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第4章
嘘をつけない魔術師と喋らない剣聖
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「魔獣がスタンピードを起こした? 聖女がいない? 守護騎士は?」
国王陛下が、今日何度目かの怒りを爆発させる。飛んできた高価なグラス。そっと、ため息をついて、魔術師ミルは、風魔法でそのグラスをふんわり受け止める。
「陛下、急ぎ騎士団の編成を。剣聖の指揮下に」
「王族を守る人間がいなくなるではないか」
「…………分かりました。私たちにお任せくださいませ」
美しいカーテシーを披露して、謁見室を去る。
ため息が出る。魔獣が発生すれば、他の世界から無理に呼び出した聖女を最前線に立たせるようなこの国に。
「私は、魔術師なんだけど。どうして、ドレスを着て謁見しないといけないのかしらね?」
「似合う」
「あら、ロイド。珍しいわね。あなたがそんなふうに褒めるなんて。どういう風の吹き回し?」
「事実」
「……ほんと。珍しいわ」
そう言いながらも、まんざらでもないようにミルは、頬を軽く染めた。
伯爵令嬢という肩書きも、貴族令嬢というだけで、溢れる魔力の才能は、認められることもなかった幼少期。
ミルたちは、訳ありだ。
誰からも認められることもなく、その才能を時間の中に埋もれさせようとしていた。
剣聖ロイドだって、『早く産まれすぎた無意味な天才』と、その努力も、才能も認めることがなかった。それ以上に、幼い頃、その称号を邪魔に思う貴族に攫われて、一時期行方不明にすらなっている。
それなのに、そんなミルたちを、聖女様を、魔人の襲来が早まった途端、当然のように最前線に立たせようとするこの扱い。
「……それでも、戦ってやるわ。ただし、護るのは、聖女様を受け入れてくれる人間だけだから!」
それにしても、危ないところだった。国王陛下が、自分に忠誠を誓うか聞いてくるなんて。
大魔法を使う代わりに嘘をつけない制約のせいで、危うく正直に「誓うわけないっ!」と、言ってしまいそうになった。
「陛下の治める、この王国のために、力を尽くします」
辛うじて、嘘にならないギリギリな線を攻めるのは、得意なはずなのに。自分が思っている以上に、ミルは怒っているらしい。
「でも、ここが聖女様とレナルドが帰る場所だから」
ミルは、魔術師の正装に着替える。
オシャレではないと、言い訳しては、着ることがなかったローブ。
ほとんど化粧をしていない姿。
この後戦えば、決して乱れることのなかった、髪型もボロボロになるに違いない。
「綺麗だ」
「……さっきから、なんなのよ。ロイド? 化粧もしてないし、オシャレもしていない。今までで、一番美しいはずない姿だわ」
「……好きだ」
「は?」
「ミルは、俺のこと好き?」
ロイドが、こんなにも喋るのは、本当に珍しい。
魔獣である銀狼に育てられたという、生育環境のせいで、彼は喋るのが苦手だ。
でも、それ以上に、その内容が問題だった。
魔術師ミルは、大魔法を使うための制約のせいで、嘘がつけない。
だから、ミルは、イエスがノーでしか答えられない質問は、苦手だ。
「………………好きだわ」
たっぷりの空白の後、ミルは答える。
仕方がない。それしか答えようがないのだから。
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『おぉ。まさかの、カップリング成立。あのふたりがねぇ……。ところで、一人でこの大群に対応するの大変だから、そろそろ、お邪魔しても良いかな?』
シストが、私たちの前に姿を表す。その口には、見たこともないほど毒々しい紫と緑色が混ざったネッチョリした物体が咥えられている。
スライムだろうか。口に入ったら、お腹を壊しそうだから、咥えるのは、やめた方がいいと思う。
「俺の聖女様……。愛しています。この戦いが終わった時に、もう一度」
本当に、レナルド様は、目が離せない。
そんなことを、微笑みながらいうのは、やめて頂きたい。
「戦いの後の約束は、禁止です。フラグっていうものなので」
「そうですか? 愛しい聖女様」
「…………名前呼べないからって、愛しいとか、俺のとか、やめて欲しい」
「そうですか。可愛らしい」
「意地悪です」
それだけ呟くと、魔法障壁を解く。
途端に、魔獣の叫び声が聞こえて、一気に襲い掛かる。これからの戦いは、ひたすら戦い続けるハクスラゲームみたいになるのだろう。
『レナルドが、魔獣を倒せば倒すほど、僕は強くなる。だから、頑張ってね?』
ほら、ハクスラゲームだ。
でも、やり直しはきかないし、魔人を倒さない限り、無限に沸き続ける敵。
この世界は、ゲームじゃない。
「聖女様、全てをかけて、あなたを守ります」
「……そうですね。では、レナルド様の背中は、私に任せてください」
「…………はい」
私は、私に出来ることをする。
そう心に決めて、迫り来る魔獣に向けて駆け出したレナルド様を追いかけた。
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