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1話.お父様大好き!
しおりを挟む「あー……こほんこほん」
うん。声の調子はいい感じ。
食堂に繋がる大きな扉の前で、私は喉の調子を整えた。
そして確認のためにそばに控える侍女に先ほどと同じ言葉をかける。
「ラズリ、今日も私は完璧に可愛いわね?」
「はい。サファイア様は今日も帝国一可愛らしいです」
私はラズリの言葉に頷き満足したが、念には念を入れてもう一度自分の姿を見直す。
買ったばかりの可愛い青いワンピースの中央にあるリボンは歪んでいない。
お気に入りの靴はピカピカに磨かれている。
髪の毛は部屋を出る前に10回確認して寝癖は一つもないことは確認済みだ。
……うん。問題はない。
「では、開けて頂戴」
準備が万全なことを認め、ラズリに声をかけて扉を開けてもらう。
重い扉が開かれ、光り輝く食堂に足を踏み入れて緊張しながらもスッと息を吸いながら私は元気に挨拶をした。
「お父様ぁ~~~おはようございます」
私はなるべく可愛くなるように高い猫撫で声を出す。手は顎に当て、首の角度はちょっと傾げて上目遣いが1番可愛い角度。
どう!?お父様!!!
私は長い長いテーブルのお誕生日席に座るお父様にこれでもかとアピールするが、お父様は食べる手を止めず挨拶するでもなくチラリと私を見ただけで食事を続ける。
うん、クールでとてもかっこいい。
しかし、やはり今日もダメだった。
『鋼鉄の公爵』と呼ばれているのは伊達ではない。小娘のぶりっ子攻撃なんて家畜の愛嬌以下といった清々しいほどの無視だった。この方向性は今後はなし。
私は肩を落としながらもうこちらを見ないお父様を諦めて食事の席に座る。ただし、お父様からの挨拶を諦めただけでアピールまで諦めた訳ではない。
運ばれた料理たちを五歳児とは思えない完璧な所作で食べていく。
何せ私は公爵令嬢。このスカートラ公爵家当主であるピラッタ・テゾーロの血を引く唯一無二の後継者、サファイア・テゾーロなのだから!
ジーッ……
「………」
お父様に優秀な娘アピールをするがお父様は食事が終わり食後のコーヒーを見ながら新聞を読んでいる。
その横顔の美しさといったら……筆舌に尽くしがたい。
花は綺麗だ。
けれど直ぐに枯れてしまう。
宝石は綺麗だ。
けれど冷たくて硬い。
星は綺麗だ。
だけど遠くて手が届かない。
世界中の美しいものを並べたって
彼の美しさには敵わない。
「おい、食事中によそ見をするな」
私が心の中で愛の詩を詠んで呆けていると、耳に心地いい低い声で叱責が飛んだ。
お父様の声だ。おおよそ三日ぶりに声をかけられた。いや、声をかけられたというか怒られているのだけれど私はそれだけでとても嬉しい気持ちになった。
しかし、喜んでばかりもいられない。父は形のいい眉を寄せて不快感を露わにしていた。
「食べないなら食事を終わらせろ。おい、こいつの食事を下げさせろ」
「申し訳ありませんお父様。ちゃんと食べます」
私は慌ててフォークを進める。
こんなところで後継者に相応しくないと判断されて仕舞えば、私は今後本格的にお父様に相手にされなくなってしまう。お父様は私を娘としてではなく、唯一の後継者としか見ていないのだから。
お父様は私を暫く観察したが、すぐに興味をなくし新聞をたたみ食堂から出て行ってしまった。私が食堂に来てからお父様が出ていくまで、この間僅か五分程度。馬鹿な真似をしたせいで今日はいつもより話せなかった。
広い食卓に1人残された私は、ため息を吐いて目の前の食事に取り掛かる。
お父様がいなくなった今はマナーなんてどうでもいい。適当にポテトを三本串刺しにして口に放り込む。
その様子を使用人たちが不憫そうに見守る。
もう何度も繰り返された光景だ。私が愛されていない子供だということは屋敷のみんなが知っている事実。
お父様が愛しているのは人生でただ1人、お母様だけなのだ。
父、ピラッタ・テゾーロと母ダイアナの大恋愛とその結末をこの帝国で知らないものはいない。
七年ほど前、若くしてスカートラ公爵家の当主になったピラッタは舞踏会で美しい女性に一目惚れをした。彼は彼女の名前も知らぬうちからその場で彼女にプロポーズして一度は断られるが、名も知らぬ彼女を探し、没落寸前の伯爵令嬢であったその女性、ダイアナにそれでも熱心に求婚した。その後一年の婚約を経て隣国に轟くほど大々的な結婚式を挙げた二人であったが、ダイアナは問題を抱えた女性だった。
ダイアナは極度の浪費家だったのだ。伯爵家が傾いたのもそのせいと言っても過言ではなく、彼女は公爵夫人の座に着くと宝石やドレスを買い漁りかなりのスピードで公爵家を食い潰した。
それでもピラッタは彼女を諌めることせず、周囲の反対を顧みることなく自分と屋敷のための予算も全て注ぎ込み尽くした。その結果は……ダイアナは他に男を作りピラッタを捨てて国を出て、隣国で流行病で亡くなった。
公爵家に残ったのは多額の負債とボロボロの屋敷と自分に似ていない赤ん坊一人。
ピラッタは社交界で憐れみと嘲笑の対象となった。
しかし、彼は恋に盲目であったが愚かな人間ではなかった。公爵家が傾いたのも多すぎる支出が問題であっただけで、彼の稼ぎは決して少なくはない。ダイアナがいなくなって三年も経つと財政も戻り始めて今は屋敷も綺麗に整えられている。
お父様はそんな目にあいながらも未だに母を愛しており後妻をとらないため、現在正当な後継者は私一人だ。
そんなわけで私は公爵令嬢として特に不自由なく育てられてきたわけだが、父親からの愛情を受けることは出来なかった。
たとえ愛した人との子供であろうと他人、私はお母様の代わりにはなれない。
もしかしたら、顔立ちがお母様にあまり似ていないことも、問題なのかもしれない。私のサファイアブルーの髪とセレストブルーの目はどちらも両親の色とは似ていないし、顔立ちもどちらかといえばお父様似だと思う。
お父様は私を愛さないし興味も示さないが、それでも私はお父様が好きだ。
だって……本当にかっこいいから。
お父様のかっこよさはもはや芸術品だ。絹糸のようにツヤツヤとしてサラサラと触り心地の良さそうなブルーグレーの髪、鏡のように全てを映し見透かすようなグレーの瞳。眉の形もまつ毛の長さも鼻筋も唇の厚さもパーフェクト。話すときの気だるげな息の抜け方もセクシーで聞いていて笑みが溢れる。社交界では『鋼鉄の公爵』と呼ばれるほど冷酷な判断を下し人を寄せ付けない鋭さを醸し出しているのに、それでいて好きな女性には一途で情熱的なところも魅力的だ。
私がお父様の娘として生まれたのはきっと何かのご褒美だと思う。だからどれだけ興味を持ってもらえなくても、顔を見られるだけでも嬉しい。
そしてそんな美しい父の娘に生まれたからには、それなりの義務がついてくる。
そう!それは、公爵の地位と美貌に引き寄せられた女たちを追い払うこと!!!
お父様は後妻はとらないと明言しているのに、お母様の二番煎じになろうと容姿に自信がある女どもが付き纏い母のような贅沢を享受しようとわらわらと群がってくるのだ。娘である私になんとかお父様に取り次いで貰おうと媚を売る人間のなんと多いことか。
私はお父様と仲良く2人で暮らしたい。そのために私は邪魔な女たちを排除する。
これはお父様を溺愛する私が邪魔な女たちを排除していく奮闘記である。
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