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5.魔法の才能
しおりを挟む邪魔な侍女を追い出し、屋敷は平和になった。
他のちょっと夢みがちだったメイドたちも彼女の顛末を聞いて、真剣に業務に励むようになった。
そんな中、
「お前に水魔法の教師をつける」
お父様は朝食の席で、そう告げた。
どうやら先日の“偶然”をコーラルがお父様に話したらしい。
「分かりました。精一杯励みます」
お父様の決定に、断る理由もないため私は受け入れた。
ただ授業になるかは分からないけれど……。
そうして今日、先生がやってきた。
「初めまして、私はベリルナ・ナイゼ。魔法省の人間で教職は本分ではないのだけれど、貴女の父君から依頼を受けて派遣されたわ。あの人とは同期なの」
「私がサファイア・テゾーロです。ナイゼ先生、宜しくお願いします」
ベリルナ・ナイゼは、見るからにプライドが高く傲慢そうな女性だった。魔法省は魔法研究、技術開発など魔法に関する知識と技の最前線なため、そこに所属しているのなら彼女も多少は腕が立つのだろう。
因みにお父様は学院でも大変成績が優秀で、学院卒業時には魔法省や騎士団などあらゆる最高機関からスカウトが届いていたとか。しかし卒業のタイミングで先代公爵夫妻が亡くなり、そのまま公爵となった。
顔も良くて頭も良くて剣術も出来て顔も良くて魔法も使えるなんて、私のお父様、最高すぎ!
「5歳の令嬢がどこまでやれるか、たかが知れてるけれど、私は教えるからには徹底的にやるので、そのつもりで」
「はい、分かりました」
「……」
一応先生なので、私はにこりと愛想良く笑ったが、ベリルナ・ナイゼの眉間の皺は深くなり、顎に手を当てじろじろと私を品定めしている。別に目を凝らしたからといって、魔法の才能が分かるわけではないので、これはただ単に私の品位の品定めなのだろう。
一通り眺め回して満足したナイゼはこれ見よがしにため息を吐く。
「……それにしても、テゾーロには全然似てないわね。托卵でもされたんじゃないの?あの売女に会って、あの男は腑抜けてしまったものね」
……は?
今、お父様のことを腑抜けって言ったかこいつ?
確かにお父様はお母様に出会って、大はしゃぎしてしまったけれど当主としてキチンと領地を纏めていた。他人にとやかく言われる筋合いはないのだが???
お母様を馬鹿にするのは構わないが、お父様を馬鹿にするのは許せない。しかも、“私は彼のことを理解してます”って態度がまたムカつく。
こいつも興味がないフリをしているけど、お父様のことが好きなんじゃないか?
そうならこの女には私の実力を見せつけて、お父様の娘は優秀だと、ひいてはお父様が優秀だと分からせてやらなければ。
私は心の中でベリルナ・ナイゼをこれでもかと罵倒しながら、そう決意した。
「まず、魔法についての基礎知識です。流石に知っているとは思いますが、魔法とは人間が精霊の力を借りて大気中のエーテルを動かすものです。人間は精霊の助けなしではエーテルを動かすことはできません。魔法の強さとは、即ち精霊との親和性の高さとその行使に耐えられる魔力をまわす回路の太さです」
ナイゼはそう解説しながら、水で満ちたコップをテーブルに置く。そしてコップの中にあった水を指で操り空に浮かべると球体や輪っか状に形を変える。
「四大魔法である土・風・火・水のなかでも、土と水はあらゆる場所に存在しているため簡単に行使することが出来ます。逆に火と水は魔法の核となる物質が必要になります。ですが、精霊との親和性を高め高位の魔法を使えるようになればそれらがなくとも魔法を行使することが可能になります」
ぐにゃぐにゃと動いていた水がコップに戻り、今度は空にかざしたナイゼの手に水球が作られていく。
偉そうな態度だけれど、授業はまともだし実力もまぁまぁあるみたいだ。流石、公爵家に送られてくるだけある。
私の値踏みする視線に気づいたのか、ナイゼはムッとしてメガネを押し上げる。
「幼いお嬢様には理論を聞くだけなのは退屈でしょう。お嬢様の実力も知りたいので、実際に魔法を使ってみましょう。お嬢様、コップの水を増やしてみてください」
そう言ってナイゼはずいっと私の前に水の入ったコップを差し出した。
水を生み出すなど、0から1を生み出す魔法は完全に精霊の領分であるが、水を増やすといった1を100に増やす魔法はそう難しい事ではない。その程度なら強い親和性がなくとも、そこに存在しているエーテルを精霊が勝手に仲介役となって水を注ぐように出し入れすることができるからだ。まぁ、出したものを戻すことは基本的に出来ないけれど。
つまり、これは初歩の初歩ということだ。
初めて本格的に魔法を行使するから、少し緊張する。
私はコップに手をかざし精霊に語りかけた。
「(このコップの水を増やして)」
コポッ
上手く何かと繋がった感覚がした。そうするとコップの中の水が揺らいで、半分だったコップの中の水が量を増し始めた。
その様子をナイゼが鼻で笑う。
「ふん、才能はあるようですね。ですが、これは魔法の中の初歩も初歩。お嬢様に精霊との親和性があるかのテストですから、寧ろ出来てもらわないと困ります。私も5歳の頃には桶の中に水を溜めて遊んでいましたので……あの、もう止めて構いませんよ」
コポコポ
水はコップから溢れ机を濡らし始めるが、止まる様子はない。ナイゼはその様子に戸惑い私に止めるように告げるが、残念ながらこの水は止められない。
「すみません先生。初めてで制御が出来なくて、止まりません」
「……まぁ、たかが小娘の魔力回路ではそのうち力尽きると思いますが……。精霊、止めてください」
ナイゼは直接精霊に語りかけて止めようとする。同じ属性の精霊と繋がりのあるもの同士は、他人が使おうとする魔法をより高い親和性を持つ者が打ち消すことが可能だ。
コポコポコポ
しかし、止まらないところをみると先生の親和性は初めて魔法を使う私より低いらしい。溢れる水の勢いは止まることを知らず、ついに床まで濡らし始めた。
そうなると流石にナイゼは焦り始めヒステリックな声を上げ出す。
「聞こえますか?止めてください。止めて………止めろって言ってるでしょ!」
コポコポコポコポコポコポ
最初は私もナイゼを驚かせようと思って少し机を濡らす程度を考えていたのだけれど、思ったよりガバガバに魔力を垂れ流してしまった。これで部屋を水没させてしまってお父様に怒られたらどうしよう。
濡れたくなくて必死に机から距離を取る彼女には期待できそうにないので、やっぱり自分でなんとかするしかなさそうだ。
「(水を止めなさい)」
そう何度も強く念じると、核となったコップの水が空に浮き、
盛大に弾け飛んだ。
バシャン!
「!?」
その結果、近くにいた私は当然、離れていたナイゼも水飛沫を全身に浴びてびしょ濡れになった。
ナイゼは言葉にならない怒声を噛み殺しながら、怒りに震えている。
「……ッ!どうなってるんですか!」
ようやく言葉を絞り出した彼女は、濡れた髪を勢いよくかきあげ、濡れた服に不快感を表しながら擦り落ちた眼鏡をハンカチで拭った。
「すみません、こんなことになるとは思っていなくて……」
私は文句を言われる前に、張り切りすぎて失敗してしまった子供のように項垂れた。何か言いたげだったが、流石に彼女も魔法初心者の子供が何かをしたとは思わないようで特に怒るようなことはなかった。
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