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イライラする
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「――――――フンッ!」
フォートは水龍のようなモンスターに向かって、その流れるような剣で縦に捌いた。
今、目の前にはぎっしりと海の魔物が陸に向かって押し寄せている。
南の国境沿いでスタンピードが発生し、フォートは騎士団を連れて急ぎ現場に駆け付けた。
もちろん、何があるか分からないのだから全軍ではない。
常に国境を警備する兵は置いてあるし、中央にいる騎士団も残してはある。
現場に駆け付けると、南を守護する領地の領主と兵士たちが先に応戦していた。
負傷兵の撤退と治療の指示を行い、無事な者たちへ指揮をとる。
頭の中は昨日のことでいっぱいなのに。
『友人としてでいいから、これからもずっとそばにいてほしいんだ。』
そう、力なく笑ったジニアル殿下。
もやもやと胸がつかえ、今日はいらいらする。
自分で自分の考えがまとまらない自分にイライラするのだ。
あれから、なんでもない顔をして、二人で過ごしている。
やはり、自分と彼とはぴったりで、二人が一番居心地がいいのだ。
私だって、彼が好きだ。愛している。
彼と結婚できたらどんなにいいだろうか。
でもきっと、私たちには障害が多すぎる。
あの執務室とそのそばの一室、そして薔薇園が二人の世界だ。
「はぁああああああああああっ!」
すべてをモンスターにぶつけ、少しスッキリした頃には、たいした被害もなく無事にスタンピードは解消していた。
あの手を取れたらいいのに。
城に戻って、自分に与えられたもう一つの部屋で汗を流して着替えると、ジニアル殿下の母親であるハニュ王妃とばったりと会った。
「あら!あなたがフォートさんね。初めまして。私、貴方にお会いしたかったのよ。ジニアルは紹介してくれないんだもの。ねえ、お話しましょう?」
ジニアルによく似た貌の、金髪碧眼の美しい女性は、長い髪を上に結い上げ、まだ少女のようにほほ笑んだ。
妃の応接間につくと、彼女は屈強な女性の近衛兵と侍女数名のみを残し、他を下がらせる。
「安心なさって。彼女たちは私の輿入れの時に帝国からついてきた私の側近。帝国でもなくこの国でもなく、私についているの。」
天然でほわほわした方で、失礼ながらおよそ王妃らしい立ち回りが期待できない女性という印象だったが、そうではないらしい。
「ジニアルによくしてくれてありがとう。あなたとジニアルは好きあっているのよね。」
「………。」
「ああ、立場もおありでしょうし何もおっしゃらなくていいわ。私の独り言で、勝手な思い込みよ。でも、私は貴方がジニアルとお付き合いされているのなら、とても嬉しいわ。」
「なぜでしょう?男同士では子もできません。」
「あの子には女性は無理よ。あの子はねぇ、帝国の王族の血が強すぎるのだわ。」
そういうと、王妃は自分のカップの紅茶を一口飲んだ。
「帝国の王族は、よくいえばカリスマ。悪く言えば魅了の力を持つのよね。魅了と言っても、そんなに強くないのよ。あなたの周りにもいるでしょう?なぜか人に可愛がられる人とか。そんな感じなんだけれど。あの子はねえ、対象が異性限定だった代わりに効果が強力すぎて、あの子の前では女性は正気ではいられないのよ。」
「あなたや王太子妃は平気なのでは?」
「ほかに愛している方がいる方には効かないのよ。私は、同じように弱くても力があるから、かしら。幼い頃はお菓子を貰うとかそんな程度だったから良かったのだけど、思春期になるにつれ、強くなりすぎちゃってね。」
ああ、それが例の事件なのか。
確かに、いくらなんでも高位の貴族令嬢がそんなに取っ組み合いのけんかをするものだろうか、と思っていたのだ。
「もう、あの子はこのままでは社交界にも出られないわ。あれからあの子、この城から出ていないの。あの子の周りに女性は誰一人配置もしていない。あの子は、通信教育で卒業したわ。私、結婚とか子作りとかどうでもいいから、ただ幸せになって欲しいの。ねえお願い。あなたもあの子を好いてくれるなら、私がなんとでもするわ。あの子を受け入れて。」
そんなこと言われても困ります。困るんです…。
フォートは水龍のようなモンスターに向かって、その流れるような剣で縦に捌いた。
今、目の前にはぎっしりと海の魔物が陸に向かって押し寄せている。
南の国境沿いでスタンピードが発生し、フォートは騎士団を連れて急ぎ現場に駆け付けた。
もちろん、何があるか分からないのだから全軍ではない。
常に国境を警備する兵は置いてあるし、中央にいる騎士団も残してはある。
現場に駆け付けると、南を守護する領地の領主と兵士たちが先に応戦していた。
負傷兵の撤退と治療の指示を行い、無事な者たちへ指揮をとる。
頭の中は昨日のことでいっぱいなのに。
『友人としてでいいから、これからもずっとそばにいてほしいんだ。』
そう、力なく笑ったジニアル殿下。
もやもやと胸がつかえ、今日はいらいらする。
自分で自分の考えがまとまらない自分にイライラするのだ。
あれから、なんでもない顔をして、二人で過ごしている。
やはり、自分と彼とはぴったりで、二人が一番居心地がいいのだ。
私だって、彼が好きだ。愛している。
彼と結婚できたらどんなにいいだろうか。
でもきっと、私たちには障害が多すぎる。
あの執務室とそのそばの一室、そして薔薇園が二人の世界だ。
「はぁああああああああああっ!」
すべてをモンスターにぶつけ、少しスッキリした頃には、たいした被害もなく無事にスタンピードは解消していた。
あの手を取れたらいいのに。
城に戻って、自分に与えられたもう一つの部屋で汗を流して着替えると、ジニアル殿下の母親であるハニュ王妃とばったりと会った。
「あら!あなたがフォートさんね。初めまして。私、貴方にお会いしたかったのよ。ジニアルは紹介してくれないんだもの。ねえ、お話しましょう?」
ジニアルによく似た貌の、金髪碧眼の美しい女性は、長い髪を上に結い上げ、まだ少女のようにほほ笑んだ。
妃の応接間につくと、彼女は屈強な女性の近衛兵と侍女数名のみを残し、他を下がらせる。
「安心なさって。彼女たちは私の輿入れの時に帝国からついてきた私の側近。帝国でもなくこの国でもなく、私についているの。」
天然でほわほわした方で、失礼ながらおよそ王妃らしい立ち回りが期待できない女性という印象だったが、そうではないらしい。
「ジニアルによくしてくれてありがとう。あなたとジニアルは好きあっているのよね。」
「………。」
「ああ、立場もおありでしょうし何もおっしゃらなくていいわ。私の独り言で、勝手な思い込みよ。でも、私は貴方がジニアルとお付き合いされているのなら、とても嬉しいわ。」
「なぜでしょう?男同士では子もできません。」
「あの子には女性は無理よ。あの子はねぇ、帝国の王族の血が強すぎるのだわ。」
そういうと、王妃は自分のカップの紅茶を一口飲んだ。
「帝国の王族は、よくいえばカリスマ。悪く言えば魅了の力を持つのよね。魅了と言っても、そんなに強くないのよ。あなたの周りにもいるでしょう?なぜか人に可愛がられる人とか。そんな感じなんだけれど。あの子はねえ、対象が異性限定だった代わりに効果が強力すぎて、あの子の前では女性は正気ではいられないのよ。」
「あなたや王太子妃は平気なのでは?」
「ほかに愛している方がいる方には効かないのよ。私は、同じように弱くても力があるから、かしら。幼い頃はお菓子を貰うとかそんな程度だったから良かったのだけど、思春期になるにつれ、強くなりすぎちゃってね。」
ああ、それが例の事件なのか。
確かに、いくらなんでも高位の貴族令嬢がそんなに取っ組み合いのけんかをするものだろうか、と思っていたのだ。
「もう、あの子はこのままでは社交界にも出られないわ。あれからあの子、この城から出ていないの。あの子の周りに女性は誰一人配置もしていない。あの子は、通信教育で卒業したわ。私、結婚とか子作りとかどうでもいいから、ただ幸せになって欲しいの。ねえお願い。あなたもあの子を好いてくれるなら、私がなんとでもするわ。あの子を受け入れて。」
そんなこと言われても困ります。困るんです…。
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