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第八章 救世主? 前編
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今日も仕事とは言えない仕事を終えて帰路につく。
とぼとぼとつま先を見つめながら歩く。G材倉庫のリーダーは更衣室へ向かっていた。
階段を一段のぼる……ため息をひとつ。階段を一段のぼる……ため息がふたつ。ポケットをたたいてビスケットが出るならいいけどね。
考えていても家に帰るのが遅くなるだけ、物思いを会社に置いて帰れないG材倉庫のリーダーが本社事務所へ差し掛かると……。
「……今帰りか?」
びびくぅっ!
下向き会社への転職を本気で考えていたG材倉庫のリーダーが顔を上げると。徹さん課長がにんまりと笑っていた。
「UOFひlkvkjんcjさwぢゅ!」
声にならない叫びを上げて全身を硬直させる、人類に備わった防衛本能発動だ。
「待ってたぞ、こっちに来い!」
「あ?え?いや、ちょ!」
いきなり羽交い絞めにされて有無を言わさず引きずられる。G材倉庫のリーダーは徹さん課長に薄暗い談話ブースへ引っ張りこまれた。
☆★☆
もう二年前になるだろう……。
粋がったハツオが徹さん課長に喧嘩を吹っ掛けたことがあった。やめろよなほんとに。
G材倉庫のリーダーはハツオの後ろを歩いていたばっかりに、ハツオが「わぁわぁ」吠えているのをぽかんと見ていたばっかりに。
G材倉庫リーダーは徹さん課長から敵認定されたのだ。わぁこわい。
半年の間、徹さん課長の無体なシゴキは血反吐を吐くほどつらかった。
用途不明な工具の見積依頼。存在しているかどうか怪しいタワシの見積依頼。上から見ても下から見てもどー見ても理解できない消耗工具の購入履歴調査……。
ほんと泣きそうになったわ。
極めつけは残業時間帯に、本社へ電話を掛けたら徹さん課長が電話に出た。
気まずいったらありゃしない。
「お、お、お疲れ様です」
「……おう、お疲れ」
心臓が口から出るほど驚いたってのを、身をもって体験するとは思わなかった。
ドモりまくる、ドモりまくる、ドモりまくる。
もうそれだけで疲労倍増リポビタン案件だ。
双方無言。
一秒ですら永遠に感じられてしまう、静寂は拷問か。
でもこのままでは埒が明かない。
意を決したG材倉庫のリーダーは事態を打開するために大きく息を吸った。
「か、金田課長は~いらっしゃいます……か?」
声はだんだんしりすぼみ。疑問形で相手が答えやすいようにと気を遣ったつもりだけど。
「いや、もう俺だけだ」
……だからかよ。(ちょっと強気)
「あ、はい。わかりました。あ、ありィがとうございました、し、失礼します~」
口走ったよ「ありがとう」
何がありがたいんだかさっぱりわからない。
ガチャ切りにならぬよう受話器を慎重に置いたG材倉庫リーダーは、安堵から全身で空気をむさぼった。
まぁそんなこんなでシゴキに耐えた努力の甲斐あって、ようよう気概を認めてもらえたのだ。
どうやら現場の班長が「誤解だよって」口添えしてくれていたようだったけど。ありがとうございます。
☆★☆
……で、思い出は彼方へと去り。舞台は再び夕暮れの談話ブースだ。
「おおおおお、うっぜえええええええええ」
徹さん課長に引きずり込まれた薄暗い談話ブース。びびりまくるG材倉庫リーダーの目の前で、突然徹さん課長が叫びだした。もう気が触れたのかと思ったよ。
「ど、ど、どうしたんです?」
どもりながら、じわりっと後ずさる。
「ああん?」
徹さん課長は、うろんな目でG材倉庫のリーダーを睨めつけた。あなたが引きずり込んだんじゃない。もうほんと帰りたい(泣)
「あの老害二匹め、言いたいことほざきやがって……」
あ、噴火の前触れだよ。
「アイツ等、俺が相見積り取ってないって現場部部長にチクリやがったんだよ畜生が!」
あ、やっぱり噴火したよ。
「相見積あいみつもりが必要なのは俺も知ってる。でもな、あの程度のブツで相見積あいみつもりなんぞ意味がないんだよ。Gちゃん、差額知ってるよな?」
「……ええと、はい」
G材倉庫のリーダーの頬を、冷や汗が伝う。ほんと帰りたい。
「いくらだよ、言ってみ」
「ごじゅうはちえんです」
「そら見てみろやぁ!その差額のために、こっちはどれだけの手間を取られるんだか分かってんのかあの老害どもはぁ!ふざけんな畜生めが!」
徹さん課長の憤激はおさまりそうにない。
「おう、それならこっちにも考えがある。工場の現場全体はすべての案件をG材倉庫に丸投げする。どの現場も一切見積とかとらねーからな。見積回答期限は三日だ三日!すぐに話をつけてやる。現場を敵に回したらどうなるかお望みならば教えてやるよ」
鋭い口調で言い放った徹さん課長は、そこでにいっと笑みを浮かべた。でも目が笑っていない。
「安心しろよ、Gちゃんは別だから」
あわわ、このひとほんきだよ。
G材倉庫リーダーは鼻血が出るほど頭を下げて、徹さん課長に思いとどまるように懇願した。
当たり前のことだが。老害や魔女をかばった訳ではない。
G材倉庫のリーダーは女神様にたくさんの恩があるのだ。
とぼとぼとつま先を見つめながら歩く。G材倉庫のリーダーは更衣室へ向かっていた。
階段を一段のぼる……ため息をひとつ。階段を一段のぼる……ため息がふたつ。ポケットをたたいてビスケットが出るならいいけどね。
考えていても家に帰るのが遅くなるだけ、物思いを会社に置いて帰れないG材倉庫のリーダーが本社事務所へ差し掛かると……。
「……今帰りか?」
びびくぅっ!
下向き会社への転職を本気で考えていたG材倉庫のリーダーが顔を上げると。徹さん課長がにんまりと笑っていた。
「UOFひlkvkjんcjさwぢゅ!」
声にならない叫びを上げて全身を硬直させる、人類に備わった防衛本能発動だ。
「待ってたぞ、こっちに来い!」
「あ?え?いや、ちょ!」
いきなり羽交い絞めにされて有無を言わさず引きずられる。G材倉庫のリーダーは徹さん課長に薄暗い談話ブースへ引っ張りこまれた。
☆★☆
もう二年前になるだろう……。
粋がったハツオが徹さん課長に喧嘩を吹っ掛けたことがあった。やめろよなほんとに。
G材倉庫のリーダーはハツオの後ろを歩いていたばっかりに、ハツオが「わぁわぁ」吠えているのをぽかんと見ていたばっかりに。
G材倉庫リーダーは徹さん課長から敵認定されたのだ。わぁこわい。
半年の間、徹さん課長の無体なシゴキは血反吐を吐くほどつらかった。
用途不明な工具の見積依頼。存在しているかどうか怪しいタワシの見積依頼。上から見ても下から見てもどー見ても理解できない消耗工具の購入履歴調査……。
ほんと泣きそうになったわ。
極めつけは残業時間帯に、本社へ電話を掛けたら徹さん課長が電話に出た。
気まずいったらありゃしない。
「お、お、お疲れ様です」
「……おう、お疲れ」
心臓が口から出るほど驚いたってのを、身をもって体験するとは思わなかった。
ドモりまくる、ドモりまくる、ドモりまくる。
もうそれだけで疲労倍増リポビタン案件だ。
双方無言。
一秒ですら永遠に感じられてしまう、静寂は拷問か。
でもこのままでは埒が明かない。
意を決したG材倉庫のリーダーは事態を打開するために大きく息を吸った。
「か、金田課長は~いらっしゃいます……か?」
声はだんだんしりすぼみ。疑問形で相手が答えやすいようにと気を遣ったつもりだけど。
「いや、もう俺だけだ」
……だからかよ。(ちょっと強気)
「あ、はい。わかりました。あ、ありィがとうございました、し、失礼します~」
口走ったよ「ありがとう」
何がありがたいんだかさっぱりわからない。
ガチャ切りにならぬよう受話器を慎重に置いたG材倉庫リーダーは、安堵から全身で空気をむさぼった。
まぁそんなこんなでシゴキに耐えた努力の甲斐あって、ようよう気概を認めてもらえたのだ。
どうやら現場の班長が「誤解だよって」口添えしてくれていたようだったけど。ありがとうございます。
☆★☆
……で、思い出は彼方へと去り。舞台は再び夕暮れの談話ブースだ。
「おおおおお、うっぜえええええええええ」
徹さん課長に引きずり込まれた薄暗い談話ブース。びびりまくるG材倉庫リーダーの目の前で、突然徹さん課長が叫びだした。もう気が触れたのかと思ったよ。
「ど、ど、どうしたんです?」
どもりながら、じわりっと後ずさる。
「ああん?」
徹さん課長は、うろんな目でG材倉庫のリーダーを睨めつけた。あなたが引きずり込んだんじゃない。もうほんと帰りたい(泣)
「あの老害二匹め、言いたいことほざきやがって……」
あ、噴火の前触れだよ。
「アイツ等、俺が相見積り取ってないって現場部部長にチクリやがったんだよ畜生が!」
あ、やっぱり噴火したよ。
「相見積あいみつもりが必要なのは俺も知ってる。でもな、あの程度のブツで相見積あいみつもりなんぞ意味がないんだよ。Gちゃん、差額知ってるよな?」
「……ええと、はい」
G材倉庫のリーダーの頬を、冷や汗が伝う。ほんと帰りたい。
「いくらだよ、言ってみ」
「ごじゅうはちえんです」
「そら見てみろやぁ!その差額のために、こっちはどれだけの手間を取られるんだか分かってんのかあの老害どもはぁ!ふざけんな畜生めが!」
徹さん課長の憤激はおさまりそうにない。
「おう、それならこっちにも考えがある。工場の現場全体はすべての案件をG材倉庫に丸投げする。どの現場も一切見積とかとらねーからな。見積回答期限は三日だ三日!すぐに話をつけてやる。現場を敵に回したらどうなるかお望みならば教えてやるよ」
鋭い口調で言い放った徹さん課長は、そこでにいっと笑みを浮かべた。でも目が笑っていない。
「安心しろよ、Gちゃんは別だから」
あわわ、このひとほんきだよ。
G材倉庫リーダーは鼻血が出るほど頭を下げて、徹さん課長に思いとどまるように懇願した。
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