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サンドイッチと嵐の予感 3

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「何をしに、いらしたのですか?」
「探していたに決まっているだろう?」
「なぜ……。私たちは、婚約破棄によりすでに赤の他人のはずです」

 ギリアム様は、幼い頃からの婚約者だ。
 支えていこうと思って、必死に勉強してきた日々。

 そこに愛はなかったかもしれないけれど、少なくとも家族としての愛を持って、一緒に生きていけると思っていた。

 それなのに、男爵家が没落した時、私の前に現れたギリアム様は、私が友人だと思っていた女性を連れて来て、恋人だと、婚約破棄してほしいと言った。

「仕事中ですので」
「もう一度、婚約してやってもいい」
「……は?」

 ローズピンクに埋め尽くされた夢のような空間。
 その場所で、どうしてこんな耳障りな言葉を聞かなくてはいけないのだろうか。

「仕事なんてする必要ない。男爵家も持ち直してきたと聞いている。元々あの場所は、地下資源も豊富だからな」
「……仕事中です。それから、二度と私の前に現れないでくださいませんか?」
「生意気な」
「うっ!」

 強く手首を掴まれて、鈍い痛みが走る。
 けれど、次の瞬間、拘束は解かれて、私は安心できる腕の中にいた。

「仕事中に押しかけてきて、暴力沙汰とは……」
「俺は彼女の婚約者です」
「……はは。おかしなことを言う。リティリア嬢は、俺の婚約者だ。すでに王都で噂になっていると思うが、求婚を意味する勝利の薔薇も受け取って貰っている」

 ……ん? いつの間に、騎士団長様と私は婚約したのかしら?

 あまりのことに呆然としていると、背中から回された手は、私をますます強く抱きしめた。

「ギリアム・ウィアー子爵令息。この、アーサー・ウィランドの婚約者に手荒なまねをして、ただですむと思うか?」

 途端に青ざめたギリアム様は、店のドアを勢いよく開けて、飛び出していった。
 開店直後の店内に、私たちだけを残して。

 そっと離れていく、ほのかなぬくもり。
 私は、くるりと騎士団長様のほうを向く。

 眉を寄せた騎士団長様。
 恥ずかしいところをお見せしてしまった。
 助けて、くださったのよね?

「ありがとうございました。お客様に助けていただくなんて、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いや……。こちらこそ、勝手に婚約者などと言って申し訳ないことをした。不快だっただろう」
「そんなわけないです!」

 つい、大きな声になってしまった。
 騎士団長様は、一瞬目を丸くして、それからなぜがうれしそうに笑った。

「……そうか。だが、少し気になることがある」
「え……?」
「俺のほうで調べるが……。ところで今日、何時頃仕事が終わる?」
「え? 三時頃には」
「そうか。……迎えに来る」

 聞き間違いなのかしら。
 今、迎えに来るって聞こえた気がしたのだけれど……。

「えっと、お忙しい騎士団長様にこれ以上ご迷惑と負担をおかけするわけには」
「リティリア嬢の安全には、代えられない。お願いだから、待っていてほしい」
「ふぇ……」

 それだけ言うと、騎士団長様は、私を安心させるように頭を撫でて去っていく。
 サンドイッチを食べた分、いつもより多い銀貨を私の手に残して。
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