パパ溺愛幼女奮闘計画

片原痛子

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4話.似たもの親子

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「では貴女を処分していいか、お父様に聞いてみましょうか。私は、お父様なら“そんなの勝手にしろ”って言うと思うけど。貴女の名前も、覚えてないんじゃない?」

「こっ……のガキ………!」

あらあら、猫さんがどこかに行ってしまったみたい。

マルテッロは我を忘れて私に飛びかかろうとした。コーラルは咄嗟に私を庇おうと抱きしめるが、そんな必要もない。

「きゃあ!」

ドサッ!

彼女は“偶然”濡れていた床で滑って、受け身も取れずに転んだ。

「うぅ……」

「人事権はコーラルにあるけど、コーラルはこの人をどうするの?」

私は彼の赤い目をじっと見つめた。コーラルは私の視線に応えたが、先にスッと目を逸らしたマルテッロを見やる。

「……メルクーリオ・マルテッロ。貴女には窃盗の容疑だけではなく、公爵家の後継者であるお嬢様明確にを害そうとしたので、地下牢に入って頂きます」

「そんな……」


その後、メルクーリオ・マルテッロの部屋からお母様のアクセサリーが見つかり、彼女は鞭打ちの後に実家の伯爵家へと送還された。

私が小細工をするまでもなく簡単に消えてしまったマルテッロに、私は安心した。
もし彼女が侍女としてもう少しまともだったら、私の
手で彼女の部屋にアクセサリーを隠し、犯人に仕立て上げなければならなかった。流石に罪のない人間を罪人に仕立て上げるのは私も良心が痛む。
せめて私に害を加えようとしなければ、公爵家から追い出されるだけで済んだかもしれないのに……まぁ、煽ったのは私だけれど。

彼女は今回の件で賠償金を背負い、実家からも追放されるか……追放されなくても、まともに嫁ぐことも出来ず社交界にも出入りできなくなるだろう。
このことがちゃんと社交界に伝わって、お父様に近づこうとしている女への、いい見せしめになるといいのだけれど。

5歳の身体では活動に限度があるけれど、だからこそ手段は選んでいられない。
今後もお父様の周りには目を光らせておかないと……。
私と、お父様の平穏のために。



------------



「旦那様、例の侍女の処理は終わりました。子爵家からは賠償金の支払いはありましたが、見放されて除名されたそうです」

「そうか」

コーラルがメルクーリオ・マルテッロについての報告をするが、ピラッタはいつも通り興味なさそうに書類を仕上げていく。
実際、本当に興味がないのだ。
彼女が盗みを働いていると聞いたときも「ダイアナのアクセサリー程度なら好きにさせればいい」と答えたほどだ。
愛する人の遺品であれ、彼には石ころ同然。
その異様な偏愛にコーラルはいつもゾッとさせられる。

「お嬢様の慧眼には驚きました。全て理解して、すぐに問題点を……」

「世辞はいい。あいつの行動は、全て報告書に書いておけ」

「……かしこまりました」

家令であるコーラルは、公爵家当主であるピラッタの命により家令として次期後継者であるサファイアを見定める役を担っていた。

サファイアの父であるピラッタは自身の手により領地の管理を行い、壊れかけた公爵家を立て直すため投資や商売、信用回復など大変忙しいためサファイアを見定めている暇はない。そうでなくても彼は他人に興味がなく、特に女と子供は忌避していた。それは自分の娘であろうが例外ではなく、彼がサファイアを私的に共にいるとこは誰も見たことがない。

けれど、“後継者に相応しい人間であるか”という点においてはピラッタは常にサファイアを気にしていた。後継者として相応しいか計りたい、けれど子供に近づきたくない。それを解決するために指名されたのが、家令であるコーラルだ。
そのため、毎日の行動を専属侍女と連携してチェックしていた。

コーラルはピラッタが当主になるよりも前の幼少のときからこの家で執事として働き、家令に上り詰めた。そのため、ピラッタのことも公爵家のこともよく知っている。
そんな彼は思う。

“お嬢様は旦那様にそっくりだ”、と。

コーラルは、サファイアが父へ向ける愛が普通ではないことに気づいていた。
あれはただ娘が父を無条件に愛する刷り込みのようなものではない。普段は冷静なのに自分の興味のある人間にだけ異様に入れ込み、どれだけ冷たくされても気にすることなくただ自分の愛を貫き執着する様。
それは、ダイアナを愛したときのピラッタにそっくりだった。

あの頃のピラッタのことを、コーラルは良く覚えている。

招待状などいつも捨ててしまうのに、あの頃はいつどのようにダイアナに会えるか分からないと全ての招待に応じ、社交界からと情報屋を使っての両方で彼女の身辺を徹底的に調べ上げていた。

それに、人の誕生日すら一度も祝ったことがないのに彼女との記念日をいくつも作り、毎日山のように贈り物をした。

口下手にも関わらず、歯の浮くようなセリフを書き綴った手紙を何通も手紙を出して、プロポーズのときには跪いて熱い愛の言葉まで贈った。

見返りなんてなかった。けれどそれでも、ピラッタはダイアナに押しつぶすほどの愛を与え続けた。まるで、ダイアナ自身の気持ちはいらないとばかりに。

コーラルはその時、冷徹だった主にもようやく春風が吹き、その高揚感に舞い上がっているのだと思い、温かい目で見守っていた。しかしどんどん破滅的な道を進むピラッタに恐怖を覚え、何度も「行き過ぎている」と進言した。
それでも彼が行動を改めることはなく、ダイアナの方から家を出ていったときはピラッタが何を仕出かすか、戦々恐々としていた。公爵家を捨てることも、心中することも、彼の異常性の前には否定できなかった。

けれどコーラルの不安を他所に、駆け落ちしたダイアナを追いかけ続けることはせず、彼女が死んだ後は昔から良く知るピラッタの姿に戻ってくれた。
女主人が亡くなっているのに不謹慎だが、そのことにどれだけ安堵したことか。

ひとつ誤算があったとすれば、忘れ形見のはずのサファイアにまで興味を持たなかったことか。

けれど彼女は概ね善良に育っていた。父親が会いに来なくても、真面目に勉学に取り組み、使用人にも丁寧に振る舞い、わがままも散財も好き嫌いも言わない。

善良で優秀な、賢い少女だと思っていた。
彼女の父親への異常な執着に気付くまでは。

どうして会う機会はほとんどないのに、こうも似てくるのか。親子の縁とはつくづく不思議なものである。
こんな嫌なところで似ないで欲しかった、とコーラルは内心辟易していた。

その上、あの、人を切り捨てることになんの躊躇いのない目。
自分に処遇を求めてきたときの、氷のような目は毎日飽きるほど見るピラッタの目にそっくりで思わず目を逸らしてしまった。
5歳にしてもうあんな目をするなんて……。

それと、マルテッロが倒れた時に滑った、衣装部屋に突然現れた不自然な水溜り。
あれは水魔法だ。しかも、無から水を生み出す高位魔法。あれについても調査しなければならない。

……もしかしたら、お嬢様は旦那様を超える当主になるかもしれない。
コーラルはそんなこと考えながら、無表情で書類を片付けていくピラッタに未来のサファイアの姿を重ねた。





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