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婚約式
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そして、私たちの婚約を公に発表する式の日が訪れた。
「シルヴィス様……」
緊張のあまり、ギュウギュウと腕にしがみついていると義兄の軽い笑い声が聞こえた。
「ひどいです」
「そうだな……だが、あまりに可愛らしくて」
今日の私たちは、日が暮れる直前の淡い紫のそらに浮かんだ月、そしてヴェルディナード侯爵家の紋章であるつる薔薇をイメージした衣装に身を包んでいる。
見上げた義兄は白を基調に月のような金色の装飾と淡い紫色の宝石を身につけている。
私は淡い紫色のドレスに月とつる薔薇をイメージしたアクセサリーを身につけた。
式典にはたくさんの人たちが招待され、まるでヴェルディナード侯爵家の王国での影響力を現すかのように豪華絢爛だ。
(やり直し前、ヴェルディナード侯爵家は一流貴族だったけれどここまでの影響力はなかったはず)
けれど、父と兄の行動が代わったせいなのか、今や日々のパン一つ、毎日使う道具一つすらヴェルディナード侯爵家が関わっていないものはないと言われるほどだ。
「……たくさんのことが変わりました」
「やり直したという人生の話か? 確かに、夢の中とはずいぶん違うな」
「シルヴィス様は、今でも夢を見ているのですか?」
「――ああ」
何をどこまで見ているのか問いつめてしまいたくなる。
けれど、きっと義兄が私に対して思っていることも同じに違いない。
「夢の中の俺は、きっとアイリスのことを守り切れなかったのだろうな」
「――シルヴィス様」
命を守るという意味では、守れなかったどころか私は義兄の魔法で最終的に絶命した。
事故だったのだろう、けれどいつも完璧な制御を誇る義兄の魔法が私の胸を刺し貫いた理由はまだわからない。
「……夢の中の俺は、出会った瞬間アイリスに恋に落ちた。だが、父と母の最期の言葉が足かせとなり、自分が関われば君も不幸になるという考えに囚われていた」
「――そう、だったのですね」
出会った当初、義兄はまだ十八歳、私は十二歳だった。
二人とも幼くて、運命の荒波にたやすく飲まれてしまったのだろう。
「けれど、婚約式が決まったとき、アイリスを幸せにしようと決めた。だが、父上の死のあと俺は……」
「シルヴィス様……何かあったのですか?」
「夢は断片的で、何一つ確証が得られない……しかし」
「第三王子殿下……が関わっているのですか」
「……」
第三王子が義兄の王立学園試合の成績も、その後も受けるべき文官としての賞賛も全て奪っていたことを今の私は知っている。けれど、今回の人生では王立学園の首席は譲ったものの、その他のことは阻止できているはずだ。
「……今日の婚約式には、王族代表として第三王子が参列する予定だ」
「……そうですか」
なぜ、第三王子がそこまで義兄にこだわるのか……それは本人にしかわからないことなのかもしれない。私を愛妾に、そして妃にしようとしたのは私を愛しているからではないだろう。
そのとき、義兄が真っ直ぐに私を見つめてきた。
耳元のイヤリングに、義兄が愛しげに触れた。
(このイヤリングは、お義兄様の瞳を思い浮かべながら選んだの……気がついてくれたかしら)
少しずつ近づく距離に気がついて目を瞑る。
柔らかい感触と離れていくときの吐息に頬を染める。
「行こうか」
「はい」
歩み出した私たち……まるでこれからの歩みを祝福するみたいに、耳元の月のモチーフのイヤリングがシャラリと揺れた。
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