ふたりと独りの執着

たたらふみ

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知らない

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電車で片道30分の道のりでスバルの大学に着く、そこはいつもと変わらない。夜のがまるでなかったような日常が広がってる。校舎の五階、第三講義室がスバルの授業がある教室だった。

「よっ!今日は一人なんだな!」

入って少し進んだ中央より席、そこがスバルと友人たちの定位置だ。

「今日は一人できたかった気分なんだ。相変わらずのんきにお菓子食ってんのな」

「あ、スバル聞いてよ。こいつさ~」

いつもと同じお菓子を食いながら講義が始まるのを待つヒロトとその隣でいつも通りヒロトの愚痴を垂れ流すショウ。この三人が大学に入学してからのいつものメンツだった。

「……ってことがあったんだけど、こいつそれ全然反省してねぇの!ありえなくね!」

「それは何度も悪かったって言ってるだろ~。お詫びにこのお菓子分けてやる。」

「ぷはっ、相変わらずばかしてんのな~。んで?こいつがなにしたんだっけ?」

「えっ!?いまの聞いてなかったのかよスバル、てかお前大丈夫か?顔色悪いぞ?」

どうやら、眠れなかったことが顔に結構出ているらしい。

「あ~、ちょっと昨日眠れなくてな。まぁ今日一限だけだし、
帰ったらすぐ寝るよ。」

「お前睡眠は大事よ~?なんたって俺が朝のお菓子よりも優先しているんだからな!」

「説得力ある説明どうも。」

正直なところ、今は家に帰りたくない。というよりも、レンとアキと顔を合わせたくない。あの光景がずっと頭のなかにこびりついて、雑音がしてきて。

「あ、教授きた。」

講義の内容は意外にも頭の中にいつもより入ってきた。オールすると、逆に元気になったり深夜テンションのようなもののせいなのか、それとも別の情報で上書きするためなのか。
————————————————————————————————————————————————————
二時間の講義はあっという間に終わった。時刻は昼前で朝食をよく食べていないから、空腹で少し気持ち悪い。

「二人は昼飯どこで食べんの?」

「僕は彼女との先約が」

「は~!?ショウ最近ずっとそれじゃね!?」

「へへー、僕と彼女は世界一のカップルなので」

「うわー、バカップル過ぎてむかつきもしねぇ。ヒロトは?いつも通り学食?」

「おう!俺は自炊ができないからな!」

なぜか誇らしそうに胸を張って言うヒロトの脇腹を小突く。

「じゃあここで解散だな。ショウ、別れたら盛大に慰めてやるからな。」

「別れてもスバルとヒロトには言わないし、別れる気もないです~」

ショウと別れて、ヒロトと学食に向かう。学食には昼前ということもあり、大勢の学生が、ご飯を片手に席を探したり、談笑しながら食事をしていた。

「あ、あそこ。ちょうど空いてんじゃん。」

そういってヒロトが指差した壁際の二人席に座る。

「なぁ、もしかしてなんかあったりした?」

「……なにかって?」

ヒロトは時々、いつもの能天気さから考えられない洞察力を発揮する。人が悩んでる時は、いち早くその気配を察知してタイミングを見計らって聞いてくる。

「いや、何かはわかんねぇけどよ。今日のスバル、授業は聞いてても集中はしてなさそうでよ。しばらく教授の話を聞いたと思ったら、急いでノート取り始めるのずっと繰り返してたろ?」

「……なんか、時々ヒロトが怖くなるわ。」

「は?なんでだよ。」

「あぁ、いやなんでもねぇ。……ちょっと考え事してて眠れなかったりしただけだから。」

「……そうか。まぁなんかあったらいつでも言えよな。この相談マスターのヒロト様に!」

相変わらず自己評価がとても高いヒロト。今はそんな、ヒロトのおかげで何も考えないでいられるからありがたい。

「調子に乗ってるんじゃねぇよ。」

デコピンをかましてやる。

「あいてっ。……この俺が心配してやってるのによ~」

「お前に心配されるほど俺は弱くねぇよ。」

「そうかぁ?結構でけぇ傷が痛えてそうなのに。」

(……ほんとにこいつは。)

「……ま、いっか。早く食べちまおうぜ。」

「おう。」

そのあとは、軽く話しながら楽しく昼食を終わらせる。そして、ヒロトが部活に向かうのでそれについて行く形で大学内を歩いていた。

「あ、そういえば今日はあと幼なじみふたりは?あの、なんだっけ、レオとアイ?」

「レンとアキだ。今日は……会ってないな。一応大学には来てるはずだけど。」

スバルとレンとアキは3人同じ大学に通っている。3人とも、同い年ではないから一緒に行こうと決めた訳では無いが、それぞれのやりたいことと諸々の都合があっていたために同じ大学になった。レンが最年長の大学3年、スバルが真ん中の大学2年で、アキが最年少の大学1年生。元々は、スバルがレンのところに転がり込む形で共同生活をしていたところに、アキもおなじ大学ということで2ヶ月前から3人でのシェアハウスを始めた。

「それにしても、お前たちほんと仲良すぎるよなぁ。偶然にしたって3人とも同じ大学に来るかぁ?実は、この大学に元々決めてました~的な?」

「んな訳あるか。ほんとにただやりたかったことと合っていたのがこの大学だってだけだ。」

(少なくとも俺はそうだ……。)

「ふ~ん。ずっと3人でいるのって、なんでも知ってそうで、意外と知らないことありそうだよな。」

(意外と知らないこと……。)

スバルは知らなかった、レンとアキが身体を重ねるほどの仲であることを。同じく2人も知らなかった、スバルがふたりのあいだに居続ける理由を。

「じゃあ、俺部活行ってくるわ。」

「お、おう。またな。」

1人になった。時刻は3時前。

(この時間なら、帰ってもふたりはまだ帰ってきてない……よな。)

いつもならなんの迷いもなく、帰るはずが今日は脚が動かない。いつもなら心を落ち着かせることができる場所なのに、今日は思い浮かべるだけで心がざわつく。脚がなくなってしまったように錯覚する。

(実際、右脚無いんだけどな。)

ひとりで嘲るように笑う。

スバルが右脚を失くしたのは小学5年生の時、いつものようにレンとアキと近所の大きい公園で遊んでいるとき、誤って崖から落ち、落ちた場所が悪くて下には太めの枝が生えていた。それは右太腿を貫通し、血管損傷と感染症のリスクのため切断が余儀なくされた。

(まだ鮮明に覚えてるもんなんだな。)

落ちていく途中に見たレンの顔、目覚めたら右脚が無くなっていた衝撃。お見舞いに来た、レンとアキの酷い顔。どれも頭に深く残る映像だった。

――つッ!

そのことを思い出すと未だに起こる幻肢痛、最近は軽くなったとはいえ、未だに痛くなる。

「――スバルッ!」

突然呼びかけられ、顔を向けるとそこには心配そうな顔をしたレンとアキがいた。
  
「……なんで……ここに」

「サークルに挨拶しようと歩いてたら、苦しそうなスバルが見えて……また、痛むのかい?」

「おい、スバル。お前、またあの時のこと思い出して……」

「……もう大丈夫。ほら、痛くないから立ってられるし!」

正直、スバルにも大丈夫かはわからない。もう慣れたことだから。しかし、今は二人の顔が見たくない、見られない。だからただ、早く立ち去ってほしい。

「ほら、この通りもう何ともない!ごめんな二人とも、アキも心配かけてごめんな。一応年上なのに」

笑顔を作って、アキの頭をなでようとするが躊躇うためらう

「ちゃんと、つらかったら言えよな。何も言われないの、腹立つ。」

「あぁ、ありがとう。ただちょっとお前生意気になったか?」

挑発するように笑って肘でつく。

「あはは、あんまりアキをいじめてあげないで、スバル。アキも、僕も心配してるだけだから。」

「あぁ、わかってる。なんたって俺の幼馴染だからな。お前たちのことは何でもわかるぞ。例えば、アキは朝に弱くて怖がりだとか」

「んな怖がりじゃないし!最近、ホラーも一人で見れるようになったし!」

「俺にトイレついてきてもらってるのにか?」

「それは関係ねぇ!」

「あはは、ほら二人とも喧嘩しないで。アキもそろそろサークル行くよ。じゃあスバル、またあとで。」

「あぁ」

そういって二人仲良く去っていった。スバルと二人の会話はいつも通りのものだった。残されたスバルが昨夜の出来事は、何か悪い夢のようなものでも見ていたのではないと勘違いしてしまうくらい。

だから何でも知ってる……な。」

言っててばかばかしくなる。現にスバルは二人がそういう関係だということを知らなかった。もちろん二人もスバルのことで知らないことはあるはずだ。なのに、自分だけ何も知らなかった。そういう被害妄想だけが膨らんでいく。
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