冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である

竜鳴躍

文字の大きさ
10 / 96

イライラする

しおりを挟む
「――――――フンッ!」


フォートは水龍のようなモンスターに向かって、その流れるような剣で縦に捌いた。

今、目の前にはぎっしりと海の魔物が陸に向かって押し寄せている。




南の国境沿いでスタンピードが発生し、フォートは騎士団を連れて急ぎ現場に駆け付けた。

もちろん、何があるか分からないのだから全軍ではない。

常に国境を警備する兵は置いてあるし、中央にいる騎士団も残してはある。


現場に駆け付けると、南を守護する領地の領主と兵士たちが先に応戦していた。

負傷兵の撤退と治療の指示を行い、無事な者たちへ指揮をとる。



頭の中は昨日のことでいっぱいなのに。




『友人としてでいいから、これからもずっとそばにいてほしいんだ。』



そう、力なく笑ったジニアル殿下。




もやもやと胸がつかえ、今日はいらいらする。

自分で自分の考えがまとまらない自分にイライラするのだ。



あれから、なんでもない顔をして、二人で過ごしている。



やはり、自分と彼とはぴったりで、二人が一番居心地がいいのだ。


私だって、彼が好きだ。愛している。
彼と結婚できたらどんなにいいだろうか。

でもきっと、私たちには障害が多すぎる。


あの執務室とそのそばの一室、そして薔薇園が二人の世界だ。





「はぁああああああああああっ!」

すべてをモンスターにぶつけ、少しスッキリした頃には、たいした被害もなく無事にスタンピードは解消していた。






あの手を取れたらいいのに。






城に戻って、自分に与えられたもう一つの部屋で汗を流して着替えると、ジニアル殿下の母親であるハニュ王妃とばったりと会った。



「あら!あなたがフォートさんね。初めまして。私、貴方にお会いしたかったのよ。ジニアルは紹介してくれないんだもの。ねえ、お話しましょう?」

ジニアルによく似た貌の、金髪碧眼の美しい女性は、長い髪を上に結い上げ、まだ少女のようにほほ笑んだ。




妃の応接間につくと、彼女は屈強な女性の近衛兵と侍女数名のみを残し、他を下がらせる。


「安心なさって。彼女たちは私の輿入れの時に帝国からついてきた私の側近。帝国でもなくこの国でもなく、私についているの。」

天然でほわほわした方で、失礼ながらおよそ王妃らしい立ち回りが期待できない女性という印象だったが、そうではないらしい。


「ジニアルによくしてくれてありがとう。あなたとジニアルは好きあっているのよね。」

「………。」


「ああ、立場もおありでしょうし何もおっしゃらなくていいわ。私の独り言で、勝手な思い込みよ。でも、私は貴方がジニアルとお付き合いされているのなら、とても嬉しいわ。」


「なぜでしょう?男同士では子もできません。」

「あの子には女性は無理よ。あの子はねぇ、帝国の王族の血が強すぎるのだわ。」


そういうと、王妃は自分のカップの紅茶を一口飲んだ。


「帝国の王族は、よくいえばカリスマ。悪く言えば魅了の力を持つのよね。魅了と言っても、そんなに強くないのよ。あなたの周りにもいるでしょう?なぜか人に可愛がられる人とか。そんな感じなんだけれど。あの子はねえ、対象が異性限定だった代わりに効果が強力すぎて、あの子の前では女性は正気ではいられないのよ。」


「あなたや王太子妃は平気なのでは?」


「ほかに愛している方がいる方には効かないのよ。私は、同じように弱くても力があるから、かしら。幼い頃はお菓子を貰うとかそんな程度だったから良かったのだけど、思春期になるにつれ、強くなりすぎちゃってね。」


ああ、それが例の事件なのか。


確かに、いくらなんでも高位の貴族令嬢がそんなに取っ組み合いのけんかをするものだろうか、と思っていたのだ。


「もう、あの子はこのままでは社交界にも出られないわ。あれからあの子、この城から出ていないの。あの子の周りに女性は誰一人配置もしていない。あの子は、通信教育で卒業したわ。私、結婚とか子作りとかどうでもいいから、ただ幸せになって欲しいの。ねえお願い。あなたもあの子を好いてくれるなら、私がなんとでもするわ。あの子を受け入れて。」



そんなこと言われても困ります。困るんです…。










しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。 帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。 だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。 なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。 そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。 かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。

姫の護衛が閨での男の武器の調査をした件

久乃り
BL
BLは耽美 たとえ内容が頓知気であっても耽美なのです。 この話は、姫の護衛として輿入れについてきた騎士が、姫のために皇帝陛下の男の武器を身体をはって調査するというお話です。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐
BL
 悪逆の限りを尽くした公爵令息を断罪しろ! そんな貴族たちの声が高まった頃、僕の元に、冷酷と恐れられる王子がやって来た。  その男は、かつて貴族たちに疎まれ、王城から遠ざけられた王子だ。昔はよく城の雑用を言いつけられては、魔法使いの僕の元を度々訪れていた。  ひどく無愛想な王子で、僕が挨拶した時も最初は睨むだけだったのに、今は優しく微笑んで、まるで別人だ。  出会ったばかりの頃は、僕の従者まで怯えるような残酷ぶりで、鞭を振り回したこともあったじゃないか。それでも度々僕のところを訪れるたびに、少しずつ、打ち解けたような気がしていた。彼が民を思い、この国を守ろうとしていることは分かっていたし、応援したいと思ったこともある。  しかし、あいつはすでに王位を継がないことが決まっていて、次第に僕の元に来るのはあいつの従者になった。  あいつが僕のもとを訪れなくなってから、貴族たちの噂で聞いた。殿下は、王城で兄たちと協力し、立派に治世に携わっていると。  嬉しかったが、王都の貴族は僕を遠ざけたクズばかり。無事にやっているのかと、少し心配だった。  そんなある日、知らせが来た。僕の屋敷はすでに取り壊されることが決まっていて、僕がしていた結界の魔法の管理は、他の貴族が受け継ぐのだと。  は? 一方的にも程がある。  その直後、あの王子は僕の前に現れた。何と思えば、僕を王城に連れて行くと言う。王族の会議で決まったらしい。  舐めるな。そんな話、勝手に進めるな。  貴族たちの間では、みくびられたら終わりだ。  腕を組んでその男を睨みつける僕は、近づいてくる王子のことが憎らしい反面、見違えるほど楽しそうで、従者からも敬われていて、こんな時だと言うのに、嬉しかった。  だが、それとこれとは話が別だ! 僕を甘く見るなよ。僕にはこれから、やりたいことがたくさんある。  僕は、屋敷で働いてくれていたみんなを知り合いの魔法使いに預け、王族と、それに纏わり付いて甘い汁を吸う貴族たちと戦うことを決意した。  手始めに……  王族など、僕が追い返してやろう!  そう思って対峙したはずなのに、僕を連れ出した王子は、なんだか様子がおかしい。「この馬車は気に入ってもらえなかったか?」だの、「酒は何が好きだ?」だの……それは今、関係ないだろう……それに、少し距離が近すぎるぞ。そうか、喧嘩がしたいのか。おい、待て。なぜ手を握るんだ? あまり近づくな!! 僕は距離を詰められるのがどうしようもなく嫌いなんだぞ!

処理中です...