やり直し令嬢ですが、私を殺したお義兄様がなぜか溺愛してきます

氷雨そら

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父を救うために


 * * *

 ――私がやり直してから、約三年が経過した。

 義兄は、現在は宰相補佐として父の仕事を手伝っている。

(お義兄様は、やり直し前はお父様が亡くなってから二年経ってようやく宰相補佐の地位に立った。早い……早すぎるわ)

 約三年の間、義兄は王都に、私は領地にいることが多かった、
 だから義兄とは時々王都の屋敷で時々会って言葉を交わし、貴族としての参加義務がある夜会でエスコートしてもらったくらい……やり直し前と比べればよほど近しい関係とはいえ、ごく普通の兄妹の関係だろう。

(なぜか、今回私たちは婚約していないし……)

 それでも女主人の鍵を手に入れてから、屋敷の中での私の待遇も前回の人生とは大きく変わっている。
 伯母のバルバローゼは、嫌みを言ってきていたが、ほとんどのことが従姉妹のルシネーゼよりできてしまう私に次第に何も言えなくなっていった。

 以前は伯母と一緒に私に対する嫌がらせをしてきた侍女長は、私の食事に毒物を混入しようとした疑いで義兄の手によって罰せられた。今は私に好意的な侍女長が就任している。
 それに、執事長も以前と違い私のことをこの家の長女として遇するようになっていた。

 父と義兄に私が大切にされていることが目に見えるからなのか、私の振るまいが以前と違って貴族らしいものだからなのか……その理由はわからない。

「お義兄様!」

 階段を降りてエントランスホールへ向かうと、すでに義兄は出立の準備を整えていた。

「……荷物が多いですね。今回は長いお出かけになるのですか?」

 義兄は一週間程度の旅の準備をしていた。
 手袋をはめながら、義兄が金色の目で私をじっと見つめた。

「建国祭までには戻る」
「そうですか……どちらに行かれるのですか?」
「――――ヴェルディナード侯爵家が新たに手に入れた鉱山を視察に」
「そうなのですね」

 本来であれば、今日この日、義兄は王都の屋敷に滞在し出掛けている父の仕事を代行していたはずだ。そして私は領地であいかわらず伯母に嫌がらせをされながら過ごしていた。

(こんなことも変わってしまっているのね……。でもお義兄様は以前よりもヴェルディナード侯爵家の仕事を任されているからそんなこともあるわよね)

 義兄が近づいてきて私の頭にそっと手のひらをのせた。

「ずいぶん背が伸びたな……」
「そうでしょうか」

 確かにこの三年間で私の背は伸びた。
 栄養を取っているおかげか、以前よりも少しだけ発育が良いかもしれない。
 それでも、義兄との差はあいかわらずで、見上げるようにしないと目線が合わせられない。

「――今、幸せか?」
「……え?」

 義兄が私の頭を撫でながら、ポツンと呟いた。
 どうして、そんなことを聞くのかと私は首をかしげる。
 けれど、答えは一つしかない。

「はい、とても幸せです」
「それは良かった」

 義兄がとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
 一瞬だけ心臓の鼓動と時が止まったように感じながら、その笑顔を見つめる。

「では、行ってくる」

 義兄は私から視線をそらすと、出掛けてしまった。
 私は、黙って後ろ姿を見つめると踵を返して自室へと向かう。

 ――お父様は今日、国王陛下の命で視察に向かった先で乗っていた馬車が崖から転落して命を落とす。

 王命だからおいそれと断ることはできないだろう。
 それでも、信頼厚い父が王命を断ったとして、厳罰が下る可能性は低い。

(厳罰を与えられたとしても、命があってこそ……。何としても、お父様が出掛けないように足止めしてみせるわ!)

 私を取り巻く環境は、やり直し前と大きく変わった。
 けれどその一方で、歴史を揺るがすような出来事や人の死は変わることがなかった。

 だから、もしかしたらこれは無駄なあがきなのかもしれない。

(ううん……弱気になってはだめ! 絶対に助けるんだから)

 私は決意を固め、病人に見えるように唇と頬の赤みをおしろいで消し、わざと髪を乱した。
 そして父がいるはずの執務室へと向かったのだった。
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