【完結】美貌のオメガは正体を隠す

竜鳴躍

文字の大きさ
46 / 82

今度こそ…

しおりを挟む
病院へ着く前に、花梨の目に目隠しをした。


「えぇ~。どうしたのぉ?氷室さあん。」


「……サプライズ?」


「もう、しょうがないわねぇ?」



ガチのサイコパス相手に恐ろしいが、氷室はさすがに役者だけあって、笑顔を貼り付けた。

ああ、恐ろしい。

どうして俺はこんな女と遊べたのだろう。

今となっては恐ろしくて仕方がない。

妊娠中だから配慮しているという体で躱しているが、二度と彼女に触れたくない。



ゆっくりゆっくり建物の中へエスコートする。


早く建物の中に押し込めたい。


犯罪を犯した精神病患者も収容しているこの施設は、拘束服の準備も鉄格子のある部屋の準備も万端だ。


入口が近づき、スタッフも待機している。




「…………ねぇえ。」


ニタアと彼女が唇を歪めた。



「お父さん、お母さん、氷室さん。………どうして目の前にたくさんの人がいるのかしら。」


「さっ………サプライズだよ!!!困ったなァ、花梨は勘がいいからなぁ!」


チッ、不自然だ。氷室は心の中で舌打ちをした。


「それに病院の匂いがするわ…。消毒液の匂い…。ふふふ、妊婦だからかしらぁ。においに敏感なのよ。」



みんな、私を騙したでしょう?





「ヒッ……!」

母親は短い悲鳴をあげた。


どうして私たちからこんなモンスターが。



「はっ、早く…っ!」

氷室と父親が慌てて取り押さえようとする。


「要らない。私を守ってくれないお父さんも氷室さんもいらないッ!」


誰にも悟られず、ハンドバックの外皮と内側の間に仕込んでいた刃物を振り回して、拒絶する。


「う、うわぁぁあっ!」

「ぐぅ…っ!」

氷室は顔を押さえ、父親は腹を押さえて倒れこんだ。

日ごろ慣れている職員でも、悲鳴が上がった。


「はははははは!私の幸せを邪魔するやつが現れたときのために、仕込んでいてよかったわぁ!」


「あなた!!」

凄惨な状況の中、職員が抑えにかかる。

一部の職員は怪我を負った二人の様子を見に行った。

氷室が切られたのは顔の表皮だけだ。……眼球を切られなくてよかったが、治療をしても5Kの時代では、傷痕が見えてしまうかもしれない。

父親は、深く切られて内臓が見えそうだ。



「乱暴はやめてよ!お腹に赤ちゃんがいるんだから!」

職員が躊躇した一瞬を狙って、妊婦とは思えない軽やかな動きで花梨は逃亡した。



「追えっ!」

「中で応急処置、救急車を!」

「警察へ!」


「………あぁあ、ああ……。」吉田重蔵は心と体の痛みに耐えながら、スマホを取り出し、電話をかけた。




きっと、あの子はあそこへ行く。



自らの体から流れた血の海で、重蔵は目を閉じた。











「…………運転手さん、タクシーを出して?場所はそうね。蒲谷弁護士事務所へ。そう、青山。」

花梨は出てすぐにタクシーを捕まえた。


お腹が少し張ってしまった。


息を整え、タクシーの背もたれにもたれて、お腹を撫でた。


私だけ不幸になるなんて許さない。
蜂谷、あいつは許さない。

あいつさえ現れなければ、きっと拓海はいつか振り向いてくれたのに。








「今日で実務修習も終わりね。お疲れ様。」

「残りの修習も頑張ってね。最後の選択型実務修習、うちを選ぶって期待してまってるわ!」

「なんなら合格後もうちに来て頂戴ね!」


「……ありがとうございます!」

嬉しい。


エレベーターを降りて、家へ帰る。

忙しい自分のために、拓海が掃除をして洗濯をして、ご飯を準備してくれる。

バイトがあるから出かける前に作り置きしてるというが、器用なのかすごくおいしい。

カルシウムを取らせようとして、よく食卓には小魚が並ぶ。


(今夜のおかずは何かなぁ…。)



「蜂谷ァァアアアア!!!!」


「!!!!?????」


道行く人も驚いて注視している。

聞き覚えのある声、だが、鬼気迫る声。

そこにいたのは、髪を振り乱した大きなおなかの――――――吉田花梨。

なぜ。なぜここに。


「死ねっ、蜂谷!!!!!!」



彼女が、刃物が飛び出たバックを振り下ろす。




「やめろっ!!!!!!!!!!」



思わず目を閉じて、彼女を止めに入ったその声に目を開けると、そこには拓海がいた。

卸された状態の何冊か積み重ねて縛られた分厚い漫画雑誌に、刃物は突き刺さって止まっている。




「拓海!!?なんで…っ、どいてよっ、拓海!」

「どかない、どくわけないだろ!お前から大事な人を守るんだ! 今度こそ俺は、俺が!」




パトカーのサイレン。



吉田花梨が現行犯で押さえつけられる。

逃げようとして暴れて、あんなに動いたら、もうお腹の子がどうにかなってもおかしくない。


お腹の痛みを訴えて蹲り、ついに捕まって連れていかれたときは、泣いているのか笑っているのか分からない状態だった。




きっと彼女は、もう出てこられない。




「……………拓海っ。」

怖かった…。

「バイト先、弁護士事務所の下のコンビニにしてて正解だった…。」


ぎゅっと、蜜瑠を抱きしめた。


しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

処理中です...