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2話.一人目のターゲット
しおりを挟むまず排除すべき第一目標は私の侍女の1人である「メルクーリオ・マルテッロ」。彼女は14歳の時に公爵家に奉公に来て以来およそ9年侍女として働くベテランだ。そんな彼女を排除するべき理由は一つ、お父様を邪な目で見ているからだ。
一度公爵家が没落しかけた際に多くの使用人は出ていき、残ったのは真に公爵家に忠誠を誓った者のみ。彼女も一度は公爵家から離れたが、近年再び戻ってきた。
ここまで聞けばいい話に聞こえるが、彼女は由緒正しい子爵家の令嬢でありながら26歳になっても未だに未婚であり、尚且つお父様に色目を使っている。具体的に何かと言えば、お父様に手作りのお菓子を差し入れようとしたり部屋の清掃だと言って執拗にお父様の寝室に入ろうとしたり。私の予想では公爵家に奉公に来たときに若いお父様に一目惚れして婚期を逃し、お母様が亡くなったいま今度こそお父様と結ばれようと言う腹づもりなのだろう。その執念は賞賛に値するがお父様に近づくことを許すわけにはいかない。
「お嬢様、菓子を作ったのですがお召し上がりになりませんか?」
「……いえ、朝食を食べたばかりでお腹は空いてないの」
「そうですか……残念です」
挙句、お父様に相手にされないからか最近は私にまで媚を売り始めた。私にはラズリという専属の侍女が既にいるのにチョロチョロとそばを彷徨き、ラズリの仕事まで奪おうとする始末だ。どうにか追い出したいのだけれど、私に屋敷の人事権はない。
なのでそろそろ追い出すためにそれらしい証拠を揃えようと思う。幸い、マルテッロは叩けばボロボロ問題がでてくる女だ。今までは身体が小さく活動範囲に制限があり見張りもあったせいなかなか行動に移せなかったが私はもう1人で歩き回れるし、公爵家の令嬢として言葉にも信用がある。
思い立ったが何とやら、早速私は部屋から出て情報収集に向かう。目当てはメイドが行き来する一階。私はラピスに1mくらい離れてもらいこっそりと屋敷を徘徊した。すると何やら不満そうな声で会話するメイドたちの群れに出くわした。
「またお局マルテッロ様がキッチンをうろうろして腹が立つわ~」
「ね~自分の持ち場じゃないのにやれ目玉焼きの焼き具合がとかパンの硬さがって。あの人いつも何してるの?全然仕事してないよね。いつも偉そうに歩き回って仕事にケチつけてるだけで……」
やはりメイドからの評判も良くないらしい。仕事もろくにしていないということは、つまりあの女がいなくなっても困る人間がいないというわけだ。よかった、お父様の負担になることはない。
私は人知れずほくそ笑んだ。
「ねぇしかもあの女、奥様のアクセサリーを盗んでるかも知れないらしいよ」
メイドは先程よりさらに声を顰めて囁き合う。
「え!?奥様のアクセサリーを!?」
「前にあの女が休日に出かける時に不釣り合いな豪華なイヤリングを付けてたって……。一応、奥様の部屋の手入れはあの女の管轄だから」
「旦那様、奥様の部屋にも遺品にも関心がないものね……保管はしてるけど」
「あ~……でもそれって、一応お嬢様に譲り渡すためにとっておいてるんじゃないの?そのうちバレるでしょう」
「その前にとんずらするか、奥様に成り代わるつもりなんじゃない?」
「確かにあの女、どう考えても旦那様のこと好きだもんね。拗らせて行き遅れてるし」
「大して美人でもないくせにどこにそんな自信あるんだか」
「お嬢様、そろそろ行きましょう」
ラズリが困ったように私に声をかける。流石に5歳児に屋敷のドロドロした事情を聞かせたくないのだろう。
「(まぁ、有益な情報は聞けたからもういいか。)」
私は気づかれないようにラピスと一緒にその場から離れた。
「ラピス。あの話は本当なの?」
「その、部分的には……。マルテッロ様は確かに業務に意欲的ではないですが、担当区域の手入れはしております」
「窃盗に関しては?」
「そこまでは……。それが真実ならすぐにでも家令のコーラル様にご報告しなければ……」
ラピスはそういうが、お父様のことだから敢えて泳がしている可能性もある。お父様にとって価値のないものだから気にしていない、あるいは報酬の一部だと考えているか。メイドの口に上っている以上お父様が知らないはずはないので、お父様がこのことを重視していないのは確かだ。
あの女を追い出すなら家令に告げ口するよりもっと大事にしないといけないだろう。なら、次期後継者が問題にすればいい。そうなるとどうすればいいか……。
私の頭の中に計画が立てられていく。盗まれた宝石、まだ子供の後継者、部屋の手入れをしているのはマルテッロだけ。
組み上がった作戦を前に私は満足する。単純だけど、こうすれば効果的じゃないだろうか。
今すぐお父様に会いに行きたいけれど仕事の邪魔をするわけにもいかないし、昼食も夕食もご一緒してくださらないから作戦は明日の朝食まで持ち越しだ。
なので私は計画は一度置いておいて勉強に専念することにする。今勉強しているのはこの世界の歴史と「精霊」について。
はるか昔、この地は精霊の住む場所だった。しかし長く生きる精霊たちは暇を持て余し、新たな命を生み出し始めた。土を司る精霊が土で人形を作り、水を司る精霊がその人形を水で満たし、風を司る精霊が命の源である体内のマナを循環させ、火を司る精霊が火で心臓を動かし人間が生まれた……と言われている。そのため精霊信仰が大陸で一番信仰されているが、精霊の力を借りて魔法を使える人間は少なく、実際に精霊を見られる人間となるとほんの僅かだ。こればっかりは魂の素質なので親も家系も関係ない。
まぁ、お父様は使えるけどね!お父様は素晴らしいから!お父様は水の精霊と繋がりがあり、水の魔法を使うことができる。
私は……まだちゃんと使ったことはないが多分使える。他の人とは扱いがちょっと違うけど。
それをみんなに見せることがあるかどうか分からない。魔法使いは魔法使いの塔に行くことになったり、ちょっと面倒なのだ。私はお父様から離れたくないから、このまま開花させず素知らぬままで生きて行きたい気持ちはある。
私の願いはただ一つ、お父様と2人で平和に暮らし続けることだけだから。
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