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裁判
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陛下と妃殿下の前に、バスティン公爵とその娘は連行された。
因みに公爵夫人はずいぶん前に離縁して遠い異国の地で新しい家族と暮らしているから、ここにはいない。
思うに、良心の呵責に耐えかねたのだろう。そして、どんなにしても夫そっくりで更生の余地のない娘も捨てて去ったのだろうと思われた。
裁判官の席には、クリム王子が立ち、被害者席にはオフェンス王子と新しく婚約者になった男爵令嬢も立っている。
「バスティン公爵。あなたは、ゾーン王国とバッキンガム王国を手中にせんがため、かねてから野心を抱き、初めはバッキンガム王国へ娘を妃として送り、王位を狙っていたが、ハニートラップとして送り込んだ娘が失敗したため、この国の王太子へ狙いを変えましたね?バッキンガム王国へ送った娘を無残にも処刑し、それを見せしめに脅迫して、今度はその妹にハニートラップを仕掛けさせた。」
「はははっ。そんなことは知らない!大方、その娘が王太子の罪を軽くしようと出まかせを言っているのでしょう!もしかしたら、王太子妃に返り咲けるかもしれないですからね!……ですが、クロス公爵令嬢は死んでしまった。かわいそうに公爵は、よほど心労だったらしい。あれから出仕しないとは。」
「……あら?どなたが、死んだ、と?おっしゃるのかしら?」
つかつかと、ドレス姿の美しい女性が歩いてくる。
どぎまぎしながらエスコートする男性は、初々しい。
そして、その後ろからはずらずらとクロス公爵家一堂が並ぶ。
「なっ…!!ミリア………っ!!!!」
「陛下、私はあの日、追放になりましたが、それはこの男の指示で殿下に薬が盛られていたから。そして、殿下のご指示なら、隣国へ引き渡しになっていたはずですが、私は山中に捨てられたのです。山中に捨てたから、生き残れない、普通はそうお思いですよね。殺そうと思って捨てたのですもの。だけれど、私、お転婆なのよ。マチルダ様がこっそりあなたのことと、食料を渡してくださっていたの。だから、山中でもなんとか生きてバッキンガム王国へたどり着けましたわ。」
バスティン公爵は、マチルダを睨んだ。
「ミリア様、たいへん申し訳ありませんでした。ご無事の生還、心より嬉しく思います。ところで、あなたを連行したのは、我が国の良識ある騎士とは思えないのですが。この場におりますか。」
「そうですね、この城の門番をしている彼、それと、あそこにいるお仲間ですわね。」
クリムの目が光る。
思えば、あれだけケリーを通すな、公式の場以外でバスティン公爵を通すなといってあったのに、あの日、ケリーやトロワたちを襲った手練れを引き入れた身内が誰かいるとは思っていた。
「よし、門番もひっとらえろ。」
「ひいいい!」
門番は、グルグル巻きにされて、犯罪者の群れに投入された。
「クロス公爵は、屋敷に軟禁されていた。それを救ったのは、ここにはいない、私の愛する婚約者。トロワ=サンダルフォンだ。軟禁していた輩は全員捕らえて、自白している。お前の指示だとな。」
まだ、続けようか。公爵。
マチルダの背後から、支えられるようにフードを深くかぶった女が現れる。
「……ばかなっ。おまえ、生きて…!!」
フードをとった女の顔を見て、皆は息をのんだ。
焼かれ、削られ、ぼろぼろになった無残な顔。
「この男は、満足に男を誑かせないお前など、必要ないと言って、姉の美しい顔をこんなふうにしたのです!」
マチルダは泣きながら訴えた。
「聖女 ニールよ。彼女を癒してやってください。」
クリムの優しい声で、ミリアをエスコートしていたニールは、彼女に近づき、祈りを捧げた。
かつて、ともに学び舎で学んだ彼女が、輝きを取り戻せるように。
ぱああっと、彼女の顔が元に戻った。
因みに公爵夫人はずいぶん前に離縁して遠い異国の地で新しい家族と暮らしているから、ここにはいない。
思うに、良心の呵責に耐えかねたのだろう。そして、どんなにしても夫そっくりで更生の余地のない娘も捨てて去ったのだろうと思われた。
裁判官の席には、クリム王子が立ち、被害者席にはオフェンス王子と新しく婚約者になった男爵令嬢も立っている。
「バスティン公爵。あなたは、ゾーン王国とバッキンガム王国を手中にせんがため、かねてから野心を抱き、初めはバッキンガム王国へ娘を妃として送り、王位を狙っていたが、ハニートラップとして送り込んだ娘が失敗したため、この国の王太子へ狙いを変えましたね?バッキンガム王国へ送った娘を無残にも処刑し、それを見せしめに脅迫して、今度はその妹にハニートラップを仕掛けさせた。」
「はははっ。そんなことは知らない!大方、その娘が王太子の罪を軽くしようと出まかせを言っているのでしょう!もしかしたら、王太子妃に返り咲けるかもしれないですからね!……ですが、クロス公爵令嬢は死んでしまった。かわいそうに公爵は、よほど心労だったらしい。あれから出仕しないとは。」
「……あら?どなたが、死んだ、と?おっしゃるのかしら?」
つかつかと、ドレス姿の美しい女性が歩いてくる。
どぎまぎしながらエスコートする男性は、初々しい。
そして、その後ろからはずらずらとクロス公爵家一堂が並ぶ。
「なっ…!!ミリア………っ!!!!」
「陛下、私はあの日、追放になりましたが、それはこの男の指示で殿下に薬が盛られていたから。そして、殿下のご指示なら、隣国へ引き渡しになっていたはずですが、私は山中に捨てられたのです。山中に捨てたから、生き残れない、普通はそうお思いですよね。殺そうと思って捨てたのですもの。だけれど、私、お転婆なのよ。マチルダ様がこっそりあなたのことと、食料を渡してくださっていたの。だから、山中でもなんとか生きてバッキンガム王国へたどり着けましたわ。」
バスティン公爵は、マチルダを睨んだ。
「ミリア様、たいへん申し訳ありませんでした。ご無事の生還、心より嬉しく思います。ところで、あなたを連行したのは、我が国の良識ある騎士とは思えないのですが。この場におりますか。」
「そうですね、この城の門番をしている彼、それと、あそこにいるお仲間ですわね。」
クリムの目が光る。
思えば、あれだけケリーを通すな、公式の場以外でバスティン公爵を通すなといってあったのに、あの日、ケリーやトロワたちを襲った手練れを引き入れた身内が誰かいるとは思っていた。
「よし、門番もひっとらえろ。」
「ひいいい!」
門番は、グルグル巻きにされて、犯罪者の群れに投入された。
「クロス公爵は、屋敷に軟禁されていた。それを救ったのは、ここにはいない、私の愛する婚約者。トロワ=サンダルフォンだ。軟禁していた輩は全員捕らえて、自白している。お前の指示だとな。」
まだ、続けようか。公爵。
マチルダの背後から、支えられるようにフードを深くかぶった女が現れる。
「……ばかなっ。おまえ、生きて…!!」
フードをとった女の顔を見て、皆は息をのんだ。
焼かれ、削られ、ぼろぼろになった無残な顔。
「この男は、満足に男を誑かせないお前など、必要ないと言って、姉の美しい顔をこんなふうにしたのです!」
マチルダは泣きながら訴えた。
「聖女 ニールよ。彼女を癒してやってください。」
クリムの優しい声で、ミリアをエスコートしていたニールは、彼女に近づき、祈りを捧げた。
かつて、ともに学び舎で学んだ彼女が、輝きを取り戻せるように。
ぱああっと、彼女の顔が元に戻った。
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