真面目な近衛騎士は借金返済のために雄っぱぶ嬢になりました。

竜鳴躍

文字の大きさ
34 / 89

おかえり、スティーブ

しおりを挟む
さあ、今こそ。兄の名誉を取り戻すとき。


カツカツと憎い女の前に歩む。


優しくてきれいなオランジェや殿下ならきっと、こんな『言い方』はけしてしない。

だが、あえて俺は選ぶ。


狼狽える悪女の耳元で。

「なぁ、今どんな気持ち?信じていた帝国王族の血筋には何の利用価値もなく、欲していた男も、爵位も人のものだ。人の気持ちを考えられず、寄り添うことも知らず、ワガママで独り善がりのお前には、誰一人も味方はいない。」

「!黙れ、貧乏貴族!」

「リーフ公爵家より今は金持ってるし。お前は平民。男爵令嬢より下なの。下。ここにいる誰よりも下。俺は平民だからって差別するわけじゃねーけど、お前は自慢だったもんな?帝国の尊い血、公爵家の令嬢であることが。」

悔しい?と思いっきり微笑んでやる。

「私はっ、公爵家の血筋であることには、変わらないわ!公爵の妹なのよ。無礼者!」

俺が合図をすると、殿下がドライを見た。


「私は当主として、この者を廃嫡します。その上でしかるべき処罰を願います。」

「お兄様!なんでッ、」

「兄君の洗脳は解いたから。もう君のいいなりになる手駒はいないの、誰も。それに、お前はただ平民になるんじゃない。お前は犯罪者だから。」

思考の時間など与えない。
胸元から、オリバーから受け取った記録映像を起動させ、ホールの天井一面に拡大して投影する。


「あ、ああっ、」



『用件でしょうか。お嬢様。』

『またいつぞやのようにしますか。第三者には不貞を匂わせて、偽りの婚約破棄騒動…。』

『そこの男は見ない顔ね。新入り?』
『ええ、こんなかわいい顔をして凄腕の暗殺者ですわ。この家に雇われたいというので連れてきましたの。』

『オリバーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』

『ふぅん、あなた。城に潜り込める?』

『私に潜り込めないところなどありません。』

『よかった。オランジェ=ペコーを始末して頂戴。』


「オリバーはこの日のために潜入させていた俺の部下だ。さあ、これは押しも押されぬ証拠。王太子妃暗殺を企て、そして五年前の我が兄は冤罪だった。」

「オリバーあっ、」

「犯罪者に睨まれても、怖くないよ?」
どこともなく、ひょいと現れたオリバーは、ウインクをしてドライの腕に手を掛ける。

頬を緩ませたドライを見て、鬼のような形相だ。
よくやった。


さらに、目の前に捕えたファーメントの手飼を突き出す。
全員、証言を吐かせ、拘束済みだ。

地下牢から出されたばかりで、ぐったりとしている。

「………ッ、す、みませっ。」

「この水色の女だったな、兄の浮気相手とやらは。先ほどの映像でもあったように、仕組まれたものだった。こいつらも、それぞれ罪に応じて処罰が待っている。元々、犯罪者組織からのスカウトのようだから、重くなるだろうがな。」


「あ、あなたは私に味方がいないって言ったけど、お母様が黙っていないわよ!」

「お前の母親は昔、城で起きた魔物の暴走事件の原因を作った、危険人物だ。騎士として復職させたゴルデン隊長とその息子を、母親の監視役につけた。帝国行きにはなったが爵位も戻ったし、満足しているみたいだぜ?ふたりとももう魅了も洗脳も効かない。母親は魅了の眼を失い、声も失った。帝国から味方などできない。今頃あちらでは、王統が倒され、帝国は解体して小国の集まりとなっているだろう。」

帝国は元々、小国の集まりだ。
生き残りの貴族たちにも不満や暴動の芽はあった。
ダージの封書を携え、あちらこちら。

我が国での事件も誇張し、破滅に追いやってやった。

戦争は、情報だけでも起こすことはできる。

さあ、お前は魅了がないから喉だけやればいいかな?
それとも………。


「今、どんな気持ち?平民より格下の、犯罪者さん?美貌?賢い?どんな美点も悪女なだけで台無しだ。誰も欲しがらない、最底辺の女。タダでヤレたってお前なんか御免だね!それがお前の真実だ!」



「う、うそ、い、いやっ!こうなったら」

ファーメントが何かを出そうとする。

だが、その腕は空で止まり、口にはハンカチが押し込まれていた。


「……セイ殿下、お見事です。」

手筈どおり、潜んでいたセイ殿下は、ファーメントの催眠術を止めてくれた。
手のひらの中にある鈴を奪い、打ち壊す。

「ん、んん!」



「大罪人の口と手を拘束して地下牢へ!そして、スティーブ=スプーンの無罪を認め、貴族籍へ復籍するものとする!」
陛下の声が響き、それからダージ殿下が続ける。
「スティーブ=スプーンは、ジェームズ=スプーンが保護していた。スティーブ、入ってくるがよい。」

緑色の髪のスティーブが、黒のスーツを着て現れる。

「そなたの名誉は回復した。賠償金とされた額の倍を公爵家から補償させる。就きたい職があれば言うが良い。」

「ありがとうございます。名誉が回復しただけで充分でございます。」

「陛下、兄には少しゆっくりしていただきたいと思っています。」


悪女は裁かれ、兄は戻ってきて、ジェームズは兄の肩を支えた。
離れていった友人は微妙な関係のまま、暫く冷ややかな目で見られることもある。
スプーン家に戻っても、跡継ぎは自分で婿入り先もなく、息子の冤罪が晴れたのに喜んだ顔もしない父親と兄の母親。

だけれども。

兄が帰ってくることが、とても嬉しい。



壇上では、オランジェが涙ぐんでいた。

だめだぞ、王太子妃なんだから。
そんなに素直な感情をあらわしては。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

おれの超ブラコンでちょっと変態な兄がかっこよすぎるので

しち
BL
兄(バスケ選手)の顔が大好きな弟(ファッションモデル)の話。 これの弟ver.です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/557561084/460952903

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...