婚約破棄されて幽閉された毒王子に嫁ぐことになりました。

氷雨そら

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大神官と先代聖女 2


 暴れだしてしまった恩恵と、周囲の悲鳴。壊されていく建物、サイラスの周囲には何も残らない。

 そんな自分によって創られた廃墟に佇むサイラスに、聖女が手を差し伸べなければ、サイラスはこの場所にいるはずもない。
 周囲の反対を押し切った聖女に連れて来られ、神官になり、祈りを捧げるようになってから、ようやくサイラスの破壊の恩恵は、コントロールができるようになった。

 だからこそ、サイラスは祈り続ける。
 目が覚めている時はいつでも、その心は祈りを捧げ、夢の中でも祈り続ける。

「――――聖女と大神官は一対。選ぶのは精霊王だわ。新たな聖女が生まれれば、新たな大神官も選ばれる」

 それは、敬愛する聖女が、いなくなるということだ。
 信じられない気持ちで、シグルの母であり、忘れ去られた王妃である聖女を見つめる。
 だが、いつも王城の奥深くにある、聖女のための祈りの部屋、その地下で暮らし、決して表には表れない聖女が、この場所に秘匿されて育った第一王子シグルを連れてきている。

 まだ幼いシグルは、眠っていた。
 8歳ぐらいなのだろうか。ほとんど出たことのない外の世界につかれてしまったのかもしれない。

「あなたに会うために、久しぶりに表に出てきたの」
「――――聖女様、第一王子殿下」
「……あの部屋に結界を張るわ。そして、精霊を呼び出す」
「そんな、どう考えても、今のお体では」

 どう考えても、精霊の恩恵も、魔力も、そこまで残されているようには見えなかった。
 精霊を呼び出すなんて、数世代に一度くらいしか聞かない。

「それでも、しなくては……。私がいなくなれば、シグルの毒を抑えることが出来る人間は、しばらくの間いなくなる。王家はシグルを今度こそ殺すでしょう。でも、シグルが精霊を呼び出すことが出来れば、だれも傷つけることなんて出来なくなる」

 もう、覚悟は決まってしまったらしい。
 サイラスは、人生の恩人の前に膝をついて祈りをささげる。
 それは、初めて、誰か個人のために捧げられた祈りだった。

「――――サイラス、お願い。あなたは大神官に選ばれるわ」
「聖女様」
「時が来たら、真実を見極めて」
「――――それは」

 その瞬間、確かに聖女は微笑んだ。
 それは、いつも彼女がかぶっている聖女の微笑みなどではなく、もっと慈愛に満ちた、本当の笑顔だった。

「それから、きっとあなたも夢中になるわ。新しい聖女様は、本当に可愛らしいもの」

 その言葉を最後に、先代聖女は大神殿を去る。
 その死は、誰にも知らされることはなかった。

 サイラスの夢の中で、精霊王が新しい聖女の誕生を告げる。
 そして、王都に舞い散った金色の薔薇の花弁のような光は、一人の少女を指し示す。
 それは、先日サイラスが、まるでかつて自分が立っていたような廃墟から助け出した、一人の少女だった。

 ***

「おーい、戻ったぞ? なあ、祭壇壊れかけてるぞ?」

 その声に、サイラスは長い回想から解き放たれた。ルシェロが言う通り、祭壇は一部が壊れてしまい、少し触るとボロボロ崩れ落ちる。

 気を抜いてしまえば、すぐにでもサイラスの破壊の恩恵は暴れだすのだ。
 本当に、なぜ精霊王はサイラスに、こんな恩恵を与えたのだろうか。

 そして、目の前には、なぜか似合わない神官服を身にまとったルシェロが、所在なさげに立っている。

「……なあ、ほかの服ないのか?」
「私たちに、装うための服など必要ありませんから」
「……あの精霊執事が、なぜ俺に聖女のドレスを頼んだのか、ようやく理解できた」
「は? なんのことですか」

 たしかに、サイラスに頼んだところで、届くのは飾り気一つない聖女の白い衣装だけに違いない。
 その姿は神々しくて、ルシェロは嫌いではない。
 だが、年頃の恋する乙女にそれだけなんて、あんまりではないか。

「――――とりあえず、今のところはこれで我慢するか」

 話さなくてはいけないことが、お互いにあるのはわかりきっている。

「では、こちらで」
「酒でも出るか?」
「そんなもの、ここになるはずないでしょう」
「ん、わかっているが、言ってみた」

 あまり人と関わりを持たないサイラスだが、ルシェロには、なぜか気安く接してしまう。
 認めたくないが、人徳というものなのだろう。

「――――酒はないですが、お茶くらいはありますよ」
「ありがたい」

 それだけ、会話を交わすと、ルシェロとサイラスは、ミシェルが眠る私室へと姿を消したのだった。
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