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第十二章 闘う女神様
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インフルエンザは何とか退けた。
まだ本調子ではないけれど、出社して様子を見よう。もう人にうつしちゃう心配もないだろうし。
病み上がりで元気ハツラツオロナミンな人なんて、いないんじゃないかな。
女神様は気持ちを奮い立たせてG材倉庫へ向かった。
「……ええと」
G材倉庫に入った途端、女神様はめまいを覚えた。
インフルエンザがぶり返したわけではない、足元には納品された荷物が山積みになっている。嫌な予感がして事務所へ視線を向けると……。
やっぱり、デスクの上に伝票がたくさん載っている。
ハツオは休み、ヒロユキは昼から休み、魔女は……えい、もう関わらないでおこう。
そうこうしているうちに始業時刻となり、女神様は思わず身震いした。
(押し寄せて……来る!)
最初に来たのは現場の社員だ。「手袋ください」「カラースプレーください」「アレない?」「コレない?」と入れ代わり立ち代わりやってくる。
「はい、どうぞ。お疲れさまです」
優しい女神様は、現場社員ひとりひとりに一声添えて送り出す。
倉庫を訪れる現場社員に対応しながら、ちらりと材料のピックアップ票を確認する。倉庫内の貯蔵材料を現場の要求に合わせて集める作業だ。
ようやく現場社員の波をやり過ごしてパソコンに向かおうとすれば、そろそろ仕入れ先の営業担当者が納品に訪れる時間だ。
先週末に納品された品が片付いていないのに……。それでも女神様はテキパキと納品書にハンコを押しながら、現場別に仕分ける箱を準備する。
材料の発注依頼はデスクから動かない魔女がやっていることにする。もうそうしちゃう。
(え、もうこんな時間……)
ちらりと時計を見て戦慄した。
しかも現場からの材料要求の用紙がトレイの上で重なっている。たくさんの要求票を見て女神様の眉がぴくりと動いた。
(これ、早めにピックアップ完了しなきゃ……だったよね)
冷たい汗が背中を伝う。
ひとつひとつはルーチン。でも、それが途切れなく押し寄せる。
しかも今日は、まだ体の芯がふわふわして足取りが定まらない。女神様は、汗ばんだ額を袖でぬぐいながらつぶやいた。
「……これ全部、私一人でやるの……?」
その問いかけに答えは返ってこない。
あるのはまだ開封されていない段ボールの山と、処理しきれていない伝票の山だけだった。
☆★☆
通話が切れた携帯電話をそっと机に置いた。
無力感に苛まれて言葉が出ない、押し寄せる激しい感情の波に飲み込まれた。
ただ、女神様があんなふうに声を荒げるのは珍しいことだった。だから、きっと倉庫は本当に大変だったんだと思う。
後悔と申し訳なさに立ち尽くす、数多の言葉を並べれば赦されるのだと勘違いするわけにはいかない。
どんなに自嘲しても、どんなに自虐しても何も変わらない。
僕の想いなんてあの老害達は嘲笑するだけだろう。
今の僕には何もできない。
女神様の声の熱はまだ、耳の奥に残っている……。
まだ本調子ではないけれど、出社して様子を見よう。もう人にうつしちゃう心配もないだろうし。
病み上がりで元気ハツラツオロナミンな人なんて、いないんじゃないかな。
女神様は気持ちを奮い立たせてG材倉庫へ向かった。
「……ええと」
G材倉庫に入った途端、女神様はめまいを覚えた。
インフルエンザがぶり返したわけではない、足元には納品された荷物が山積みになっている。嫌な予感がして事務所へ視線を向けると……。
やっぱり、デスクの上に伝票がたくさん載っている。
ハツオは休み、ヒロユキは昼から休み、魔女は……えい、もう関わらないでおこう。
そうこうしているうちに始業時刻となり、女神様は思わず身震いした。
(押し寄せて……来る!)
最初に来たのは現場の社員だ。「手袋ください」「カラースプレーください」「アレない?」「コレない?」と入れ代わり立ち代わりやってくる。
「はい、どうぞ。お疲れさまです」
優しい女神様は、現場社員ひとりひとりに一声添えて送り出す。
倉庫を訪れる現場社員に対応しながら、ちらりと材料のピックアップ票を確認する。倉庫内の貯蔵材料を現場の要求に合わせて集める作業だ。
ようやく現場社員の波をやり過ごしてパソコンに向かおうとすれば、そろそろ仕入れ先の営業担当者が納品に訪れる時間だ。
先週末に納品された品が片付いていないのに……。それでも女神様はテキパキと納品書にハンコを押しながら、現場別に仕分ける箱を準備する。
材料の発注依頼はデスクから動かない魔女がやっていることにする。もうそうしちゃう。
(え、もうこんな時間……)
ちらりと時計を見て戦慄した。
しかも現場からの材料要求の用紙がトレイの上で重なっている。たくさんの要求票を見て女神様の眉がぴくりと動いた。
(これ、早めにピックアップ完了しなきゃ……だったよね)
冷たい汗が背中を伝う。
ひとつひとつはルーチン。でも、それが途切れなく押し寄せる。
しかも今日は、まだ体の芯がふわふわして足取りが定まらない。女神様は、汗ばんだ額を袖でぬぐいながらつぶやいた。
「……これ全部、私一人でやるの……?」
その問いかけに答えは返ってこない。
あるのはまだ開封されていない段ボールの山と、処理しきれていない伝票の山だけだった。
☆★☆
通話が切れた携帯電話をそっと机に置いた。
無力感に苛まれて言葉が出ない、押し寄せる激しい感情の波に飲み込まれた。
ただ、女神様があんなふうに声を荒げるのは珍しいことだった。だから、きっと倉庫は本当に大変だったんだと思う。
後悔と申し訳なさに立ち尽くす、数多の言葉を並べれば赦されるのだと勘違いするわけにはいかない。
どんなに自嘲しても、どんなに自虐しても何も変わらない。
僕の想いなんてあの老害達は嘲笑するだけだろう。
今の僕には何もできない。
女神様の声の熱はまだ、耳の奥に残っている……。
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