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それはお揃い 5

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 ***

 街ゆく人は、誰も彼も幸せそうだ。
 この平和は、騎士団長様ががんばって守ったのだと自分のことみたいに誇らしくなる。

 けれど、騎士団長様に手を引かれて入ったお店が、あまりに高級そうで、思わず私は尻込みしそうになった。

「始めからこうすればよかった」
「えっと……」
「リティリアはお揃いがいいのだろう? 今度の夜会のドレスをオーダーしよう。それから、結婚式だな」

 楽しそうな騎士団長様。
 お揃いについて騎士団長様に説明しようなんて、おこがましいにもほどがあった。

(そうよね、苦労したとはいっても伯爵家の生まれで、この国の上層部に位置する方だもの……)

 けれど、そんなことを考えていられたのも、最初のうちだった。
 そう、全身くまなく採寸され、分厚いカタログを隅から隅まで確認し、店を出たときには疲労困憊だった。

「今度は屋敷に呼ぼう」
「……あの」
「それにしても、楽しみだな?」
「は、はい……」

 そして、最後に来たのは、カフェフローラだった。

「店休日は明日のはず……」
「明かりが消えているな」

 扉に触れると、まるで私たちを待っていたかのように開く。
 扉の中は、テーブルと椅子しかない空間だった。

「オーナーに、何かあったのでしょうか」
「決めつけるのは早い。だが、シルヴァ殿がかり出されるような魔獣の情報も入っていない」

 知らずに震える指先。
 恋とか愛とは違っても、オーナーは私にとって、兄であり、家族そのものだ。

「リティリア、屋敷に帰ろう。俺が動いた方が早い」
「は、はい……」

 指先をキュッと握られて、顔を上げる。
 少し眉を寄せながらも、騎士団長様は冷静だ。

「ただ、シルヴァ殿が何かに巻き込まれたのだとすると、リティリアも関係があるかもしれない。屋敷の外には出ないでくれ」
「分かりました」

 こんな時、何も出来ない私は、本当に無力だ。
 その時、目の前にキラキラと金色の光が舞い散る。

「妖精」
「そうだな。魔力の香りを嗅ぎつけたのだろう」

 そう、私の周りから妖精が離れないときには、いつも事件が起こる。
 魔力が大好きな妖精たち。

 手を引かれて、部屋に入った私の額に落ちてくる口づけ。
 オーナーも心配だけれど、騎士団長様は、いつも自分を二の次にして無茶をするから、不安で仕方がない。

「……無事に帰ってくる。シルヴァ殿を連れて」
「約束です」
「ああ、約束しよう。それと、何かあったときには、あの宝石を手にするように」
「それは……」
「……行ってくる」

 それだけ告げて背を向け去って行ってしまった騎士団長様を見送る。

(私の瞳と騎士団長様の瞳の色をした大きな宝石は、美しいけれど……)

 その時、まだ私の周りを飛び回っていた妖精が、私の瞳の色をした宝石に舞い降りる。

「えっ、まだ何も起きていないのに!?」

 そう、私に危険なんて迫っていない。
 けれど、やっぱり妖精は事件を引き寄せるようだ。
 いや、今がきっと危機に違いない。私は慌てて、二つの宝石をそれぞれの手に握りしめる。

 金色の光に包まれる。あまりの眩さつぶってしまっていた目を開けば、私は久しぶりに訪れる赤い屋根の小さな家の前にいた。


 
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