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今度こそ…
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病院へ着く前に、花梨の目に目隠しをした。
「えぇ~。どうしたのぉ?氷室さあん。」
「……サプライズ?」
「もう、しょうがないわねぇ?」
ガチのサイコパス相手に恐ろしいが、氷室はさすがに役者だけあって、笑顔を貼り付けた。
ああ、恐ろしい。
どうして俺はこんな女と遊べたのだろう。
今となっては恐ろしくて仕方がない。
妊娠中だから配慮しているという体で躱しているが、二度と彼女に触れたくない。
ゆっくりゆっくり建物の中へエスコートする。
早く建物の中に押し込めたい。
犯罪を犯した精神病患者も収容しているこの施設は、拘束服の準備も鉄格子のある部屋の準備も万端だ。
入口が近づき、スタッフも待機している。
「…………ねぇえ。」
ニタアと彼女が唇を歪めた。
「お父さん、お母さん、氷室さん。………どうして目の前にたくさんの人がいるのかしら。」
「さっ………サプライズだよ!!!困ったなァ、花梨は勘がいいからなぁ!」
チッ、不自然だ。氷室は心の中で舌打ちをした。
「それに病院の匂いがするわ…。消毒液の匂い…。ふふふ、妊婦だからかしらぁ。においに敏感なのよ。」
みんな、私を騙したでしょう?
「ヒッ……!」
母親は短い悲鳴をあげた。
どうして私たちからこんなモンスターが。
「はっ、早く…っ!」
氷室と父親が慌てて取り押さえようとする。
「要らない。私を守ってくれないお父さんも氷室さんもいらないッ!」
誰にも悟られず、ハンドバックの外皮と内側の間に仕込んでいた刃物を振り回して、拒絶する。
「う、うわぁぁあっ!」
「ぐぅ…っ!」
氷室は顔を押さえ、父親は腹を押さえて倒れこんだ。
日ごろ慣れている職員でも、悲鳴が上がった。
「はははははは!私の幸せを邪魔するやつが現れたときのために、仕込んでいてよかったわぁ!」
「あなた!!」
凄惨な状況の中、職員が抑えにかかる。
一部の職員は怪我を負った二人の様子を見に行った。
氷室が切られたのは顔の表皮だけだ。……眼球を切られなくてよかったが、治療をしても5Kの時代では、傷痕が見えてしまうかもしれない。
父親は、深く切られて内臓が見えそうだ。
「乱暴はやめてよ!お腹に赤ちゃんがいるんだから!」
職員が躊躇した一瞬を狙って、妊婦とは思えない軽やかな動きで花梨は逃亡した。
「追えっ!」
「中で応急処置、救急車を!」
「警察へ!」
「………あぁあ、ああ……。」吉田重蔵は心と体の痛みに耐えながら、スマホを取り出し、電話をかけた。
きっと、あの子はあそこへ行く。
自らの体から流れた血の海で、重蔵は目を閉じた。
「…………運転手さん、タクシーを出して?場所はそうね。蒲谷弁護士事務所へ。そう、青山。」
花梨は出てすぐにタクシーを捕まえた。
お腹が少し張ってしまった。
息を整え、タクシーの背もたれにもたれて、お腹を撫でた。
私だけ不幸になるなんて許さない。
蜂谷、あいつは許さない。
あいつさえ現れなければ、きっと拓海はいつか振り向いてくれたのに。
「今日で実務修習も終わりね。お疲れ様。」
「残りの修習も頑張ってね。最後の選択型実務修習、うちを選ぶって期待してまってるわ!」
「なんなら合格後もうちに来て頂戴ね!」
「……ありがとうございます!」
嬉しい。
エレベーターを降りて、家へ帰る。
忙しい自分のために、拓海が掃除をして洗濯をして、ご飯を準備してくれる。
バイトがあるから出かける前に作り置きしてるというが、器用なのかすごくおいしい。
カルシウムを取らせようとして、よく食卓には小魚が並ぶ。
(今夜のおかずは何かなぁ…。)
「蜂谷ァァアアアア!!!!」
「!!!!?????」
道行く人も驚いて注視している。
聞き覚えのある声、だが、鬼気迫る声。
そこにいたのは、髪を振り乱した大きなおなかの――――――吉田花梨。
なぜ。なぜここに。
「死ねっ、蜂谷!!!!!!」
彼女が、刃物が飛び出たバックを振り下ろす。
「やめろっ!!!!!!!!!!」
思わず目を閉じて、彼女を止めに入ったその声に目を開けると、そこには拓海がいた。
卸された状態の何冊か積み重ねて縛られた分厚い漫画雑誌に、刃物は突き刺さって止まっている。
「拓海!!?なんで…っ、どいてよっ、拓海!」
「どかない、どくわけないだろ!お前から大事な人を守るんだ! 今度こそ俺は、俺が!」
パトカーのサイレン。
吉田花梨が現行犯で押さえつけられる。
逃げようとして暴れて、あんなに動いたら、もうお腹の子がどうにかなってもおかしくない。
お腹の痛みを訴えて蹲り、ついに捕まって連れていかれたときは、泣いているのか笑っているのか分からない状態だった。
きっと彼女は、もう出てこられない。
「……………拓海っ。」
怖かった…。
「バイト先、弁護士事務所の下のコンビニにしてて正解だった…。」
ぎゅっと、蜜瑠を抱きしめた。
「えぇ~。どうしたのぉ?氷室さあん。」
「……サプライズ?」
「もう、しょうがないわねぇ?」
ガチのサイコパス相手に恐ろしいが、氷室はさすがに役者だけあって、笑顔を貼り付けた。
ああ、恐ろしい。
どうして俺はこんな女と遊べたのだろう。
今となっては恐ろしくて仕方がない。
妊娠中だから配慮しているという体で躱しているが、二度と彼女に触れたくない。
ゆっくりゆっくり建物の中へエスコートする。
早く建物の中に押し込めたい。
犯罪を犯した精神病患者も収容しているこの施設は、拘束服の準備も鉄格子のある部屋の準備も万端だ。
入口が近づき、スタッフも待機している。
「…………ねぇえ。」
ニタアと彼女が唇を歪めた。
「お父さん、お母さん、氷室さん。………どうして目の前にたくさんの人がいるのかしら。」
「さっ………サプライズだよ!!!困ったなァ、花梨は勘がいいからなぁ!」
チッ、不自然だ。氷室は心の中で舌打ちをした。
「それに病院の匂いがするわ…。消毒液の匂い…。ふふふ、妊婦だからかしらぁ。においに敏感なのよ。」
みんな、私を騙したでしょう?
「ヒッ……!」
母親は短い悲鳴をあげた。
どうして私たちからこんなモンスターが。
「はっ、早く…っ!」
氷室と父親が慌てて取り押さえようとする。
「要らない。私を守ってくれないお父さんも氷室さんもいらないッ!」
誰にも悟られず、ハンドバックの外皮と内側の間に仕込んでいた刃物を振り回して、拒絶する。
「う、うわぁぁあっ!」
「ぐぅ…っ!」
氷室は顔を押さえ、父親は腹を押さえて倒れこんだ。
日ごろ慣れている職員でも、悲鳴が上がった。
「はははははは!私の幸せを邪魔するやつが現れたときのために、仕込んでいてよかったわぁ!」
「あなた!!」
凄惨な状況の中、職員が抑えにかかる。
一部の職員は怪我を負った二人の様子を見に行った。
氷室が切られたのは顔の表皮だけだ。……眼球を切られなくてよかったが、治療をしても5Kの時代では、傷痕が見えてしまうかもしれない。
父親は、深く切られて内臓が見えそうだ。
「乱暴はやめてよ!お腹に赤ちゃんがいるんだから!」
職員が躊躇した一瞬を狙って、妊婦とは思えない軽やかな動きで花梨は逃亡した。
「追えっ!」
「中で応急処置、救急車を!」
「警察へ!」
「………あぁあ、ああ……。」吉田重蔵は心と体の痛みに耐えながら、スマホを取り出し、電話をかけた。
きっと、あの子はあそこへ行く。
自らの体から流れた血の海で、重蔵は目を閉じた。
「…………運転手さん、タクシーを出して?場所はそうね。蒲谷弁護士事務所へ。そう、青山。」
花梨は出てすぐにタクシーを捕まえた。
お腹が少し張ってしまった。
息を整え、タクシーの背もたれにもたれて、お腹を撫でた。
私だけ不幸になるなんて許さない。
蜂谷、あいつは許さない。
あいつさえ現れなければ、きっと拓海はいつか振り向いてくれたのに。
「今日で実務修習も終わりね。お疲れ様。」
「残りの修習も頑張ってね。最後の選択型実務修習、うちを選ぶって期待してまってるわ!」
「なんなら合格後もうちに来て頂戴ね!」
「……ありがとうございます!」
嬉しい。
エレベーターを降りて、家へ帰る。
忙しい自分のために、拓海が掃除をして洗濯をして、ご飯を準備してくれる。
バイトがあるから出かける前に作り置きしてるというが、器用なのかすごくおいしい。
カルシウムを取らせようとして、よく食卓には小魚が並ぶ。
(今夜のおかずは何かなぁ…。)
「蜂谷ァァアアアア!!!!」
「!!!!?????」
道行く人も驚いて注視している。
聞き覚えのある声、だが、鬼気迫る声。
そこにいたのは、髪を振り乱した大きなおなかの――――――吉田花梨。
なぜ。なぜここに。
「死ねっ、蜂谷!!!!!!」
彼女が、刃物が飛び出たバックを振り下ろす。
「やめろっ!!!!!!!!!!」
思わず目を閉じて、彼女を止めに入ったその声に目を開けると、そこには拓海がいた。
卸された状態の何冊か積み重ねて縛られた分厚い漫画雑誌に、刃物は突き刺さって止まっている。
「拓海!!?なんで…っ、どいてよっ、拓海!」
「どかない、どくわけないだろ!お前から大事な人を守るんだ! 今度こそ俺は、俺が!」
パトカーのサイレン。
吉田花梨が現行犯で押さえつけられる。
逃げようとして暴れて、あんなに動いたら、もうお腹の子がどうにかなってもおかしくない。
お腹の痛みを訴えて蹲り、ついに捕まって連れていかれたときは、泣いているのか笑っているのか分からない状態だった。
きっと彼女は、もう出てこられない。
「……………拓海っ。」
怖かった…。
「バイト先、弁護士事務所の下のコンビニにしてて正解だった…。」
ぎゅっと、蜜瑠を抱きしめた。
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