闇狩人 紀氏悠真

無明のアヴィディヤー その四

その時、シュカの声が響いた。
「聞け、選ばれし十人の戦士よ。今からお前たちとわが主の意識を繋ぐ。今こそ秘められた力を解放せよ！」
「へえ、興味深い！」
陽菜が真っ先に反応する。
「それって私たちの潜在能力のことだよね？どうやるの？」
「他者の意識を繋ぐだと……どういうつもりだ」
亮たちも考え込む。
美咲は〈主〉という言葉にひっかかっていた。
――まさか紀氏悠真のこと？
「主様、どうぞ」シュカが促す。
「させないよ！」無明が迫りくる。
悠真の雰囲気が一変する。
「自然体――サハジャ」
「むっ！」
無明もそれを察し、凄まじい飛び蹴りを放つ。
しかしその瞬間
「ムルドウ・プラクシェーパ！」
悠真の投げが炸裂した。
「なにっ！？一瞬でこの高さに……！」
無明は驚愕する。
「これは相手の力を利用する投げか。ちぃ……まあいい、お手並み拝見といこう。パリークシャ・ダラ　――興味深い」
悠真は叫ぶ
「サンバンダム・スターパヤティ！」
ドクン――。十人の心臓が異様な鼓動を放つ。
「何これ！？」
「体が熱い……」
「それが意識が繋がるということだ」
シュカの声が響く。
「聞け、今お前たちは主と繋がった。力を解放せよ。そして主と同じ闇狩人となるのだ！」
「また意味不明なことを……力の解放？闇狩人？一体なんのこと？」
「それは俺から説明しよう」
悠真が姿を見せる
「紀氏悠真……！」
「聞け、時間がない。選ばれし十人よ、力の解放は自らの言葉でしかできない。さあ、唱えろ――サルヴァ・シャクティ・ヴィモーチャナを！」
「何を言ってるんだ、紀氏悠真。アニメや漫画じゃないんだ、真面目にやれ！」
亮が食ってかかる。
「説明は後だ！死にたくなければ力を解放しろ！〈クレーシャ〉には通常の武器は一切通じない！チトラカの防御も限界だ、急げ！」
十人が躊躇していると、さきほどまで戦っていた影のチータが次々と消え、人形たちが再び迫ってくる――。
悠真は奥歯を噛みしめた。
「くそっ、技を使ってもこの数を一気に倒すのは不可能だ……だがやるしかない！」
彼は構えを取り、低く呟く。
「蹴りの型――パーダ・プラハーラ・アーカーラ」
「雷の足――ヴァジュラ・パーダ」
次の瞬間、悠真の姿は刑事たちの視界から消え、迫りくる五体の人形をほぼ同時に蹴り飛ばした。
強烈な衝撃を受けた人形たちは互いにぶつかり合い、粉々に砕け散る。
その時、夜空に二発の銃声が響いた。
制服警官、陽向と隼人が拳銃を構え、
人形に向けて発砲していたのだ。
しかし弾丸は弾かれ、地面に転がった。
「弾丸が効かないだと！？」
「う、嘘だろ……！」
驚きと恐怖で二人が後ずさる。
その直後、銃弾を受けた人形が彼らに迫った。
「下がれ！」
悠真は雷光を帯びた脚で再び人形を蹴り砕き、
二人の前に立ちはだかる。
「言ったはずだ。通常の武器は通用しない。早く力を解放しろ！」
その言葉に応じたのは、意外な人物だった。
「なんて唱えれば良かったっけ？」
声を上げたのは鑑識課の陽菜。
「……今ので君の言ってることが本当だって証明されたね、なら従うまでよ。まだ死にたくないもの」
彼女は真っ直ぐに叫ぶ。
「サルヴァ・シャクティ・ヴィモーチャナ！」
眩い光が陽菜の体を包み込む。
「ねえ君、私殴ったり蹴ったりは苦手なの。何か武器はないの？」
「……ゴーラを使え」
「なるほど？ゴーラ！」
彼女の影から飛び出した黒い球体を陽菜は手に取り叫ぶ。
「武器変化――シャストラ・パリヴァルタナ」
黒い球体は刀へと姿を変える。
「へえ、いいじゃない。」
刀を構えた陽菜は力強く名乗った。
「闇狩人、加藤陽菜、行きます！」
「武装の型――アーユダ・アーカーラ」
「高速必殺斬り――ヴァジュラ・カットガ！」
彼女の動きは一瞬だった。鋭い斬撃が閃き、
四体の人形が同時に斬り裂かれる。
「ちょっと、あなた達！何を躊躇してるの？早く手伝って！」
語気を強める陽菜。
その変貌ぶりに、他の九人は驚きを隠せないでいた。
「今のは夢か……？」
「俺たちもああなれるのか？」
彼らが戸惑う中、美咲と光の目だけは違っていた。
「鑑識の加藤陽菜さん――あの人、かなり強い。スピードもそうだけど、あの斬撃……ただ者じゃない！」
光が頷く。
「美咲といい勝負ね」