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求婚
* * *
王城のホールは人にあふれていた。
それもそのはず、建国祭の舞踏会は国中の貴族か一堂に会するのだ。
ファンファーレが鳴り響いた。
国王陛下がいらしたため、礼をする。
「どうか面を上げ、建国祭を楽しんでくれ」
その言葉に、私のそばにいた父は「シルヴィスから離れないように」と告げて挨拶の列へと向かった。
(それにしても、夜会に参加するたびにお義兄様がピッタリとついてくるから、誰ともお話しできないわね)
私は庶子なのだから、わざわざ近づきたい貴族令嬢は少ないかもしれない。
けれど、社交の輪を広げておくことは大切なのではなかろうか。
義兄の巧みなエスコートで会場の中心へ歩み出ながらそんなことを考える。
「俺から離れないように」
「わかりました」
少々物々しい警備体制だ。
そして私たちが、好奇の目に晒されているのは間違いない。
(父の命を狙ったとして、伯母のバルバローゼは投獄された。我が家は今、噂の中心よね)
そのとき、ファンファーレが鳴り響いた。王族の登場に一同が礼をとる。
「久しぶりだね。以前お会いしたときより美しくなった」
(どうして私に声をかけてくるの?)
初めて参加した建国祭で声をかけられて以降、第三王子サフィール殿下が私に近づくことはなかった。
「皆、どうか顔を上げてくれ」
ゆるゆると顔を上げた貴族たちが、固唾を呑んでこちらを見ているのがわかる。
それはそうだろう、最初に声をかけられたときは私はまだ広く知られていなかった上に、12歳の少女だった。
けれど今はもう15歳。
この国では、間もなく成人し結婚することもできる年齢だ。
――しかも庶子とはいえ、高位貴族の子女でこの年になっても婚約をまだしていないのは珍しい。
――そして、第三王子殿下もいまだ婚約者がいない。
そんな状況で、第三王子殿下は私に声をかけた。しかも義兄よりも先に。
おそらく明日には、私と第三王子に関する噂が駆け巡るに違いない。
「シルヴィスも元気そうで何よりだ」
「サフィール殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」
なぜか義兄は、私をエスコートしていた手に力を込めるとぐいっと引き寄せた。
「おや、アイリス嬢に話があるのだが……送った書簡が、今朝届いたと聞いている」
「今朝書簡を送ってきて、舞踏会の最中に声をかけるなど、あまりに急ではありませんか」
「そうかな? 善は急げと言うじゃないか。君たちにとっても悪い話ではないだろう。アイリス嬢を俺の妃にしたいという申し出は」
その瞬間、舞踏会の会場が静まり返る。
私は信じられないその言葉に、思わず表情を隠すため広げていた扇を取り落としてしまったのだった。
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