やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら

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舞踏会の夜は更けて


 そのあとも、義兄は私の手を握ったままだった。

「ずっと手を繋いでいるなんて……会場中の注目を浴びてしまっていますよ」

 いつあらぬ噂が流されるかわからない。もしそうなった場合、私はともかくこれから宰相候補となる義兄の足を引っ張ってしまうだろう。

「……嫌か?」

 義兄がポツリと呟いたので、私は慌てて首を振った。

「嫌ではないです。でも、もしも良くない噂が流れたらお義兄様に迷惑をかけてしまいます」
「そんなことが理由なら、この手を離す必要はないな」

 義兄の唇がゆるく弧を描いた。

(ずっと近づきたいと願っていた。本音を言えばお義兄様とようやく家族になれたようで嬉しい……)

 義兄の中身が別人になってしまったのでないなら、やり直し前の態度にはなにか理由があったのかもしれない。私はそう思い始めていた。

「でも……」
「それならこうしよう」

 義兄は私から手を離し、代わりに腕を差し出してきた。そっと、その腕に手を添える。

「そうですね。これなら、初めての公式の場で兄にエスコートされる妹に見えると思います」
「……」
「お義兄様……?」

 義兄は微笑んでいるのに、どこか悲しそうに見える。

「……行こう、父上が心配のあまり陛下への挨拶の列から抜け出してしまいそうだ」
「えっ、まさか」
「そのまさか、だ」

 視線の先、父は本当に列から抜け出してしまいそうに見える。慌てた私は、兄の腕を強く引く。

「早く行きましょう、お義兄様!」
「そのほうが良さそうだ」

 父が並ぶ列に近づくと、可愛らしいクリーム色のドレスに身を包んだ、私の専属侍女リリアンがいた。

「リリアン! ……あっ、いいえカーラー子爵令嬢、ご機嫌よう」

 いつも三つ編みにしている髪をゆるやかに巻いて、化粧をしたリリアンはとても美しかった。

「はい、ヴェルディナード侯爵令嬢におかれましてはご機嫌麗しく」
「ふふ、何だか照れくさいわ」
「そうですね。どうか私のことはリリアンとお呼びください。……でも、遠目に見ておりましたが、ダンスも礼儀も素晴らしいものでしたわ」
「ありがとう」

 リリアンがニッコリ笑って褒めてくれる。私は嬉しくなって、満面の笑顔になった。

 リリアンとの会話を楽しんでいると、父が陛下への挨拶を終え、早歩きで戻ってきた。

「カーラー子爵令嬢、娘を借りても?」
「もちろんですわ。それでは、またお屋敷でお会いしましょう」
「ええ、リリアン」

 リリアンは軽く礼をすると去って行った。

「舞踏会が終わってしまう」
「お父様?」
「ファーストダンスを譲ったのだから、僕とも踊ってもらうよ」

 父は優雅に礼をして、私に手を差し出してきた。
 そっと手を取ると、思いの外力強く引き寄せられる。

「……アイリスは可愛すぎて周囲の目を惹いてしまうから、僕の大事な娘だってことを知らしめておかないと」
「まあ……お父様ったら」
「いつかわかるときが来るだろう……それまでは僕が守ってあげるからね」

 ニッコリと微笑んだ父の表情にひととき見惚れた。
 ふと、義兄が披露式のときのように一人になっているのではないか、と心配になって視線を送る。

 義兄はすでにたくさんの人に囲まれてよそ行きの笑顔を浮かべていた。

(そうね、私が心配することではないのかも)

「本当に僕の子どもたちは……」
「きゃ!?」
「さあ、今は僕だけ見るんだよ?」

 いたずらっぽく笑った父のダンスは、今日も身長差を感じさせないほど完璧だった。

「……アイリスが大きくなった、そのときにも踊ってほしいな」
「……っ、お父様」

(このままでは、三年後にお父様はいなくなってしまう。でも、そのことを知っている今なら……)

「ええ、そのときもきっと私を誘ってくださいね」
「もちろんだ」

 必ず助けると決意した瞬間、いたずらっぽく笑った父に抱き上げられた。

「ほら、今はダンスを楽しもう」
「ええ、お父様!!」

 舞踏会の華やかな夜は終わりを迎える。きっと今夜は新たな運命の始まりなのだろう。

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