闇狩人 紀氏悠真

サトリ

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カンハ・ピーダ・ヴァダ  その二

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現場処理が一区切りし、聞き込み班が撤収の準備を始めた時だった。
野次馬の群れがざわめきながら通りを埋め、その中に紛れるように一人の青年が立っていた。
光が不意に足を止め、ポニーテールを揺らして目を凝らす。
「……ちょっと待って、あそこにいる男、前の二件の現場写真に写りこんでなかった?」
颯真も視線を追い、低くうなずく。
「確かに……間違いない。
同じ顔を見た」
そのやり取りを聞いた美咲と智也が同時に振り向く。 
智也が、冷たく問いかける。
「おい、その男とは誰だ?」
美咲は短く息を吸い、淡々とした声で続ける。「指差して……誰なの?」
群衆の隙間に立つ青年――紀氏悠真。
美咲と智也は群衆を押し分けるように悠真へと歩み寄る。
「そこのあなた、話を聞かせてもらうわ」
美咲の声は冷ややかに響き、悠真はゆっくりとその視線を受けとめた。
群衆の中から引き出された青年は身長174センチほどの細身。
整った顔立ちは美貌と呼ぶにふさわしく、その瞳の奥には静かな冷ややかさが宿っていた。
黒を基調としたロングコートに深い色合いのシャツ、細身のパンツ。
首元には銀のチェーンが光を反射し、全身から孤高の気配が漂っている。
美咲は冷静に智也は鋭く、次々と質問を浴びせた。
「なぜ現場にいたのか」
「前の事件にも姿を見せていた理由は何か」
「住所は、職業は」
悠真は一切動じず、低く淡々と答える。
「住所不定、職業はない。ただ……観察していただけだ。」
質問の最中、悠真の足元の影が密かに揺らぎ、二人の刑事の影へと伸びていく。
誰にも気づかれぬまま、黒い糸のように絡みつき、過去を覗く力が発動された。
悠真の意識に流れ込むのは、
美咲と智也のこれまで正義を背負い裏もなく生きてきた姿。
やがて影はすっと引き、悠真は小さく息をつく。
「それでは俺はこれで」
悠真は背を向けて歩き出した。
黒いコートの裾が夜風に揺れ、群衆に紛れるように悠真は姿を消していく。
美咲は息を整えながら悠真を追おうとするが、その前に智也が立ちはだかる。
「佐藤、何処にいくつもりだ?」
智也の声には焦りと心配が混じっていた。
美咲は一瞬立ち止まるが、目の前の悠真を見据える。
冷たい夜風に髪が揺れ決意の色が瞳に宿る。
「警視、紀氏悠真……彼が犯人だとは思えませんが、でも事件と無関係だとも思えません。
きっと何かを知っているはず、だから、どうしても自分の目で確かめたいんです!」
美咲の声は震えていたが揺るがぬ強さがあった。智也は腕を広げて止めようとするが美咲はその手を振り切る。
「佐藤!追うな!」
「すみません!」
美咲は悠真の影を追い、路地の奥へと駆け出した。
智也はその背中をただ見つめ、夜の静寂の中で悔しげに唇を噛んだ。
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