私に興味がなかった政略結婚予定の騎士様がモフモフ猫になって溺愛してきます。

氷雨そら

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一緒の時間は家族みたいに 1

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 たくさん作り過ぎてしまったかもしれないわ。
 でも、とてもよく出来たと思うの。

 ホカホカと湯気を立てるご馳走を眺める。
 高価な食材はないけれど、腕によりをかけて作った食事。
 味見してみたけれど、美味しいと思うわ?

 それに、猫の手ではフォークとナイフが使えないとシグナス様は仰ったけれど、私が手伝えば、問題解決ね。

「さ、どうぞ温かいうちに」
「あ、いや……。その……」

 なぜが、なかなか食べてくれないシグナス様。
 猫の姿だから、魚が好みなのではないかと勝手に思ったけれど、もしかしてお嫌いだったのかしら。

「あの……。お魚は、嫌いでしたか?」
「……そんな顔をするな。別に魚が嫌いなわけではない」
「無理なさらなくても……」

 じっとスプーンを見つめていたシグナス様が、意を決したようにぱくりとスプーンを口にくわえる。

 少し冷ましておいたのだけれど、大丈夫だったかしら……。

「……うまいな」
「よかったです」

 ペロリと口元を舐めた長い舌を見つめる。
 どうしても、ソースが口元についてしまうらしい。

「あまり、見るな」

 ゴシゴシと前足で口元をこするシグナス様。
 習性なのかしら? 大きな猫にしか見えなくて、とても可愛らしいわ。

「はい、次は野菜です」
「野菜か……」
「はい。お嫌いですか?」
「俺は騎士だ。好き嫌いなどない」

 ……騎士であることと、食べ物の好き嫌いには関連がないように思うのだけれど……。

 すいっと私から目をそらすと、シグナス様は、勢いよくスプーンに乗せられたニンジンを口にした。
 微妙な表情と、揺れる猫の髭。

 うーん。たぶん、ニンジンは嫌いなのね。
 今度作るときには、小さく切って混ぜ込むことにしましょう。

 次にスプーンですくったのは、ふわふわのオムレツ。
 優秀な鶏を飼っているので、卵は毎日手に入る。

 ガチャリ……。扉が開く音がした。

「あっ、あのときの白猫さん」

 開いた扉の隙間から聞こえてきたのは、高くて可愛らしい声。

 もう一度、口を開けていたシグナス様の尻尾が、ぶわっと膨らみ、髭がピーンッと伸びて、瞳孔がまん丸になる。

 そのまま、私をかばうように前に出たシグナス様。

「こ、子ども……?」

次の瞬間、気が抜けたように肩を落としてつぶやいた。
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