パパ溺愛幼女奮闘計画

片原痛子

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6話.水の精霊

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びしょ濡れになった服を着替え、場所を屋外に変えて私とナイゼは授業を続けた。

「いいですかお嬢様。貴女の力は危険なので、今後は室内で許可なく魔法を行使しないでください。分かりましたか?」

「分かりました」

私は素直に頷く。
まぁ行使しないとは言ってないけどね。
そんなずる賢い感情は隠し、私はしゅんっと悲しい顔で頷いた。

「お嬢様の親和性が高いのは分かりました。なので次のステップ、水を浮かせてみましょう。水を浮かせる魔法は精霊の力を借りなければ行使できません。慣れれば念じるだけで精霊と通じ合えますが、初心者は口に出して精霊に指示しましょう」

あ、その念話はさっきやりました。……とは言えないので、私は大人しく「水を浮かせて」と口にする。

チャプン

水はコップから浮かび上がり、ゆらゆらと空中で揺れる。やっぱり水が一番綺麗だ。土や風や火なんかより水が一番綺麗。
私は太陽の光をうけガラス玉のようにキラキラと輝く水球に目を奪われていた。

そんな私の子供らしい様子にナイゼは満足そうに頷く。

「では、形を変えていってみましょう」

形……何がいいだろう。丸やとげとげでは面白みがないし、私の凄さが伝えきれない。ここは一発、派手なものにしたい。

「鮫……いや、ワニ?タコ?」

「え?ちょっと、待ちなさい。貴女、また良からぬことを考えてるでしょう!止めなさい!」

「いや、もっと自由な……」

私の漏らした想像にナイゼは焦り出す。けれど同時に私の中にいいアイデアが浮かび、私は口角を上げた。
そして、その形を口に出す。

「ドラゴン」

そう呟いたと同時に、水は荒々しくうねり大きく姿を変え、あっという間に童話に出てくるような大きな翼に鱗だらけで鋭い爪の竜に姿を変えた。
水竜は声にならない咆哮を上げる。

「------!」

「な、ん、わ……」

ナイゼはポカンと口を開け水竜を見上げる。

「どうでしょうか、先生」

私はナイゼに向かって微笑んだ。しかし、彼女は頭を抱えて在らん限りの大声で叫んだ。

「もう帰らせてください!!!!!!」



その後、ベリルナ・ナイゼがこの屋敷に来ることは二度なかった。
それと同時に、彼女のプライドをへし折った少女として、魔法省で公爵家の天才公女がちょっとした噂になることを、私は知る由もなかった。

しかし……

『ウンディーネ様……今日のあれはやりすぎてはないですか?』

「あら、そうかしら。お父様を侮ったのだから水の檻に閉じ込めるくらいはしたかったんだけど……ダメね。人間の身体の要領がうまく掴めなくて派手な割に威力の低い技ばっかりになってしまって」

『十分凄かったですよ。水の大精霊の生まれ変わりであるウンディーネ様でなければ幼子であんなに水を増やせません!』

「今はサファイアよ」

私は浴槽に溜まった水を空に浮かべながら、水の精霊の頬を突いた。

私は水の魔法が使えるだけでなく、精霊自体を見ることができる。というのも、私の“前世”が水の精霊だったからである。

私はかつて偉大な水の大精霊、ウンディーネだった。しかしクソクソクソクソな浮気男に恋をして裏切られ、精霊としての死を迎え、どういう訳かそのときの記憶を持ったまま500年後に同じ王国に、人間として転生した。
あぁ、思い出しただけでも腹が立つ!王子だったかなんだか知らないが、何故か精霊との親和性は高く私と契約をして、散々私の力を借りて私に「愛してる。人か精霊なんて関係ない、ずっと一緒にいよう」と言ったのに、王太子に確定したらあっさり他の女と結婚した。確かに人と精霊の契りなんてあまり現実的ではないけれど、それなら最初から愛してるだとかずっと一緒にいたいなんて言わなきゃいいのに、精霊の力を借りるために私を好きなふりをしていたのだ。
それに気づいたとき、私は怒りのあまり王国を水没させようとして他の精霊たちとその契約者に総出で倒され精霊としての死を迎えた。
あの浮気男に鉄槌を下せなかったことが悔しくて悔しくて、無念の中消滅した私だったけれど、気がつけば人間の女として生まれ変わっていた。
最初はどういうことかと困惑したけれど、お父様と出会って全てが吹き飛んだ。

イケメンで、頭も良くて、水の精霊と相性もよくて、何よりすっっっっっっごく一途な人!

お父様は私の理想の男性そのものだ。ヘラヘラしないし、余計なことは言わないし、一人の女性だけを愛してくれる。
お母様はあんなにも全てを捧げて愛してくれるお父様の何が気に食わなかったのか、理解できない。私が結婚したいくらいだ。まぁ、お父様は私に興味ないけれど。でもそういう娘にすら愛想のない徹底した偏愛がお父様のいいところなのだ。
あ~~~転生してよかった!

『サファイア様……。あまり人間と精霊の和を乱すようなことはやめてくださいね?』

「そんなつもりはないけれど?」

『さっき自分の身体でエーテルを動かそうとしたじゃないですか!人間の身体でエーテルを動かそうとしたらマナが活性化しすぎてすぐ死んじゃいますよ!』

「だからちゃんとあなたたちに頼ったじゃない」

人間の身体は精霊と違いエーテルで作られていないので直でエーテルを動かそうとするとエーテルに魔力回路が耐えきれなくて焼き切れてしまう。その結果、身体の中にある魂を動かすためのマナを回すことも出来ず人間は死ぬ。
ただ、さっき使ってみようとした所感では10秒くらいなら使えなくもないかな?といったところだ。

水の小精霊たちがプンプンと頬を膨らませながら私の頭上を飛び回る。

『サファイア様が張り切るからみんなも張り切っちゃって、大変なことになっちゃいましたよ!』

「でも、みんなも楽しかったでしょう?あんな偉そうな女が泣きながら逃げ帰る姿」

『それは……確かに』

精霊たちはその顔を思い出して楽しそうに笑う。精霊はいたずら好きで人間の困る姿が大好きだ。もちろん、元精霊である私もそうだ。

変わらない精霊たちの姿に安心すると同時に、私はもう彼らと同じ存在ではないことに言いしれぬ疎外感を感じて寂しい気持ちになった。

「ねぇ……私、凄く可哀想な死に方をしちゃったじゃない?だから今度はもうあんな恋はしたくない。この家で、お父様とずっと一緒に暮らしていきたいの」

私は精霊たちに語りかける。精霊たちは私の寂しい気持ちを察して、慰めるように寄り添ってくれた。

「だからね、手伝ってくれるわよね」

私の問いに精霊たちはにっこりと笑う。

『勿論だよ、サファイア様!』

彼らがそういうと、浮かべた水球は花に形を変えて浴室を彩った。

私には精霊たちがついている、そのことが何より、私に力を与えてくれる。だから私は何より強い。例えこれからどんな女たちがお父様を誘惑しても、全部蹴散らしてやる!

私は今一度、強くそう決意した。



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