7 / 19
7話.王宮のお茶会
しおりを挟む「このるびーはパパがかってくれたの!」
「わたしのてぃあらのほうがかわいいもん」
今日、私とお父様は王宮でのお茶会に訪れていた。
私もお父様も行きたくはなかったが、残念ながら王宮からの招待を理由もなく断ることはできない。
王宮でのお茶会は毎年春に開かれていて、5歳から7歳くらいまでの子供を集め子供の顔合わせといずれ訪れる社交界への練習を兼ねている。
早い子供は既に家庭教師を雇い礼儀作法の教育を受けているが、5歳くらいではまだ教育を受けていない子供の方が多い。
つまり何が言いたいかというと、凄くうるさい!!!
食器はガチャガチャさせるし、食べ方は汚いし、人の言葉を遮って好き勝手に喋る。精霊だった頃は何とも思わなかったのに、人間の今はどうにも気になって仕方ない。
「ねぇ、サファイアちゃんのパパかっこいいね!ママも好きって言ってた!」
「わたし、サファイアちゃんのパパがパパがいい」
お父様は私だけのお父様なんですけど!?
怒りのあまり、目の前のカップの紅茶がぐつぐつと音を立て始める。
『サファイア様!エーテルは使っちゃダメだって!』
精霊が必死に私の周りを飛び回り、魔力を水を生み出す魔法に変換して庭園の花に撒いてくれる。もし精霊たちがいなければ、家庭教師の時のようにカップから無限に紅茶を生み出していただろう。
私はチラリと少し離れた所にもう一つの庭園を見る。
ここからでもお父様が男女問わず囲まれているところが見えて、私は歯軋りをした。
今すぐここから抜け出して「お父様に近づかないで!」と言って回りたいけれど、これは令嬢の品位を示す場。
喚き散らし社交的でない面を見せれば今後の社交にも関わるし、公爵家の品位が、お父様の評判に関わる。
だから、我慢しなければならない。
我慢しなければ……。
「きゃっ」
バシャッ
私が怒りに耐えていた時、隣にいた令嬢が手にしていたカップを取り落としその中身が私のドレスへとぶちまけられた。
「…………」
「う、わ、わあああああああん」
お茶を溢した令嬢はびっくりしたのか、泣き始めてしまう。私はもう、怒りを通り過ぎて感情が消えてしまい、むしろ優しい気持ちで令嬢を慰める。
「大丈夫ですか?驚きましたね」
ハンカチを取り出し令嬢の涙を拭う。幸い、溢れた紅茶は温く火傷する様な物でもなく、カップも取っ手が割れただけで怪我につながる様なこともない。
「サファイアちゃん、だいじょうぶ?」
「ママよんでくる!」
突然のことに呆然としていた令嬢たちも事態が飲み込めてきたのか仕切りに「大丈夫?」と聞いてくる。抜け出すなら今しかない。
私は自然な態度で席を立ち、悲しい顔でドレスを拭う。
「私は大丈夫です。でも、ドレスが汚れちゃったので、水で洗ってきますね」
そして大人が集まる前に私はさっさとその場から逃げ出した。
「紅茶でよかった。目立つシミにはならなさそうだわ」
私は人気のない噴水で、水魔法を使ってドレスの染み抜きをする。溢されたのは紅茶でまだ乾いてもなかったので汚れは簡単に落とすことができた。
『サファイア様……大丈夫ですか?』
「身体的には問題ないけど、精神的には大分きついわ」
『もうピラッタ様と帰られてはどうですか?』
「王宮のお茶会を途中で帰るのもねぇ」
私は濡れたドレスを絞り、パッパッと水気を飛ばしながら皺を伸ばす。火魔法や風魔法が使えれば、もう少し早く乾かせるのに。私はドレスが乾くのを噴水に腰を掛けながら待った。
春の風は少し肌寒くて、乾くのには時間がかかりそうだ。
「はぁ………」
私は多くの人に囲まれるお父様を思い出して、ため息を吐いた。お父様は周りに人を侍らせたい人間ではないけれど、周りの人はそうじゃない。お父様の地位と財産に群がり、なんとか目をかけて貰おうと必死だ。若くして手に入れた公爵家というのはそれほどまでに魅力的なのだ。
これから大きくなって一緒に社交界に出入りするようになったらこんな光景が当たり前になるのかと思うと、憂鬱な気持ちになる。
こんなことなら、誰か扱いやすくて都合のいい、私の言いなりになってくれる、お父様を愛さない女と適当にくっつけられないかなぁ~なんて。そんな都合のいい女はいないけど。
「お嬢さん、1人?」
私がぼんやり雲を眺めていると、緑のドレスの婦人が声をかけてきた。
「どうしてこんなところに一人でいるの?お茶会はどうしたの」
「えっと、ドレスを汚しちゃって。洗ったドレスを乾かしていたんです」
「あらそうなの?じゃあ……風の精霊さん、彼女のドレスを乾かしてあげて」
婦人がそういうとどこからか温かい風が吹き、私のドレスを温めていく。
風魔法だ。水の精霊だった私には馴染みがなく、思わずしげしげと観察してしまう。その様子を婦人は微笑ましそうに眺めていた。
「ふふ、魔法は初めてかしら」
「え、あ、まぁはい、そうですね」
魔法自体は初めてではないけれど、この人に態々言うことでもないし、風魔法は初めてだったので頷いておく。
「魔法使いは珍しいからね。ほら、ドレスは乾いたわ。これでお茶会に戻れるわね」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「………」
「………」
私はもう少ししてから帰ろうと思っていたけれど、婦人はじっと私が帰るのを待っている。お互いに動かず、気まずい空気が流れ始める。
「……会場に戻らないの?」
「いえ、あの」
私が帰らないのを不思議に思ったのか、婦人がそう聞いてきた。私はどう言い訳したものか考えるが、そんな私の手を
婦人は勝手に取った。
「一人で戻るのが恥ずかしいなら、一緒に帰りましょう」」
「え!?ちょっと!」
婦人はスタスタと私の手を引いてお茶会の会場へと引っ張って行く。
この婦人、人の良さそうな笑みを浮かべるけれど、他人をコントロールしようとする圧を感じる。
知らない婦人に手を引かれ会場に戻ると、お父様が私を見つけこちらに来てくれた。
「どこに行っていた?」
お父様は私が勝手に行動したことに少し苛立っているようだ。しまった、お父様は私がどこで何しようが興味がないと思っていたけれど、ここは屋敷ではないので保護者として私を監視しなければならないのだ。
「少しお手洗いに……」
「ドレスに茶をかけられたと聞いていたが?」
「………はい。なので少し席を外していました。ドレスは洗ったのでもう汚れてません」
お父様に失態は知られたくなくて誤魔化そうとしたけれど、既に話はお父様まで伝わっていたらしい。そりゃあ、あんなに騒いでればそうか。
「そうか。で、お前は?」
お父様は興味なさげに頷くと、いつまでも私の手を握り隣に立つ婦人に目を向けた。
婦人はそこでようやく、礼をして自らの身分を名乗る。
「こんにちは。私はブレッサ・プリマヴェーラ。この子はテゾーロ様のご息女でしたのね。彼女とはたまたま噴水前でお会いして、会場に戻り辛そうだったのでご一緒したんです。ね?」
「っ……はい」
私は婦人の笑みに舌打ちをしそうになるのを堪えて頷く。
くそ、先天を取られた。
この女、絶対私がお父様の娘だと分かっていて声をかけた癖に、白々しい。私を無理矢理に連れてきたのもお父様に近づくためだったんだ。
何とかこの女とお父様を引き離したいのに、彼女のことを全く知らないから、どういう手を打ってくるのか全く分からなくて、ペースに呑まれている。
「ご息女はとても賢い子ですのね。けれど同じ年齢の子とは話が合いそうにありませんわね……そうだ!これも何かの縁ですし、私の娘とお友達になりませんか?」
「あの、私は……」
「スフェン!こっちに来て!」
婦人は私たちの話も聞かずに一方的に言い募り、自分の娘を呼ぶ。強引にも程がある!というか、そろそろ手を離して欲しい!
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
スラム街の幼女、魔導書を拾う。
海夏世もみじ
ファンタジー
スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。
それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。
これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』
YOLCA(ヨルカ)
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」
名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。
死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。
彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。
それから数年。
エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。
すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。
一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。
「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」
捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。
今、その幕が上がる。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
n番煎じの脇役令嬢になった件について
momo
ファンタジー
ある日、突然前世の記憶を思い出したレスティーナ。
前世、知識モンスターだった研究者の喪女であった事を思い出し、この世界が乙女ゲーム『光の聖女と聖なる騎士』だった事に驚く。
が、自分は悪役令嬢でも無く、ヒロインでもない成金のモブ令嬢だったと気付いて本編始まったら出歯亀しようと決意するのだった。
8歳で行われた祝福の儀で、レスティーナは女神イリスに出会う。女神の願いを叶える為に交換条件として2つの祝福を貰い乙女ゲーそっちのけで内政に励むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる