神在月の忘れ物

すみだし

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4章

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 騒がしい物音に気付き、僕は目を覚ます。重い身体を無理やりにも起こす。周りを確認すると、嫉妬神様が横で寝ている。
 僕はようやく昨晩のことを思い出す。形の知らない神様を厳島神社まで送った後、嫉妬神様のお家に帰り、それは絶品なお好み焼きを盃にお酒を飲んでいたのだった。
  
「あれ神さんは?」

 ここで神さんがいないことに気付く。家中を隈無く探す。トイレの中、炬燵の中、しかし神さんの姿は微塵もない。何処か外出でもしたのだろうか。
  
「公平君ちょっと来て!」

 炬燵の上に座り込んでいると、玄関から嫉妬神様の声が飛ぶ。
  
「どうしたんですか?」
「これを見て」

 玄関には僕の靴が散らばっていた。どうやら昨日脱いだ時のままのようだ。
  
「す、すみません。すぐに直します」

 自分でも情けないと思いながら、素早く靴を治す。神さんの靴は綺麗に並べており、益々自分が不甲斐なく思う。
  
「すみません、綺麗に直しましたよ」
「そうじゃないわよ。忘れ神の靴があるのは不思議でしょ。家の中に姿は無いし、外出した様子も無いって明らかに可笑しいわ」

 嫉妬神様の言葉に僕も気付く。神さんは一体何処に行ったのだろうか。
 玄関先で嫉妬神様と首を傾げていると、居間の方から衝突音が聞こえる。
  
「何今の音?」

 嫉妬神様が思わず肩を震わす。僕は飛ぶように居間へと駆ける。
 居間に戻るが変わった様子はない。何処から音が聞こえたのか、周りを確認していると、今度は先ほどより小さな衝突音が聞こえる。音の元は窓の外からだった。
 窓の外を見ると、嫉妬神様の紳士さんが、鼻で窓ガラスを叩いている。その様子は木を叩くキツツキのようだ。
  
「どうしたんですか?」

 僕が窓を開けて尋ねる。
  
「フックさんが!フックさんが!」

 動揺を顕にする嫉妬神様の紳士さんはフックさんの名前を連呼する。
  
「お、落ち着いてくだしゃい。何があったんですか?」

 動揺が感染り噛んでしまう。嫉妬神様の紳士さんは目を泳ぎながら、地団駄を踏む。
  
「見ろ。フックさんが!」

 地団駄を踏む、嫉妬神様の紳士さんの足元を見ると、一羽の梟が横たわっている。それがフックさんと気付くのに数秒掛かってしまった。
  
「フックさん?どうしたんですか!何があったんですか?」

 フックさんを優しく持ち上げる。見た限り怪我はしてないようだ。フックさんは唸り声を出しながら、閉じた瞳を開ける。
  
「こ、公平さん…」

 僕に気づいたフックさん、開いた目に活気は無い。
  
「どうしたんですか?カラスにでも襲われたんですか?」
「違います。昨日、公平さん達が会った、あの不審者…祟り神だったのです」
「祟り神?」

 あのナルシストで少し頭のネジが飛んでる奴が?
  
「公平さん達と別れた後、祟り神に会いました。祟り神は神さんのことを狙っているのです。それに気づいた私が反抗した所、このような無様な姿になりました。何とかこの家まで帰ってこれたんですが、力尽きてしましました」

 喋る度に呼吸を整えるフックさん、余程悪いことをされたのだろう。
  
「あの男をこのままにしていると、この島に災いが来るでしょう…神さんはどちらに」

 神さんの姿が無いことに気づいたのか、フックさんが尋ねる。
  
「実は、神さんの姿が見当たらないんです。靴も家にあるのに…」

 僕の言葉を聞いた瞬間、フックさんの目がカッと大きく開く。
  
「それは一大事です。きっと祟り神の犯行です。公平さん、早く神さんを助けに…」

 フックさんはそう言葉を残し、気を失う。僕は家の中に入り、フックさんを座布団の上に寝かせる。
  
「どうしたの?」

 その様子を見た嫉妬神様。
  
「フックさんが祟り神に襲われました。嫉妬神様はフックさんを見ていてください。僕は神さんを探しに行きます」
「祟り神!分かったわ。気をつけるのよ」

 嫉妬神様は少し驚いたが、すぐに落ち着き看病する準備に取り掛かる。

「俺も行くぞ」

 靴を履き外に出ると、嫉妬神様の紳士さんが待っていた。僕は頷き、勢いよく外へと飛び出る。
  
「まずは何処に行く?何か心当たりでもあるのか?」
「いえありません。なので近くの人に訪ねてみましょう。何か分かるかもしれません」

 僕はそう言い住宅街を歩いている若い女性を見つける。
  
「すみません。少し聞きたいことがあるんですが」

 僕の問い掛けに女性は首を傾げる。
  
「誰?」
「決して悪い人ではありません。友達を探しているんですが」
「誰?」
「はい、僕は観光で来た岡村公平と言います。友達と剥ぐれてしまって」
「私は誰?」
「えっ?」

 女性の口から思ってもいない言葉が出る。僕も思わず驚く。
  
「私は誰?ここは何処?」

 まるで漫画の世界のような言葉を発する女性。僕はつい戸惑ってしまう。
  
「何処って宮島ですよ。分からないんですか?」
「宮島?」

 女性はもう一度首を傾げる。
 女性の言葉に困っていると、道の向こう側から老人男性が歩いているのが見えた。僕は急いで、その老人に詰め寄る。
  
「すみません!聞きたいことがあるんですが」
「はい、何でしょう」

 老人はしっかりと返事をする。
  
「友達と剥ぐれてしまって、僕と同じぐらいの年で、髪型はロング、細身で小さな女性です。知りませんか?」
「何だって?」
「だから、友達と剥ぐれてしまって、僕と同じぐらいの年で、髪型はミディアム細身で小さな女性です。知りませんか?」

老人はまるで外国語で話されたかのように、僕の言葉を理解しない。

「トモダチとはどういう意味でしょう。それにカ・ミ・ガ・タというのも意味が分かりませんな~」
「公平、これって…」

 嫉妬神様の紳士さんの言葉に、わずかな焦りを感じる。そんなまさかだ。こんなことあるわけがない。
 僕は住宅街を抜け、商店街に出る。そこには思いもよらない光景があった。
 商店街にいる全員が上の空で立ち尽くしているのだ。全員周りを見渡している。それはまるで知らない世界に紛れ込んだ人のようだ。
  
「すみません!」

 売店のおじさんに声を掛ける。
  
「………」

 返事が無い。僕は諦めて次の人に話しかける。
  
「すみません!」
「誰だお前?」

 商店街を駆け巡り、何十人もの人に話しかけるが、まともに返事をした人は誰もいない。
  
「公平、やっぱり…」
「はい、神さんの力ですね。こんなこと出来るのは神さんだけです」
「でも、どうしてこんなことになったんじゃ?」
「それは分かりません。もしかしたら神さんに何かあって、力が暴走しているのかもしれません。早く神さんを見つけましょう」
「了解じゃ。行くぞ」

 僕は商店街に置いてある自転車を拝借する。やってはいけないことだが、今は緊急事態だ。
  
「僕はあっちを探します。紳士さんは逆側をお願いします」

 嫉妬神様の紳士さんと別れ、僕はひたすら自転車のペダルを漕ぐ。早く見つけないと、神さんが危ない。
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