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押し倒されたあの日

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「すまない…。どうしても俺は君がほしい…!」

押し倒された瞬間、『違う』って思った。


触れられるのも、撫で方も、アポロの手の方がすきだ。

「社長」の顔に見えるけど、きっと彼は「社長」じゃない。



ううん。本当に黒崎社長の生まれ変わりだったとしても、今、アクア=トゥ=エトランジェが好意を抱いているのはこの人じゃないんだって。


だから。



「離してください。」


「魅了で命令する?効かないよ。」


「魅了なんかしません。」


「!!!!」


腹を蹴り上げて、くるんと体勢を返し、逆にゲインを縛り上げた。


「―――ッ、驚いたな。君は逃げようと思えばいつでも逃げられたわけだ。」

「あなたは何を見ているんですか?欲しいのは俺じゃないですよね。本当に欲しいのは何なんですか?」



ゲイン王子はつきものが取れたような顔をして。

そして、クルシュとアオのことを話始めた。



「辛かったですね。」


「ありがとう。ずっと誰かにそうやって慰めてほしかっただけなのかもしれない。今思えば、3歳の時、花のように笑っていた純粋な天使は、次に会った時には僅かに違和感があった。元々妖精族は、他者を受け入れない性格だ。何も分からない時分にはそういったところはなくても、そういうものは周りの影響もあって変わっていくものだ。初めから俺の愛した天使はいなかったんだよ。……まあ、かくいう俺も3歳の頃のことなんてよく覚えていないんだからお互い様か…。」



「ゲイン王子。俺、あなたの妃にはなれないけど、この国をよくするお手伝いならできるかも。ビジネスパートナーとして、一緒にがんばりましょう!」


ビニールハウスは順調で、寒さが厳しいこの土地でも生きていけるだけの糧を手に入れることが出来そうだ。

温泉の源泉も把握したし、地熱暖房とか、地熱発電とかもできそう。


エルフはビーガンだから、野菜さえあればどうにかなるけど、これから先外貨を稼ぐなら、温泉を活かして観光地化していきたい。

ビーガンメニューの開発も進めなきゃ。



アポロのところには帰りたいけど……。

こんなに傷ついているこの人を。この国の人をそのままで帰るわけにはいかない。








大急ぎで開発を進めてひと月。

もうすぐ帰れる、と最後の締めにコンサートを開いた。

彼が迎えに来た。
お客さんの中に紛れていたけど、すぐわかった。



嬉しくて、とびあがりそうだった。
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