暗殺者は王子に溺愛される

竜鳴躍

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もう離さない

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「……確か、飲み物をもらいに行ったはずなんだが、サン遅いな。」

両親と兄に弄られている間に、『飲み物をもらいに行く』と給仕にお願いして離れたサンが、帰ってこないことに気づいた。


「…心配だ。サンと一緒に行った給仕に聞いてみよう。彼はどんな男だったかな。」


丁度、ケヴィン殿下の背後に隠れて、自分の角度からはよく見えなかった。

隠れるくらいだから、小柄な方だと思うのだが。


折角、自分のところへ帰って来た大切な息子。

腕が立つ方とは知っていても、心配は尽きない。


「給仕の子の特徴なら、私、覚えていますわよ。私と同じ鮮やかな赤毛で。弟たちに顔が似てたものだから、つい、じろじろ見ちゃったの。」

「へえ、そうなんだ。君のような見事な赤毛なんてなかなかいないのに、珍しいね。」

デュランの婚約者のリリーナは、宰相であるサンダルフォン公爵の長女。

サンダルフォン公爵の三男は、レッドという名前で組織に捕らわれている。

『暗殺者』として育てるために。

それを知っているケヴィン王子と騎士団長は、顔を青ざめさせた。



「陛下、事態は急を要します!今すぐ騎士団を動員させてください!」

貴族の子の行方不明事件が、不法組織の犯行であったことや、攫われた子どもがどうなっているか、それについて、動いていることは、既に陛下には、報告済みである。
父である騎士団長が手短に説明をすれば、陛下はすぐに理解し、承諾をした。


パーティの雰囲気を壊さぬように気をつけながら、警護をしていた騎士団があたりを捜索する。


「ケヴィンさま、団長、トイレに男が裸で縛られていました!給仕のスタッフです!」

「脱ぎ捨てられた給仕の制服が庭に…!」

「………殿下、これが……っ!」


庭に落ちていたという金の髪飾り。

青い、小さな石のついた。

私が、キティに用意した。


不安が的中した。組織に捕まって、連れていかれたのだ。

そして、連れて行ったのは、サンダルフォン公爵のーーーーーーー。


「こうなったら先手必勝、急いで攻めるぞ!」


君に酷いことが起きないうちに、組織の壊滅と、子どもたちの保護を。

今夜のうちに終わらせて見せる。












「……ん、うぅ…。」


頭の鈍い痛み。

目が覚めると、体中が痛い。



あたりの景色には、見覚えがあった。


ーーーーああ、ここは。組織の隠れ家だ。

応接間のソファに、腕を縛られて、転がされている。


「おはよう、ブラッキー。」


声をかけてきたのは、小太りの大男。ゲネス。

組織のリーダーだ。


物心つく前からここにいて、自分より年上の子どもたちがどうなっていくのかを目の当たりにしていて、ずっと、この男のことを絶対的なボスだと思っていた。

だが、今、しばらく距離をおいて冷静にみれば、自分勝手な、小物。小悪党だと思う。

むしろ、自分たちの教育や、そして始末をしていたジェネシスの方が、実際には組織のボスで、彼はいいように使われている『顔』なのだろう。


「………おはようございます。ボス。」

だが、今この状況では。

様子をうかがうために、まずは従順に応えた。


「ずいぶん、きれいになったものだ。しばらく見ないうちに。」

近づいてきて、顔に触れる。


気持ちが悪い。


「太ったわけではなさそうだが、どことなく丸みを感じる。この腰のライン。………大人になった、のかな?」


ぞわぞわと、背筋が震えた。

なんで、俺が知らなかった俺の体のことを知っているんだ。

ああ、赤ちゃんの頃から見ているから、知られているのか。隅々まで。


「お前、うまくやったそうじゃないか。王子はお前に夢中なんだってな。それで?騎士団長の養子なんだって?楽しかったかい、貴族の生活は?」


ニヤニヤ、と笑う顔がいやらしい。

口臭が酒臭い。


「くくく、お前が大人になったら、俺の妻にしてやろうと思ってたんだ。この日を待っていた。嬉しいぞ…。」


ソファに、身を乗り出してくる。


……お前の思い通りになってたまるか!

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