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いざ王宮へ

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アップル公爵家のカラーである真っ赤なロングコートに白のドレスシャツを身に着けて、スノウは城へ足を踏み入れた。


あああ、いやだ。逃げたい…。

安易にハニートラップ役を引き受けるんじゃなかった。


こんなことになるなんて思ってもいなかった。

天井やそのあたりに潜んでいるであろう『影』の仲間たちを睨む。

特に俺に仕事をあてがった先輩に!



「こちらでお待ちください。」



案内された先は見事なロイヤルガーデン。

様々な種類の薔薇が咲き乱れている。


(綺麗なお庭…。)



そういえば、俺の母親は王妹だったと聞いた。
ということは、ここはお母様の実家になるんだろうか。


「ちょっといいかな。」

供の者を連れて現れた陛下に恐縮して席を立つが、そのままでよいと手で制された。


「………本当にミレーユに生き写しだ。ああ、ミレーユというのは、そなたの母親でアップル公爵夫人のことだ。ミレーユと公爵…パイは本当に仲が良い夫婦だった。そなたが生きていてくれて嬉しい。妃に茶会に呼ばれていると聞いた。その後で、城の中を案内したいのだがいいかね?」


「えっ。」

いいけど、王太子に会いたくない。


「ははは、ジョエルも嫌われたものだ。大丈夫、今日はジョエルは私の代わりに公務で外に出しているからね。城にいても出くわす心配はないよ。………君に見てもらいたいのだ。妹の育った家、過ごした部屋、愛したものを。」


「はい…。」


「それから、私たちは君の力になりたい。タルト=アップルらの愚行に気付かず、今日まで来てしまったことを。妹夫婦の仇に今日まで気づけずにいたことを。もうじき彼らは処刑される。それで、君の本来あるべきだったこれまでの人生が返ってくるわけではないが…。」

「あの。兄が、カルマンって人は悪いことしていないって言ってました。やっぱり、悪人じゃなくても一族は連帯責任になるんでしょうか。」


「カルマンは……本当にいい子だ。あの親の血であることが恨めしい。ついこの間まで城で執事のような仕事をしていたんだよ。あの子のことだけは残念でならない。だけどね、あの子は優しいから。両親や妹を捨てて自分だけ助かることはしたくないと。」


「そうですか……。」





コンコンとノックがされ、王妃様の侍女が俺を呼んだ。


陛下と別れ、王妃様の前に立つ。

ドレスならカーテンシーなのだけど、今日は男の姿なので、紳士の礼をする。



「ようこそ。さあ、腰掛けて。」




王妃様もすごく優しかった。

「私、貴方のお母様とは仲良しだったのよ。身重になるまではよくお茶会もしたわ。」


王妃様の瞳にうっすら涙がにじんでいる気がしたのは、気のせいだっただろうか。
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