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第1章
運命の赤いリボン 1
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村に入る直前、境界石の前で、「これは違う」と思った。
流行病では、なかった。この村は全体が呪いに侵されている。
村全体が、まるで薄緑色の光にまとわりつかれているみたいだ。
「これは……」
騎士として、高い実力を持つレナルド様も、異変に気がついたようだ。
無意識なのか、私をかばうように前に立つと、剣の柄に手をかけた。
カチャリという音に、否応なしに緊張が高まっていく。
「あの、いつだったか、骸骨を操っていた死霊術師のいた場所に、似てませんか……」
「……聖女様が、そう仰るのであれば、その通りなのでしょう」
あの薄緑色の光には、見覚えがある。
村人たちが次々に行方不明になっているという情報を受け、現場に駆けつけた私たちは、洞窟の奥で死霊術師と対峙することになったのだった。あの時に、洞窟の中を満たしていた光にとてもよく似ている。
本当に、あの時ばかりは、泣いて逃げ出したいと思った。
それでも耐えられたのは、レナルド様が、出来る限り骸骨が私から見えないように、戦ってくれたからだ。私は、レナルド様の背中の後ろから、必死になって浄化魔法を唱えた。
昔からホラーゲームは苦手なのだ。
本当に勘弁してほしい。せめて、呪いだとわかっていれば、みんなにも一緒に来てもらったのに。
剣聖ロイド様なら、操られた骸骨兵なんて、聖剣で簡単にやっつけてくれるのに。
それに、呪いが原因だとすれば、そこには、必ず呪術をかけた側の存在がいる。
病気さえ回復魔法で治癒すれば済む、流行り病とは根本的に危険度が違う。
「……一旦引き返しましょう」
レナルド様の、大きな手が、珍しく私の手に触れて、軽く引き寄せてくる。
それは、普段の余裕のあるレナルド様の行動とは、どこか違った。
でも、ここまで来るのに、2日間。
王都に引き返したら、ここにたどり着くには、最低でも往復4日間はかかってしまう。
「レナルド様。王都に戻ったら、被害が拡大してしまいます。聖女の魔法を使えば、一人ずつだけど、浄化できるはず。……私は残ります」
「っ……原因がわからない、危険です。それに、イヤな予感がします。王都に戻りましょう」
この時、レナルド様の言葉に従うべきだった。
けれど、その通りにしていたら、この小さな村だけではなく、王国全体が瞬く間に危機に陥っただろう。
もしも、選択肢の先を私が知っていたなら、何を選んだだろうか。
レナルド様のことを、巻き込んでしまうことと、王都の危機……。もしかしたら、その両方を天秤にかけてしまって、身動きが取れなくなっていたのかもしれない。
「――――レナルド様。このまま戻っても、往復4日はかかります」
「お気持ちは、変わらないのですか?」
いつもであれば、私の選択に異議を唱えるなんてことをしないレナルド様。
きっとこの時点で、この後の展開を予感していたのだろう。
「……ここで、助けることができた誰かを見捨ててしまったら、本当に私がこの世界に来た意味が、なくなってしまうから」
「聖女様……。では、約束してください。もし、大きな危険が訪れたら、逃げると」
「そうね。もちろん、逃げるわ」
「――――何があっても、お守りします」
レナルド様が、私の黒い髪の毛を、そっと撫でた。
その手は、温かくて、大きくて、緊張のせいで息を詰めていたことに気が付かされる。
深呼吸をした、私の左肩の上で、シストは今日も、クルクルと回り続けている。
でも、なぜか、先ほどから黙ってしまったままだ。
いつもだったら、レナルド様と話をしていると、何かしらの合いの手を入れてくるのに。
不思議に思いながらも、村の入り口に足を踏み入れる。
その瞬間、気味が悪い光に包まれていながらも、穏やかな村という様相だった景色が様変わりした。
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