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閑話 父と義兄の会話 2
しおりを挟む「どこまで続いている、ですか……。それについては、恐らく今から三年後まででしょうね」
「三年後、何が起こったんだい?」
「俺の見る夢は断片的なので、最後に何が起きたのかはアイリスに聞かねばわからないですが……」
シルヴィスは、黙り込んでしまった。
恐らく、思い出したくもないような出来事だったのだろう。
「語り合うには少々飲み足りないな」
フィルスは棚から水晶の原石のように煌めく瓶に満たされた酒を取り出し、シルヴィスと自らのグラスに注いだ。
「……夢の中で、俺は死を覚悟していました」
「それはなぜ」
シルヴィスが、そのまま黙り込んでしまったためフィルスは話題を変えることにした。
「ところでこれは秘蔵の酒なんだけど、夢の中で飲んだことがあるかな?」
「ええ……一度だけ」
フィルスはシルヴィスのグラスに軽くグラスをぶつけた。静まり返った部屋にチンッと音が響き渡る。
「ふーん。夢の中では君とアイリスは婚約していたのか」
「父上……なぜそれを」
「だって、この酒はこの世に一本しかないし、本当に特別な物だから君たちの婚約祝いに飲もうと決めていたんだ。今夜は僕たちが無事だった祝いとして特別だ」
「……そう、でしたか」
フィルスは、グラスを傾けてかぐわしい香りを楽しんだ。
シルヴィスも、物憂げにグラスを揺らした。
「話を変えようか。アイリスを守りたいのなら婚約したらいい、という僕の提案をなぜ断ったんだい?」
「……父上の仰るとおり、夢の中の俺はアイリスと婚約しました。けれど婚約したにもかかわらず、その後も彼女から距離を置いていました」
「嫌いだったからではないだろう? 現に君は……」
「ええ、一目見た瞬間からアイリスを守りたいと思いました。それと同時に自分がそばにいたらきっと彼女も不幸になると強く思ったのです」
「守りたい、ねえ。しかし、夢の中では婚約を受け入れたのだろう?」
「婚約したことを公にしなければ、アイリスは第三王子の愛妾にならざるを得なかった……だが、今の父上ならばその提案をはね除けられるでしょう」
「なるほど、確かにどんな手を使おうと阻止するだろうね」
「婚約をする必要はありません。……アイリスが幸せになれるよう、今度こそ良い兄になろうと思います」
そう言いきると、シルヴィスはもう一度グラスを空にした。
「そう……君がそう望むなら。けれど、君はその立ち位置に満足できるのかな」
「……」
「いつかアイリスがほかの誰かと婚約し、君以外の人の隣で笑っていたとしても」
「もちろん構いません。俺はアイリスの兄ですから。どうか婚約の話はなかったことにしてください」
シルヴィスがそう言いきった直後、締め切られていたはずの扉がギシリと小さく軋んだ。
「アイリス……」
「……」
シルヴィスが扉を開くと、そこにはアイリスが俯きながら立っていた。
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