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オーロラ改めボヌールの心情
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組織が経営する娼館の一室が、自分の部屋だった。
僕は男の子だったけど、女の子みたいな綺麗な顔をしていたし、何より、暗殺者になるなんて僕にはできないと思ったから、あの『箱庭』を出されて現実を知り、選択を求められたときに、『娼婦』になる方を選んだんだ。
でも、あの頃の僕は、『暗殺』が人殺しだということは分かっていても、『娼婦』が何をするのか、全然わかっていなかった。
知らなかったから選べたんだ。
人を傷つけるより自分が傷つく方を選んだ、って綺麗な言い方をすればそうだけど、何をさせられるのか知っていれば、僕は、『暗殺』の方を選んだと思う。
運動神経や反射神経は悪くなかったから、訓練すれば、それなりの腕になっていた気はする。
今になって思えば、もしかしたら、組織は初めから僕に娼婦を選ばせるつもりで、何をするのか、情報を与えなかったのかもしれない。
娼館に送られて、最初は先輩について仕事を教えてもらった。
といっても、先輩の客のあしらい方や、どういう風におもてなしをするのか、覗き見て学ぶのだ。
僕の先輩はゴールディ。ふわふわできれいなウェーブのかかった長い金髪に、緑色の目をした綺麗な女の子だった。
ゴールディのところには、毎日お客さんは来るけれど、どちらかといえば彼女を愛でたいタイプで、上目遣いで甘えれば、娘のような気持ちになって、それほど性行為を求めない、けれど、しっかりお店にお金を払ってくれるお客さんだった。
身なりもしっかりしていて、清潔感もあるし、あまり嫌な感じもしない。
ある日、見てしまった。
死んだ娼婦が、無造作に店の敷地の奥に掘った穴に廃棄されるところを。
肌がガサガサで、若いはずなのに老けて見える死体。
鼻が欠けている場合もあった。
どうしてこうなるんだろう。
そして、構成員が部屋を念入りに消毒しているのを見た。
「いい、オーロラ。あれが娼婦の末路よ。碌でもない客にあたるとね、病気をうつされて、ああやって死んでしまうの。私は嫌。だから、清潔で病気も持っていそうもない固定のお客さんに私は買ってもらうのよ。今のお客さんのだれかに私は身請けされるように頑張るわ!絶対に生きてここを出てやる…!」
ここで無事に生き延びる処世術を、僕は彼女から学んだ。
僕は女の子じゃない。
女の子みたいに愛されるには、時間に制限があるだろう。より可愛らしく、より幼く、より庇護欲が掻き立てられるように、僕は誰よりも声色や仕草に気をつけなければならない。
生き残るために必死だった。
気が付けば、僕は彼女からお客さんを取ってしまっていた。
お客さんたちは、どちらかといえば小児愛好家だったのだ。
だから、胸が膨らみ、豊満に熟れてきた彼女を捨てた。
そして、今では彼女はあの穴にいる。
人殺しをしたくなくて娼婦を選んだ僕は、同じ境遇の仲間を殺してしまったのだ。
あんな風になりたくない。
成長したくない。
食事を自分で制限して、身長が伸びるのを恐れた。
少しでも長く、かわいらしくいたい。
声が変わるのも嫌だ。
いつまでも、高い声が出せる様にならなくちゃ。
そうすれば、あんな風にはならない。
だれか、誰か早く僕をここから出して。
そうしたら、ある日。僕をずっと買ってくれるのに、お話だけする紳士のおじさんが現れた。
身なりもとてもいい。カッコいいおじさん。
僕は死んだ奥さんに似ているんだって。
そして、息子さんもいなくなって、生きていれば、僕と同じ年なんだって。
僕がおじさんの息子だったらよかったのに。
そうしたら、ここから出られた。
おじさんが買ってくれるようになって3か月が過ぎた。
この間、僕は一度も誰かに抱かれていない。
このまま、おじさんがずっと僕を買ってくれないかなあ。
僕のお客さんは毎日求めてくるわけじゃないし、しつこくないし、無体も強いないからだいぶマシなんだけど、でもやっぱり、ああいうことは本当はやりたくないよ。
そうしたら、お店に騎士の人たちがいきなり入ってきて、組織を壊滅させたって。僕らはみんな自由だって。
組織で育った子で働いていたのは僕だけで、僕以外の子たちは、みんな騙されて働かされている女の子たちだった。
女の子たちは、孤児じゃないから、帰る場所がある。
みんな泣いて喜んでいて、いいなあって思った。
だって、壊滅したのはいいけど、僕は行くところがないんだもの。
躰しか売ってこなかったのに、放り出されてまともに働けるだろうか。
そう思っていたら、あの紳士が迎えに来てくれたんだよ。
「ボヌール!私のボヌール!やっと、やっと明かせる!私はリッシュ辺境伯。君はボヌール。私の息子なのだ!」
えっ。
……ぼく、孤児じゃなかったの?
貴族の子だったの?
色んな感情がごちゃ混ぜになって、涙が出てきた。
そして、連れてこられたお屋敷には、兄と、後妻さんと、半分血のつながった弟がいた。
お父さんは喜んで連れてきてくれたけど、屋敷のみんなや他の人たちは冷たい。
僕が娼婦だったから。
「汚らわしい手で俺に触れないでくれ。血が繋がっていると思うと、虫唾が走る。」
「うちのケイちゃんに色目を使うのはやめて頂戴。本当に、男ならだれでもいいのね。」
「……気持ちが悪い。」
お父さん、貴方のいないところで、僕がどれだけ傷ついているのか、あなたは知らないでしょう。
お父さんが、僕を学園に入学させるって言ってきた。
兄はとっくに卒業して父の補佐をしているし、弟の入学は僕の3年後だから、被らなくて本当に良かった。
だって、あの兄弟が一緒なんて、針の筵過ぎる。
何よりうれしかったのは、領地が辺境だから、学生寮に入れること。
お父さんは、仕事でよく都にいっているから、寮に入っても、お父さんとは会えるのが嬉しい。
兄たちに、男遊びで家名に恥をかかせるなよ、と釘を刺されながら、僕は入寮の用意をした。
そんなこと、言われなくたってしない!と叫びたかった。
僕は男の子だったけど、女の子みたいな綺麗な顔をしていたし、何より、暗殺者になるなんて僕にはできないと思ったから、あの『箱庭』を出されて現実を知り、選択を求められたときに、『娼婦』になる方を選んだんだ。
でも、あの頃の僕は、『暗殺』が人殺しだということは分かっていても、『娼婦』が何をするのか、全然わかっていなかった。
知らなかったから選べたんだ。
人を傷つけるより自分が傷つく方を選んだ、って綺麗な言い方をすればそうだけど、何をさせられるのか知っていれば、僕は、『暗殺』の方を選んだと思う。
運動神経や反射神経は悪くなかったから、訓練すれば、それなりの腕になっていた気はする。
今になって思えば、もしかしたら、組織は初めから僕に娼婦を選ばせるつもりで、何をするのか、情報を与えなかったのかもしれない。
娼館に送られて、最初は先輩について仕事を教えてもらった。
といっても、先輩の客のあしらい方や、どういう風におもてなしをするのか、覗き見て学ぶのだ。
僕の先輩はゴールディ。ふわふわできれいなウェーブのかかった長い金髪に、緑色の目をした綺麗な女の子だった。
ゴールディのところには、毎日お客さんは来るけれど、どちらかといえば彼女を愛でたいタイプで、上目遣いで甘えれば、娘のような気持ちになって、それほど性行為を求めない、けれど、しっかりお店にお金を払ってくれるお客さんだった。
身なりもしっかりしていて、清潔感もあるし、あまり嫌な感じもしない。
ある日、見てしまった。
死んだ娼婦が、無造作に店の敷地の奥に掘った穴に廃棄されるところを。
肌がガサガサで、若いはずなのに老けて見える死体。
鼻が欠けている場合もあった。
どうしてこうなるんだろう。
そして、構成員が部屋を念入りに消毒しているのを見た。
「いい、オーロラ。あれが娼婦の末路よ。碌でもない客にあたるとね、病気をうつされて、ああやって死んでしまうの。私は嫌。だから、清潔で病気も持っていそうもない固定のお客さんに私は買ってもらうのよ。今のお客さんのだれかに私は身請けされるように頑張るわ!絶対に生きてここを出てやる…!」
ここで無事に生き延びる処世術を、僕は彼女から学んだ。
僕は女の子じゃない。
女の子みたいに愛されるには、時間に制限があるだろう。より可愛らしく、より幼く、より庇護欲が掻き立てられるように、僕は誰よりも声色や仕草に気をつけなければならない。
生き残るために必死だった。
気が付けば、僕は彼女からお客さんを取ってしまっていた。
お客さんたちは、どちらかといえば小児愛好家だったのだ。
だから、胸が膨らみ、豊満に熟れてきた彼女を捨てた。
そして、今では彼女はあの穴にいる。
人殺しをしたくなくて娼婦を選んだ僕は、同じ境遇の仲間を殺してしまったのだ。
あんな風になりたくない。
成長したくない。
食事を自分で制限して、身長が伸びるのを恐れた。
少しでも長く、かわいらしくいたい。
声が変わるのも嫌だ。
いつまでも、高い声が出せる様にならなくちゃ。
そうすれば、あんな風にはならない。
だれか、誰か早く僕をここから出して。
そうしたら、ある日。僕をずっと買ってくれるのに、お話だけする紳士のおじさんが現れた。
身なりもとてもいい。カッコいいおじさん。
僕は死んだ奥さんに似ているんだって。
そして、息子さんもいなくなって、生きていれば、僕と同じ年なんだって。
僕がおじさんの息子だったらよかったのに。
そうしたら、ここから出られた。
おじさんが買ってくれるようになって3か月が過ぎた。
この間、僕は一度も誰かに抱かれていない。
このまま、おじさんがずっと僕を買ってくれないかなあ。
僕のお客さんは毎日求めてくるわけじゃないし、しつこくないし、無体も強いないからだいぶマシなんだけど、でもやっぱり、ああいうことは本当はやりたくないよ。
そうしたら、お店に騎士の人たちがいきなり入ってきて、組織を壊滅させたって。僕らはみんな自由だって。
組織で育った子で働いていたのは僕だけで、僕以外の子たちは、みんな騙されて働かされている女の子たちだった。
女の子たちは、孤児じゃないから、帰る場所がある。
みんな泣いて喜んでいて、いいなあって思った。
だって、壊滅したのはいいけど、僕は行くところがないんだもの。
躰しか売ってこなかったのに、放り出されてまともに働けるだろうか。
そう思っていたら、あの紳士が迎えに来てくれたんだよ。
「ボヌール!私のボヌール!やっと、やっと明かせる!私はリッシュ辺境伯。君はボヌール。私の息子なのだ!」
えっ。
……ぼく、孤児じゃなかったの?
貴族の子だったの?
色んな感情がごちゃ混ぜになって、涙が出てきた。
そして、連れてこられたお屋敷には、兄と、後妻さんと、半分血のつながった弟がいた。
お父さんは喜んで連れてきてくれたけど、屋敷のみんなや他の人たちは冷たい。
僕が娼婦だったから。
「汚らわしい手で俺に触れないでくれ。血が繋がっていると思うと、虫唾が走る。」
「うちのケイちゃんに色目を使うのはやめて頂戴。本当に、男ならだれでもいいのね。」
「……気持ちが悪い。」
お父さん、貴方のいないところで、僕がどれだけ傷ついているのか、あなたは知らないでしょう。
お父さんが、僕を学園に入学させるって言ってきた。
兄はとっくに卒業して父の補佐をしているし、弟の入学は僕の3年後だから、被らなくて本当に良かった。
だって、あの兄弟が一緒なんて、針の筵過ぎる。
何よりうれしかったのは、領地が辺境だから、学生寮に入れること。
お父さんは、仕事でよく都にいっているから、寮に入っても、お父さんとは会えるのが嬉しい。
兄たちに、男遊びで家名に恥をかかせるなよ、と釘を刺されながら、僕は入寮の用意をした。
そんなこと、言われなくたってしない!と叫びたかった。
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