王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

国際会議とパーティー２

「もうすぐパーティーだ。私たち帝国の貴族もご招待を受けてはいるが、失礼がないようにするんだよ。」

ダイヤモンド侯爵家では、公爵である兄のイーストが妹のウェスティに釘を刺した。

だが、反応がない妹は、いったい何を考えているのか分からない。



折角、王家が穏便にしてくださったのに、自分から悪事を暴露するような妹には縁談らしい縁談もなく、学校を卒業後は毎日、自分のことを棚に上げて周りを責め、うちでゴロゴロお金を使うばかりで、自分で稼ごうともしない。

多少見てくれはいいのだから、心を入れ替えれば、誰かもらってくれる人はいるだろうに。

そのうち若さも失われれば、嫁に行ける可能性は限りなく低くなり、完全にお荷物でしかない。

けれど、こんなひどい妹でも妹は妹で、兄は切り捨てられない。



思えば、母であるサウスティが、自分たちの父親であるクロス伯爵と死に別れ、前妻の子が跡取りになって実家で厄介になってた頃。
同じように妻に先立たれたダイヤモンド公爵と縁があって、子連れで再婚となった。

ラビット＝ダイヤモンド侯爵は勇敢な騎士で、正義感にあふれた素敵な人で。
娘のアリステラは、ウェスティと年も近く。

俺は可愛い妹がもう一人出来てうれしかったものだ。


母も再婚して幸せそうで、でも。二度目の夫との別れは早すぎた。

再婚してすぐ、まだアリステラと母子の関係も構築できていないときに、王を庇って公爵は死んでしまった。

前妻の子にまた居場所を奪われたくない。
そういう思いもあっただろう。
そして、明らかに自分の娘より美しいアリステラの美貌を、どうにかして削ぎたい思いもあっただろう。

ちょっとした意地悪がだんだんエスカレートして。
それは、母が亡くなった後、ウェスティに引き継がれてしまった。

母が亡くなるまでは、母に口が出せなかった。
亡くなった時には、もう、妹と屋敷の者たちが、そういう考えになってしまっていた。


俺は、わざと食べ残した食事をアリステラに食べさせたり。

意地悪を装って少しでも彼女を生きながらえさせるようにすることしかできなかった。

母より妹より弱いなんて、本当にどうしようもない。


妃殿下にそれとなく断罪されたような、あの日のデビュタント。
あの時、俺は。愚かな振りをしながら彼女がここから逃げられるのなら、と喜んで養子縁組の書類にサインした。
そして今は、勇気をもって妹を諫めるし、たとえこんな妹でも、責任を持つ。
それが俺の償いであり、罰であると考えている。









「キュィ…。キュイイ。」

侯爵領から出て、パーティ会場の側の山。洞窟の中に、一匹のドラゴンが捕らえられている。

人間の世界に迷い込んだ仔竜をひそかに育てた、手駒。


「あなたたち、いい？明日１８時に城でパーティが始まるわ。その時間になったら、この子に興奮剤を与えて、城の方へ向かわせるのよ。」

ウェスティがこの１年、雇った男たち。

魔物の国との交流を反対する勢力の男たちだ。

どんなにＰＲしたところで、必ず反対する者はいる。それを、うまく利用した。


「わたしをコケにした原因を作ったのは、あの男。クロウ、あれが魔物の王だったなんてね…。」

顔を歪めて、爪を噛む。


パーティで魔物が暴れたら、交流はご破算。王族は責任を問われるでしょうし、アリステラも…。


くくくっ。いい気味よ。

知ってるんだから、社交界ではみんなあんたのことばかり！

私は悪役令嬢よ！

パーティをめちゃくちゃにしてあげるわ……！