パパ溺愛幼女奮闘計画

片原痛子

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3話.計画遂行

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「お父様、お母様のアクセサリーが見たいです!」

「………」
 
翌日、私は早速計画を実行するために朝食の席でお父様に懇願した。お父様にお母様の話をすることは屋敷の中では割と禁句に近く、尚且つお父様にこうしてどうでもいいお願いをして手間をかけさせることは機嫌を損ねかねないので私は少し緊張していた。ここで拒否されると計画を練り直さなくてはいけない。

「好きにしろ。こんな細事は私を通さずコーラルに聞け」

お父様は全てに興味なさげにそう言った。これで1番の難関は終わったので、あとはどうにでもなるだろう。

「ではお嬢様、食事の後で奥様の部屋に案内致しますね」

公爵家の家令であるコーラルが直々に案内してくれるようなので、計画がさらに成功に近づいた。お父様の前では無理でも家令のコーラルの前で罪を暴けばそれなりの問題になるだろう。

私は朝食後、早速お母様の部屋へ向かう。お母様の部屋は3階のお父様の部屋の隣で、公爵夫人の部屋ということを差し引いても扉からして豪華。実は私も入るのは初めてだ。

「あら、お嬢様。奥様の部屋にご用事ですか?」

部屋に着くとマルテッロがちょうど部屋の清掃をしているところだった。あまりに都合のいい展開に私は心の中でガッツポーズをしてニコニコと純粋な子供の笑みを浮かべた。

「おはよう!今日はお母様のアクセサリーを見に来たの!」

「え!?そ、そうなんですか」

アクセサリーの話が出た瞬間、マルテッロが動揺したのを私は見逃さない。その様子に気づいたのか、コーラルがある提案をした。

「マルテッロ、貴女が一番奥様の遺品に詳しいですね?お嬢様に案内して差し上げなさい」

「っ……、はい。分かりました」

流石にここで断るのは不自然だと感じたのかマルテッロは緊張を隠すように笑顔を作った。
その笑顔を見て、やはり怪しいことがあるのだと確信する。

「こちらがお嬢様の名前と同じサファイアのネックレスで、こちらはダイアナ様と同じ名前のピンクダイヤモンドの指輪になります」

メインルームとは別にさらに鍵のかけられた衣装部屋からマルテッロが数点アクセサリーを持ってきた。並べられたアクセサリーたちは、成程豪奢で父がどれほど母を愛していたかを示す高価そうなものだ。それは主人を失ってから5年も経っているというのに輝きが失われておらず、手入れが行き届いていることが分かる。

「他には?」

「他には『戦乙女の口付け』と呼ばれたルビーのティアラや『夏の思い出』と呼ばれるエメラルドのネックレスが……」

「まどろっこしいから衣装部屋に入っていい?」

「えっ!?」

今度はあからさまに表情が引き攣る。何かやましいことがあるのはバレバレだ。確かに見せてくれた宝石たちは手入れが行き届いているが、見せられる宝石だけを持ってきているだけだ。恐らく、彼女が気に入った宝石ではあるが、盗むにしては高価だから盗んでいないといったところだろう。


「こ、高価なものが多いので幼いお嬢様が入るのはまだ早いかと……」

どうにか部屋に入らせまいと言い訳をするマルテッロにコーラルが追撃する。

「お嬢様はこの歳頃の子供にしてはとても利発でいらっしゃいます。私もいますし、お嬢様の責任は私が取りますので入っても問題ありません」

「コーラル、私の背じゃ部屋が見えづらいから抱き上げてくれれば、私の動きも制限できるしいいと思うのだけれど」

「あぁ、それは名案ですね」

「………案内いたします」

マルテッロが震えながら衣装部屋を案内してくれたのでコーラルに抱えられながら中に入るが、中は少し埃っぽかった。あれだけ屋敷をウロウロしていれば、掃除が疎かになるのは当然だ。いちいち鍵の閉まっている部屋を開けて掃除なんて、さぞ面倒くさいだろう。

「………」

その様にコーラルの眉がぴくりと動いたが、ひとまず何も言わないで泳がせるつもりらしい。なので、私もそのことは黙っておくことにした。

「あちらが結婚式の時のドレスで、こちらはダイアナ様が特に気に入っていらしたドレスになります」

マルテッロが顔を青くしながら案内していたが、私はキョロキョロと部屋を見回し、おかしな点を探す。

まず、マルテッロが示しているドレス。
ウェディングドレスはすこし埃が積もって色が変わってきているけれど、お母様がお気に入りだったというドレスはあまり埃がついておらず、シワはついている。これは、この服をトルソーから外して雑に飾りなおしているということ。洗濯をしてかけなおしているならシワはつかないはずなので、彼女はこの服を着て飾りなおしているのだろう。

宝石箱がしまってある戸棚は、戸の部分に埃はないがそれ以外のところには埃があるし、戸の部分にすら埃がある棚もある。それだけで、さっき出してきた宝石箱がある棚以外はまともに清掃すらしていないことが分かる。

「……ねぇ、そこの紫の箱を見せて」

「っ!!!」

開けられた形跡のない戸棚の、紫の宝石箱を指し示すとマルテッロは今度こそ引き攣った声をあげた。

「………」

「何をしているのです?お嬢様が見たいと言っているのですから早く持ってきなさい」

「はい………」

マルテッロが震える手で戸棚を開けて箱を持ってくる。箱には埃が積もっているが、今はそこは重要ではない。

「開けて」

「……」

マルテッロは一瞬渋ったが、コーラルの無言の威圧に観念して項垂れながら箱を開ける。

パカッ

中には……何も入っていなかった。
思った通りだ。

「これはどういうことです?」

「うぅ……」

今度こそコーラルの声には怒りが滲んでいた。

この箱の中には、恐らくアメジストのアクセサリーが入っていただろう。アメジストは紫と珍しい色で高価な宝石でもあるのでアクセサリーとしては鉄板である。けれど、今の社交界の流行は紫ではないため人気はない。
つまり、盗んでもバレる可能性が低いということ。私がアクセサリーに興味を持つのはまだ先だったはずだし、流行り物ではないから出す機会もない。箱さえ無くなっていれば中身が持ち去られていてもバレることもないし、流行り始めたらこっそり戻せばいい。

しかし、マルテッロは往生際悪くしらを切った。

「分かりません」

「そんなわけないでしょう。この部屋の管轄は貴女でしょう」

「知りません!私は触ってません!」

私はマルテッロが盗んだと確信しているが、マルテッロは主人のものを盗んだと言われるより、自分の管理が甘かったことを咎められる方がマシだと思ったのか、「盗んだ」とは口にしない。

盗んだかどうかは彼女の部屋を調べたら分かることだ。嘘をついたことがバレたらより罪が重くなるのに……自分からより破滅に向かうなんて、好都合だ。

「では、貴女の部屋を検めさせて頂きます。他に言っておくことは?」

「………ッ!私は!私はピラッタ様のために今まで誠心誠意仕えてきました!婚期も捨ててまで尽くしてきたのに、どうして私にこんな仕打ちをするのですか!!!」

マルテッロは床に崩れ落ち、顔を手で覆い泣き喚き哀れな女を演じた。しかし、生憎ここには冷めた目をした私とコーラルしかいないため、誰も慰めるものは誰もいない。

項垂れたマルテッロを、コーラルの腕の中から見下ろす。
なんの変哲のない地味な茶色の髪。特段美人なわけでもないのに、どうして「あわよくば公爵夫人になれるかも」という妄想を抱けたのだろう。

「嘘つき」

「………え?」

「“誠意”なんて嘘。貴女はお父様に下心があって近づいた癖に」

私がそう吐き捨てると、マルテッロの顔がみるみるうちに真っ赤になり熱り立った。

「なっ、子供に何が分かるの!」

「この屋敷に住む人間なら貴女がお父様に付き纏っていたことを、みんな知ってるわ」

まぁ、あの顔を好きにならない人間はいるはずがないので、それは仕方ない。しかし、侍女が主人に色目を使うのは話が違う。
もう二度とそんな思い上がりが出来ないよう、この恥知らずな女は徹底的に潰しておかなければ。




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