やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら

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家族の共通点


 最初のうちは、私を殺した義兄が恐ろしくて仕方がなかったのに、手を握られて参加者に心ない言葉を投げかけられる度にかばわれているうち、徐々に心臓の鼓動は落ち着いていった。

「お母様は庶民だとか」
「ええ……しかし、人格者である父が愛した人であることやアイリスの優しさからも素晴らしい方だったことが忍ばれます」
「まあ……そうかもしれませんわね」

 私が庶民の生まれだと揶揄する人たちが、次々と義兄の笑顔と言葉の前に退散していく。

(また庇われた。それにしても……この人、本当にお義兄様なのかしら)

 よそ行きの完璧すぎる笑顔を浮かべた義兄の横顔。
 元々神々しいほどの美貌なのに、こんなにも完璧な笑顔を創りあげられる人を義兄の他に知らない。

 やり直し前と少し違うのは、距離があまりに近いことと、無関心だったはずなのに私のことを庇ってくれること、そして私たちの手が離れないことだけだ。

(少しどころか違いすぎるわね。やっぱり違う人という線が濃厚かもしれないわ)

 私がやり直しているのだ。義兄の中身が違う人ということだって起こりえるかもしれない。

 そんなことを考えていると、招待客をもてなしていた父が戻ってきた。

「そろそろ、僕とも変わってくれるかな?」
「父上……」
「おやおや、君がそんな不機嫌そうな声を出すなんて。よほどアイリスのことが気に入ってしまったのかな?」

 父はいわゆる天然の部類に入る、と私は思っている。
 もちろん、当主としては有能だし高位貴族としてのよそ行きの顔を持っているけれど、家の中では家族に限りなく甘い父親だ。
 義兄の反応がどんなに薄くても、普段無表情だったとしても父は気にする様子もなく距離を詰めていた。

「そうですね……そうだったのかもしれません」
「おやおや……」

 父が楽しそうに義兄に話しかけている。
 義兄の声は掠れていたので、よく聞こえなかったけれど……。

(お父様は、お義兄様があまりに無関心だからとすぐに諦めてしまった私とは大違い……)

 記憶をたどってみても、いつも義兄は私から距離を取り、距離が近いときにも決して視線を合わせようとはしなかった。
 それでも義兄は、叔母や従姉妹のように私に嫌がらせをしたり嫌みを言ったりすることはなかったから、きっといつか歩み寄れると信じていた。

(でも、よく考えてみれば無関心ということは嫌いよりも悪いわよね……私に興味を持つことができないほど嫌ということだもの)

 ましてや私がここにいるのは、義兄に殺されてしまったからなのだ。

(あのとき、どんな顔をしていたのだろう……やっぱり、無表情だったのだろうか)

 そんなことを思っていると、ずっと強く握られていた手から解放された。
 ホッとすると同時に、なぜか寂しく思ってしまうのはなぜなのだろう。

(それはきっと、私が人の温もりをずっと求めていたからね)

 今から三年後に馬車の事故で死んでしまう父。
 この家に来る直前に病で儚くなってしまった母。
 記憶の中でこの二人だけは、いつも無条件に愛を与えてくれた。

 それからの三年間、いつも気を張り詰めて生きている私に温かい手を差し伸べてくれた人は一人もいなかった。

 この家に来たばかりの頃は、戸惑うことばかりだった。
 父が私が生まれたことを知らされておらず、ずっと母のことを探していたことを知らなかったから『どうして今さら』とさえ思っていた。

 父が両手を差し出しているのを見て、義兄から離れて歩み寄る。
 今の私は、父が母を心から愛していて、私のことを守ると心に誓っていると無条件に信じられる。

「お父様!」
「アイリス!?」

 勢いをつけて飛び込めば、強く抱きしめられた。

「お会いしたときは驚いてしまって言えなかったけれど、ずっと、お父様がいたら良いな……と思っていたのです」
「アイリス……」

 父の声は少しだけ涙ぐんでいるようだった。
 けれど見上げてみれば、私を見つめる父はよそ行きの笑顔のままだ。
 優しく手を引かれて広間の中心に歩み出る。
 今日の式典は父と私のダンスで締めくくられる。

(さっき初めてお義兄様と踊って驚いたわ。お父様とお義兄様のダンスのリードは、とてもよく似ている)

 私がここに来る三年前に養子になった義兄も、並々ならぬ苦労があったのだろう。
 そして、ダンスだけではなく全て父を見本にして努力してきたに違いない。
 今思い返してみれば、義兄の行動は父と重なる部分が多い。

(わかり合えたら……よかったのに)

 ダンスの最中、会場の端にいる義兄の姿が目に入った。
 義兄は腕を組んで、こちらをじっと見つめていた。
 一瞬だけ視線が交差した気がする。少しだけ金色の瞳が弧を描き義兄が微笑んだような気がしたのはきっと見間違いに違いない。

「おやおや、ダンスの最中に他に気を取られるなんてひどいじゃないか」
「きゃ……!?」

 いたずらっぽく笑った父が、私を抱き上げてクルクルと回った。
 父の顔を見つめる……私と同じ淡い紫色の瞳がじっと私のことを見つめていた。

(今世は前回の人生と何かが違うのかもしれない)

 それはあくまで希望的観測だ。
 羽根のように舞いながら踊れば、参加者たちが盛大な拍手をしてくれる。
 私の披露式は、失敗ばかりだった前回と違い歓迎と賞賛の中、幕を閉じたのだった。
 
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