【完結】美貌のオメガは正体を隠す

竜鳴躍

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番外編など

父の想い

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「…違う、そうじゃない。今日は身が入らないみたいだな。もう今日は休みなさい。」


「はい。」


氷室家では、寝る前の読み合わせを中止して、息子を自室へあげた。


「何かあったんだろうか。京にしては珍しい…。」



とぅるるる。

電話が鳴り、受話器を取る。


『和哉。私だけど。京はまだ起きてるかしら?』

「いや、今寝かせたところ。どうしたんですか?母さん社長。」

『ハリウッド!ハリウッドからオーディション受けないかって、京にオファーが来たのよ!』

「やった!」

『アメリカンヒーロー物の映画よ。ヒーローオールスターズが悪と戦う話。有名な奴の最新版。』

「どんな役?端役だろうけど、まずは最初の一歩『ヴィランよ。主人公たちが戦う敵。』

「すげええ!ヴィランでもイイ!全編通して出られる奴!ビッグチャンスじゃん!」

『…………サイコパスの二重人格者の役なのよ。』


あっ……。


あの子の母は、本物のサイコパスだった。
もちろん、京にそんな性質はない。

だけど、それをあの子に隠したくて、この手の配役はずっと避けてきた。



「父さん、いいよ。受けて。サイコパスとか二重人格とかおいしいじゃない。そういう役をうまくやれば、実力派って評価も受けやすいし、今後の仕事にもつながる。役の幅が広がる。」


背後に、息子。

まだいたのか。



「………全部、知ってる。僕に気を使わないで。うまく演技してみせるよ。まるで本物のサイコパスみたいな、すごい演技してみせる。僕には本物の血も入ってるんだから…。」


「……いつから?」


「中学にあがったくらい、かな。父さんの傷はなんでついたんだろうって気になって、調べてたら…。自分の母親が死刑囚だったってことはショックだったけど…。それでも俺を引き取ってくれて、愛してくれた父さんや、おばあさまや、おばさまたちに感謝した。だから、僕。」


「…………京。」

「父さんだってわかるでしょ。こんなチャンス、捕まえなきゃ次あるか分からない。僕は必ずオーディションに合格してみせる。」



「………京、知っていたからあの子を振ったのか?」

「………海のこと?」


「向こうのご両親から、海君が塞ぎこんでるって。もしかしたら母親のことを気にしてるんじゃないかって。向こうは、もしそれが理由なら関係ないって言ってたぞ?」



京は瞳を潤ませて、自分の胸のあたりの服を掴んだ。

関係ない、そういわれて嬉しい。




でも―――――――――――


「いいんです。」

自分が、許せないのだ。
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