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The Season of Fresh Green ー第6話ー
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その時——
さあっと雨の音がやってきた。
桜の若葉をすり抜けて、突然の雨粒が細かく降り注ぐ。
「……え、やばい! 今日雨とかだったか!?」
「いや、俺も聞いてないが……しかし安心しろ、折りたたみは常備してる」
「お、さすが。助かったわー。
でも、ビールもまだ途中だし……ちょっと残念だな……。
せっかくだから、俺のとこで続きやるか? 部屋すぐそこだからさ」
「……ん、そうだな。傘も一本しかないし」
そんなわけで、淡い春雨の中を急ぎ足で吉野の部屋へ向かう二人である。
「お前の部屋近くて助かった。タオルとか借りられるか? 傘ひとつだし、少し濡れた……」
持っていた荷物を置き、スーツの上着を脱いだ岡崎の背後から、不意にふわりと腕が回った。
「…………」
一瞬驚きながらも、その腕に抗うことはせず——
岡崎は、自分の背を包む吉野の温かさを静かに受け取った。
「—————晶」
その肩越しに、吉野の囁きが小さく耳を掠める。
おずおずと、岡崎はその声に応え……
互いの唇が静かに近づき——柔らかに重なった。
「——邪魔だ」
吉野は、小さく呟きながらそっと岡崎のメガネを外す。
肩越しだったキスは、やがて向き合い——ぎこちなく戸惑いつつ、深くなっていく。
唇を離し、微かに乱れた息で互いに額を寄せた。
やがて吉野の唇は、岡崎の耳元から顎の輪郭をそっと辿り——
行く手を遮る邪魔なものを全て取り払おうと、その指は岡崎のネクタイの結び目にかかる。
結び目がほどけるなり、堪りかねたようにその背を抱きすくめ、側のベッドへどさりと横たえた。
そんな吉野の行動を、岡崎は息を乱しつつ黙って受け止める。
熱を含んだキスを交わし——
吉野の指が、岡崎のワイシャツの首から胸元のボタンを緩めた。
温かな肌の甘い匂いに意識を翻弄されながら、吉野の唇が岡崎の白い首筋から滑らかな鎖骨をなぞる。
「…………っ……
——吉野、待っ……」
眉間をわずかに歪め——微かに色づく吐息と共に、岡崎が囁いた。
だが吉野の脳には、その囁きが届かない。
「…………吉野。
待ってくれ。
————順」
岡崎にそう呼ばれ、吉野はびくりと動きを止めた。
「————あ……」
我に返ったような吉野の瞳を、岡崎は見上げ——不安げに緊張した目で問いかけた。
「……お前……
——ちゃんと、知ってるのか」
「……何を」
「だから……その。
方法を、ちゃんと知っているのか?」
「…………え…………
……そ、それは……あまり詳しくは…………」
そんな吉野のしどろもどろな回答に、岡崎は複雑な表情になってむくりと身を起こす。
「…………
知識不足の男に身体を預ける勇気はない」
「……え……えっっ……!!?
ちょっ待て、知識がないなりにできることも少しは……あっあるんじゃないか!?」
「おい。俺の身にもなれっっ!!
こっこういうのとにかく……はっ初めてなんだよっ!!!
お互いやり方もよく知らないまま、やる気満々な若い男に身を任せるとか……無理だ。そんなの怖くてできるかっっ!!!」
岡崎はガバリとベッドを降りると、胸元のボタンと解けたネクタイをせわしなく直しにかかる。
「とにかく今日は延期だ!! これ以上いられないしもう帰るからなっっ」
「えーーーーー…………ウソお~~~~…………」
呆然とする吉野を尻目に荷物を掴んでバタバタと慌ただしく玄関先まで来ると、岡崎はふと立ち止まる。
一瞬躊躇いながら、恥ずかしげに振り向き……熱のまだ冷め切らない瞳で、吉野をじっと見つめた。
「——残念だ。
でも……色々知ってからだ。ちゃんと。
————また来るから」
小さくそう言い残すと、岡崎はそのままバタンと玄関を出て行った。
「…………うおあああぁぁぁぁぁ~~~~~っっ!!!!
無理!! ほんとムリっっ! この状態でこの後どーしろってんだよ!? くそぉーーっっいっそ殺せ!!
いつか叶えばいい? はあ? そんなの撤回だ!!! もーーーー今すぐ同棲するっっっ!!!!!」
たまらない視線でとどめを刺されたまま玄関に取り残され、頭を抱えてゴロゴロと悶絶する吉野である。
✳︎
GWの谷間の、水曜の夜。
リナと吉野、岡崎の3人は、焼き鳥の美味な居酒屋に集まっていた。
「たまには、美味しいお料理がっつり食べられる飲み会も大事よね?ってことで、二人の再会を祝して!! かんぱ~~~~いっっ♡♡」
リナが、いつものように突き抜けた明るさで音頭をとる。
「お前、とりあえずこういう会はもれなく開催するのなー」
「当たり前でしょ~~?? 一時はもう岡崎さんに会えないんじゃないかと本気で思ってたんだから……岡崎さん、おかえりなさい!! またこうして会えて、最高に嬉しいわ!!」
「リナさんにそんな風に言ってもらえると、俺もここにいられて幸せだとしみじみ思えます」
「まったく順がどこまでも鈍いからねー、岡崎さんも苦労するわよねえ……まあでも、何やらモヤモヤしてたあなたたちの何かも片付いたみたいだし♡ 今日はもー私が奢っちゃうっっ!♪♪」
「ええ、本当に苦労の連続です、こいつのせいで」
「おい、ちょっとは否定しないのか」
「本当にクソ鈍いだろ。どこをどうやって否定しろというんだ」
「あーーーほらほらもーケンカやめてよっ!」
そんな話で笑い合いつつ、久々の飲み会は賑やかに盛り上がっていった。
「さー、じゃそろそろいいかしら~?
二人とも、私が言っておいたものはちゃんと用意してきたわね?」
宴もいい感じに深まった頃、リナが一層ウキウキとした笑みで二人の顔を覗き込んだ。
「……なんだっけ」
吉野がビールのジョッキを呷り、どこかしらばっくれたようにそう返す。
「だからー、再会記念のプレゼントよっ。
二人とも、お互いへの想いを精一杯込めたプレゼントを選んで、お互いに贈り合うのはどう?♡って言っといたでしょ? 二人とも異論なかったじゃないの~」
「…………」
ここにきて、二人はいきなりもじもじとためらい出した。
「ちょっと、何よ~~? 子供じゃないんだからさっ。
ほら、ぐずぐずしないでちゃんと出しなさい! せーのっっ!!」
リナの掛け声で二人が仕方なく取り出したのは、どちらもなんとも小さなサイズの品物だ。
それぞれきちんとラッピングしてあるので、中身はわからない。
「……どうして、二人ともおんなじ感じで小さいの?」
「……さあ。なんでだ?」
3人で、不思議そうな顔を見合わせる。
「……っていうか、ここでは絶対開けるなよそれ!!」
「それは俺の台詞だっ」
どことない二人の動揺っぷりもそっくりだ。
「……何かしらこのシンクロ具合は。
ま、でもいいわ♡ 二人の大切な記念品、ここで見せろなんてもちろん私も言わないしね~~♪
じゃ、二人とも!! それ、これからちゃんと大切にしなさいよ! わかった??」
リナが、ムフフフ~♡とでも聞こえてきそうなニマニマ顔で二人にそう言い聞かせる。
二人は、受け取ったものを厳重にビジネスバッグに保管しつつ、何やら剣のある物言いで互いに念を押し始めた。
「てめえ、それ間違っても失くしたりするなよな!」
「お前こそ。紛失したらただじゃ済まないからな!」
「ちょっと、なんでそんなにムキになってんのよ~二人とも??」
——二人とも、もちろんまだ知らない。
そのラッピングの中身が、お互いの部屋の合い鍵であることを。
そして……リナも、まだ気づかない。
居酒屋の隅で、自分をじっと見つめる男の目があることを。
——そんなこんなで、初夏を迎えた賑やかな夜は更けていく。
何があるかわからないこの先を、それぞれに明るい気持ちで見つめながら。
さあっと雨の音がやってきた。
桜の若葉をすり抜けて、突然の雨粒が細かく降り注ぐ。
「……え、やばい! 今日雨とかだったか!?」
「いや、俺も聞いてないが……しかし安心しろ、折りたたみは常備してる」
「お、さすが。助かったわー。
でも、ビールもまだ途中だし……ちょっと残念だな……。
せっかくだから、俺のとこで続きやるか? 部屋すぐそこだからさ」
「……ん、そうだな。傘も一本しかないし」
そんなわけで、淡い春雨の中を急ぎ足で吉野の部屋へ向かう二人である。
「お前の部屋近くて助かった。タオルとか借りられるか? 傘ひとつだし、少し濡れた……」
持っていた荷物を置き、スーツの上着を脱いだ岡崎の背後から、不意にふわりと腕が回った。
「…………」
一瞬驚きながらも、その腕に抗うことはせず——
岡崎は、自分の背を包む吉野の温かさを静かに受け取った。
「—————晶」
その肩越しに、吉野の囁きが小さく耳を掠める。
おずおずと、岡崎はその声に応え……
互いの唇が静かに近づき——柔らかに重なった。
「——邪魔だ」
吉野は、小さく呟きながらそっと岡崎のメガネを外す。
肩越しだったキスは、やがて向き合い——ぎこちなく戸惑いつつ、深くなっていく。
唇を離し、微かに乱れた息で互いに額を寄せた。
やがて吉野の唇は、岡崎の耳元から顎の輪郭をそっと辿り——
行く手を遮る邪魔なものを全て取り払おうと、その指は岡崎のネクタイの結び目にかかる。
結び目がほどけるなり、堪りかねたようにその背を抱きすくめ、側のベッドへどさりと横たえた。
そんな吉野の行動を、岡崎は息を乱しつつ黙って受け止める。
熱を含んだキスを交わし——
吉野の指が、岡崎のワイシャツの首から胸元のボタンを緩めた。
温かな肌の甘い匂いに意識を翻弄されながら、吉野の唇が岡崎の白い首筋から滑らかな鎖骨をなぞる。
「…………っ……
——吉野、待っ……」
眉間をわずかに歪め——微かに色づく吐息と共に、岡崎が囁いた。
だが吉野の脳には、その囁きが届かない。
「…………吉野。
待ってくれ。
————順」
岡崎にそう呼ばれ、吉野はびくりと動きを止めた。
「————あ……」
我に返ったような吉野の瞳を、岡崎は見上げ——不安げに緊張した目で問いかけた。
「……お前……
——ちゃんと、知ってるのか」
「……何を」
「だから……その。
方法を、ちゃんと知っているのか?」
「…………え…………
……そ、それは……あまり詳しくは…………」
そんな吉野のしどろもどろな回答に、岡崎は複雑な表情になってむくりと身を起こす。
「…………
知識不足の男に身体を預ける勇気はない」
「……え……えっっ……!!?
ちょっ待て、知識がないなりにできることも少しは……あっあるんじゃないか!?」
「おい。俺の身にもなれっっ!!
こっこういうのとにかく……はっ初めてなんだよっ!!!
お互いやり方もよく知らないまま、やる気満々な若い男に身を任せるとか……無理だ。そんなの怖くてできるかっっ!!!」
岡崎はガバリとベッドを降りると、胸元のボタンと解けたネクタイをせわしなく直しにかかる。
「とにかく今日は延期だ!! これ以上いられないしもう帰るからなっっ」
「えーーーーー…………ウソお~~~~…………」
呆然とする吉野を尻目に荷物を掴んでバタバタと慌ただしく玄関先まで来ると、岡崎はふと立ち止まる。
一瞬躊躇いながら、恥ずかしげに振り向き……熱のまだ冷め切らない瞳で、吉野をじっと見つめた。
「——残念だ。
でも……色々知ってからだ。ちゃんと。
————また来るから」
小さくそう言い残すと、岡崎はそのままバタンと玄関を出て行った。
「…………うおあああぁぁぁぁぁ~~~~~っっ!!!!
無理!! ほんとムリっっ! この状態でこの後どーしろってんだよ!? くそぉーーっっいっそ殺せ!!
いつか叶えばいい? はあ? そんなの撤回だ!!! もーーーー今すぐ同棲するっっっ!!!!!」
たまらない視線でとどめを刺されたまま玄関に取り残され、頭を抱えてゴロゴロと悶絶する吉野である。
✳︎
GWの谷間の、水曜の夜。
リナと吉野、岡崎の3人は、焼き鳥の美味な居酒屋に集まっていた。
「たまには、美味しいお料理がっつり食べられる飲み会も大事よね?ってことで、二人の再会を祝して!! かんぱ~~~~いっっ♡♡」
リナが、いつものように突き抜けた明るさで音頭をとる。
「お前、とりあえずこういう会はもれなく開催するのなー」
「当たり前でしょ~~?? 一時はもう岡崎さんに会えないんじゃないかと本気で思ってたんだから……岡崎さん、おかえりなさい!! またこうして会えて、最高に嬉しいわ!!」
「リナさんにそんな風に言ってもらえると、俺もここにいられて幸せだとしみじみ思えます」
「まったく順がどこまでも鈍いからねー、岡崎さんも苦労するわよねえ……まあでも、何やらモヤモヤしてたあなたたちの何かも片付いたみたいだし♡ 今日はもー私が奢っちゃうっっ!♪♪」
「ええ、本当に苦労の連続です、こいつのせいで」
「おい、ちょっとは否定しないのか」
「本当にクソ鈍いだろ。どこをどうやって否定しろというんだ」
「あーーーほらほらもーケンカやめてよっ!」
そんな話で笑い合いつつ、久々の飲み会は賑やかに盛り上がっていった。
「さー、じゃそろそろいいかしら~?
二人とも、私が言っておいたものはちゃんと用意してきたわね?」
宴もいい感じに深まった頃、リナが一層ウキウキとした笑みで二人の顔を覗き込んだ。
「……なんだっけ」
吉野がビールのジョッキを呷り、どこかしらばっくれたようにそう返す。
「だからー、再会記念のプレゼントよっ。
二人とも、お互いへの想いを精一杯込めたプレゼントを選んで、お互いに贈り合うのはどう?♡って言っといたでしょ? 二人とも異論なかったじゃないの~」
「…………」
ここにきて、二人はいきなりもじもじとためらい出した。
「ちょっと、何よ~~? 子供じゃないんだからさっ。
ほら、ぐずぐずしないでちゃんと出しなさい! せーのっっ!!」
リナの掛け声で二人が仕方なく取り出したのは、どちらもなんとも小さなサイズの品物だ。
それぞれきちんとラッピングしてあるので、中身はわからない。
「……どうして、二人ともおんなじ感じで小さいの?」
「……さあ。なんでだ?」
3人で、不思議そうな顔を見合わせる。
「……っていうか、ここでは絶対開けるなよそれ!!」
「それは俺の台詞だっ」
どことない二人の動揺っぷりもそっくりだ。
「……何かしらこのシンクロ具合は。
ま、でもいいわ♡ 二人の大切な記念品、ここで見せろなんてもちろん私も言わないしね~~♪
じゃ、二人とも!! それ、これからちゃんと大切にしなさいよ! わかった??」
リナが、ムフフフ~♡とでも聞こえてきそうなニマニマ顔で二人にそう言い聞かせる。
二人は、受け取ったものを厳重にビジネスバッグに保管しつつ、何やら剣のある物言いで互いに念を押し始めた。
「てめえ、それ間違っても失くしたりするなよな!」
「お前こそ。紛失したらただじゃ済まないからな!」
「ちょっと、なんでそんなにムキになってんのよ~二人とも??」
——二人とも、もちろんまだ知らない。
そのラッピングの中身が、お互いの部屋の合い鍵であることを。
そして……リナも、まだ気づかない。
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