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家族以上恋人未満
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あの日から、私たちの距離は……。
(全く縮まっていません)
そもそも、家族と恋人はどちらの距離が近いのだろう。
「家族の距離の方が近い気がするの……」
「そうか? 僕はそう思わないけどね」
「ひっ、お父様!?」
領地のお屋敷の執務室で、独り言を言ったつもりだったのに父の声が急にしたため驚いて肩を揺らす。
「恋人と恋人の距離は近いさ……つまり君たちは恋人未満ということだ」
父が私と同じ淡い紫色の瞳を細めた。
「恋人未満……」
「はあ、僕ももう少し君に色々教えてあげるべきだったのか……でも、君がここに来るまでにもっと教えておいてほしかったな……」
「いろいろ?」
「僕の最愛の人、つまり君の母親に対しては、どうして信じてくれなかったという気持ちだけだったけど……君にもう少し、さ」
「――お父様はお母様のことを愛していたのですよね?」
「もちろん……全てを捧げることを決意するほどに」
「だからですよ」
お母様の気持ちが今は少しわかるのだ。
ヴェルディナード侯爵家の血がなせるものなのか、その愛は少々重い。
自分の身を犠牲にして、愛する人を守ろうとするその姿は、美談として語られるかもしれないけれど……。
「幸せになってほしい……ただ」
「……そうだね。僕と彼女はそういう点がよく似ていたに違いない」
「……お父様」
「そして、僕と彼女の血を等しく引いた君はもっとそうなのかもしれないね」
「私が……?」
私はいつも自分のことで精一杯だった。
もしかしたら、もう少しだけ義兄のことを慮れば、違う未来があったのかもしれないのに。
(一人で戦わせてしまった……今ならそう思うのに)
苦しい状況で誰かを思いやることはとても難しくて。
でも、義兄はいつだって私のことを……。
「お父様……大好きです」
「はは、突然の愛の告白かい?」
「ええ、お父様が生きていてくれることがとても嬉しいです」
「そうか……それなら、君が知っている未来を覆すために力を尽くそう」
父のことをまっすぐ見つめる。
「だが、僕はあくまで裏方だ。幸せにおなり」
「お父様……」
義兄と私の距離は近づかない。
手を繋ぎ、笑い合い、同じ時間を過ごす……その時間は幸せなのに、それだけでは足りない。
「もうすぐ、シルヴィスが王都から帰ってくる。出迎えてあげなさい」
「ええ……お父様」
身につけるのは、お義兄様の金色の瞳をイメージした月のようなアクセサリーだ。
三日月は、微笑んだ義兄の目のようだ。
耳につけたイヤリングがシャラリと揺れる。
エントランスホールで今か今かと帰りを待つ。
(宰相代理として働くお義兄様……。活躍は目覚ましいものだけど)
心配になるのだ。私と出会ってしまったために、いつだって負担を掛けているのではないかと。
「――なんて顔しているんだ」
「……っ、お義兄様!」
「シルヴィスだと言っているだろう」
「……シルヴィス様」
――少しだけ変わったのは、その腕の中に飛び込むことができることだ。
だって、いつだってその腕は私を抱き留めてくれるのだから。
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