闇狩人 紀氏悠真

サトリ

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運命の十人・パリークシャ・ダラ  その三

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 二人が会話を続けていると、一人の刑事が駆け寄ってきた。
「課長、負傷者の収容は進んでいますが……残念ながら助けられなかった人もいます」
「なに……!」
 報告に、吉田は思わず声を荒げた。
「すまない、全員を救うことはできなかった」
 悠真が静かに口を開くと、吉田は驚いてその顔を見つめる。
「課長、この青年は?」
 刑事の佐々木が問いただす。
【まずい……どう答える?この青年の話をそのまま伝えても信じてもらえないし……】
 吉田は答えに詰まった。
「すみません、実は……取材に紛れ込んだジャーナリストなんです」
 悠真がさらりと答えると、吉田は思わず言葉を失った。
【こいつ……堂々とそんな嘘を……】
「君、ここは関係者以外立ち入り禁止だ。早く出ていってもらおう!」
 佐々木が厳しい声をあげる。
「よし、こいつは俺が外へ連れ出す。佐々木、あとは任せたぞ」
 吉田は悠真の腕を取り、現場から離れようとする。
「課長、ご自分で行かなくても、私が」
 佐々木が申し出る。
「いや、いい。あとは頼む、すぐ戻る」
 吉田はそう言って悠真を引っ張り出し、現場をあとにした。
 吉田が悠真を規制線の外へ連れ出すと、記者たちが一斉に声を張り上げた。
「一課長、一体何があったんですか?」
「現場の状況、教えてください!」
「今この場で答えられることはない。こちらも対応に追われているんだ」
 吉田はきっぱりと言い放つ。
「一課長、そちらの青年は誰です?関係者ですか?」
「知らんよ。あんたらの仲間じゃないのか?」
吉田が軽く突き返すと、記者たちは一斉にざわめいた。
「なんだそれ!どこの記者だ?」
「おい、俺たちにも情報を回せ!」
「ちくしょう、先を越されたか……!」
ざわめく記者たちをよそに、悠真は落ち着いた声で吉田に問いかけた。
「吉田さん、この状況はあとどのくらいかかりそうですか?」
「状況が状況だからな。すべてが片付くには、朝までかかるだろう」
「わかりました。では後ほど合流しましょう。こちらも用事ができました」
悠真はそう言い残し、歩き出す。
「ちょっと待て!まだ答えを聞いてないぞ!」
「お前、一体誰なんだ?」
記者が追いすがろうとした、そのときだった。
「拘束――チャーヤーバンダハ」
悠真がそっとつぶやくと、周囲の影がゆらめき、記者たちの足元にまとわりついた。
「なんだ?足が重いぞ……」
「おい、俺もだ!」
「どうなっているんだ、あいつが行ってしまう!」
動きが取れずに戸惑う記者たち。
その中で、一人の女性記者が冷静な声を上げた。
「石川さん、あの青年を撮って」
「莉子ちゃん、撮れって言っても……こっちも動けないよ」
「足が動かなくても、手は使えるでしょ。カメラはまだ動くはずよ」
「……なるほど。でも、なんであんな奴を?」
石川蓮が首をかしげると、山下莉子はきっぱりと答えた。
「記者の勘よ。彼には何かある。必ず確かめてみせる」
その様子を見ていた吉田は、胸の奥に不安を覚える。
「あいつ……今、何をやった?本当に任せて大丈夫なのか……」
「課長!よろしいですか?」
現場から声がかかり、吉田は肩を揺らして振り返る。
「おう、すぐ行く!」
そう返すと、不安を振り払うように現場へと足を向けた。
それから数時間後、夜明けが近づき、吉田は静かに宣言した。
「よし、現場保存解除だ」
だが場の空気は重く、暗かった。
長年ともに戦ってきた仲間たちを失った現実が、誰の胸にも刺さっている。
体を震わせる者、堪えきれず嗚咽を漏らす者――悲嘆は現場のあちこちに広がっていた。



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