空になった。
ギデオンは、ふぅ、と、満足のため息をつく。空腹が満たされたことで、彼の心にも、少しだけ、余裕が生まれたようだった。
彼は、改めて、店内を見回す。
魔物たちは、相変わらず、彼を警戒してはいるが、先ほどのような、殺気立った雰囲気はない。彼らは、ただ、静かに、自分たちの食事を、楽しんでいるだけだ。
そして、その中央で、甲斐甲斐しく働く、一人の人間の若者。
その時、テーブル席で、小さな事件が起こった。
コボルトのギルが、食事に夢中になるあまり、誤って、水の入ったカップを、倒してしまったのだ。水は、隣に座っていた、ゴブリンの足元へと、こぼれていく。
ギデオンは、身構えた。これをきっかけに、争いが始まるに違いない、と。
しかし、彼の予想は、外れた。
ゴブリンは、怒るどころか、自分の腰布で、黙って、こぼれた水を拭き始めたのだ。ギルは、バツが悪そうに、小さな声で、何かを呟いている。それは、謝罪の言葉のようにも聞こえた。
ギデオンは、信じられないものを見た、という顔で、その光景を見つめていた。
自分が、今まで、信じてきた「正義」とは、一体、何だったのか。
ただ、空腹を満たすため、一つの食卓を囲む。そこには、種族も、立場も、関係ない。
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