ふたりと独りの執着

たたらふみ

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変わらないことのありがたさ

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家に帰ると、明かりのない暗いリビングに西日が射して、今は心地のいい静寂がある。荷物を部屋に置き、いつも三人で使うソファに深く腰を掛ける。テレビをつけると、午後のワイドショーで芸能人のスキャンダルが報道されている。

『人気清純派女優のHさんが一般の男性との交際を発表されました。』

「へー、あの人が……意外だな。」

何もそういう雰囲気や匂わせの投稿をSNSで一切しないといわれていた女優の一般男性との交際、ネットで騒がれないわけがない。それ以外には特に面白みもない天気の話、交通状況の話がテレビの向こう側で繰り広げられる。スマホでインスタグラムを自然に開いてリール動画をスワイプし続ける。

『……こちら!最近、さすがに大きすぎると話題のパンケーキ店にきています。』

ふと、もう一度テレビに目を戻す。

(へー、おもしろそう。今度二人も誘って……)

勝手に考えが止まる。

(あいつら、付き合ってんのかな。だとしたらいつから……)

昼間の言葉が頭によぎる。

『3人でずっといるのって、何でも知ってそうで意外と知らないことありそうだよな。』

(本当に、あいつはどこまで鋭いんだか……)

少し、胸が重くなる。幼いころから一緒にいるから知っているつもりだった。それとも知ろうとすることをしていなかったのだろうか。

(俺だってあいつらに言ってないこと、あるしなぁ。)

それでも、自分たちの関係がスバルの知らないところで、しかも二人から言われるでもない形で知ることになった。スバルには、3人で幼馴染というが何よりも大切だった。秘密にされていたことがつらいのではない。スバルの望む形が、これ以上保てないと思い知らされたことが一番の苦痛だった。

—————————————————————————————————————————————————————————
『レン!アキ!俺たちずっと3人だからな!俺たち3人で幼馴染だ!』

幼い日の、いつかの記憶。この時にはすでに右脚がなかった。

—————————————————————————————————————————————————————————

音が聞こえる。なにか、焼かれているような。

「あれ……」

「あ、起きたのかいスバル。もうすぐで夕飯できるからテーブルの上、準備してもらってもいいかな?」

どうやら、ソファの上で座ったまま寝てたらしい。窓の外はすでに暗闇で街頭の明かりが窓から入ってくる。鼻腔を満たす肉の焼けた匂い、時刻を確認すると7時前。

「俺、いつから寝て……」

「さぁ?俺とレンが帰ってきたときにはもうぐっすりだったぞ。んなことより早く夕飯の準備手伝えよ。」

キッチンではレンが夕食を作っており、アキは洗い物をしている。

「あ、あぁ。悪い」

「謝らなくていいよ。今日は疲れてたんだろう?なら仕方ないよ」

レンからの気遣いの言葉が、今は沁みる。
テーブルを拭いて、食器を並べて、3人分のカトラリーを並べる。

「手伝いありがとう。もう料理できたから、アキと一緒に座っててくれ。」

洗い物を終えたアキと向かい合わせに座る。アキはいつもと変わらず料理を待つ間スマホをいじっている。いつもなら気にならない無言の時間が今日はやけに気になる。何も音がないと、俺を思い出しそうで。

「……アキは!……ッ今日、大学どうだったんだ。」

とっさに出た声が思ったより大きくて自分で驚いた。

「っくりした~。どうって、別に何も。いつも通りだよ。レンと大学行って、講義受けて、サークル行って。ただのいつも通り。……今日はスバルが朝いなかったけどな。」

いつも通り。レンとアキにとってはそう。スバルが勝手に日常を非日常に感じているだけだ。

「そうか。ならよかった。」

「なんか変なの?お前ほんとに大丈夫?なんかあった?今日は俺には何も言わずに先に行くしよ~。」

「だ、大丈夫だよ。俺もいつも通り。」

少し訝しげな顔をするが、スマホに視線を戻す。

「さぁ、ご飯できたよ。今日はちょっと奮発してステーキ買ってきちゃった。」

「おぉ、うまそ~!なぁレン、半分食べてもいいか?」

「あはは、だめだよ。ちゃんと3人で食べなきゃ。あ、あとアキはちゃんと野菜も食べること。」

「何だよお前~。なんか母さんみたいでヤダ。」

(ほんとに、いつもと変わらない。)

いつも見る光景だった。レンが夕食を作って、それをスバルとアキで待って、料理を運んできたレンにアキがわがままを言って、それをレンが静止する。毎日この食卓で見る光景だった。スバルだけが変わってしまったみたいに思えるくらい。もしかしたら、それが正しいのかもしれない。レンとアキにとってはあの関係でいることが日常で、それを知らなかったスバルが昨日から一人で勝手に日常を変えて。

「さぁ、たべようか。ほら、アキとスバルも手を合わせて。……スバル?」

「あ、あぁ。ごめんぼーっとしてた。」

「はい、じゃあいただきます!」

レンのいただきますの声と同時に、アキが真っ先にステーキを取りにかかる。

「アキ~、別にお肉は逃げないし、ちゃんとスバルと僕の分も残さないと怒るよ。」

「わ~ってるよ。」

「……ぷはは。お前ら、変わんねぇな。」

何も面白みもない風景なのに、思わず吹き出してしまう。

「な、なんで笑うんだよスバル!へんなやつ~」

「悪い悪い、何でもないんだ。ちょっと、安心しちゃって。」

そんないつもどおりがありがたい。変わらないことの安心感は何よりも代えがたい安寧でもある。

「そっか。ほら、早く食べないと冷めちゃうか」

そのあとは変わらない談笑と食事の時間。スバルの胸の中にあった重さも取れてなくなっていた。
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