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第二十章 女神の怒り
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倉庫のいちばん奥で、僕は業務用スマホの画面をタップした。
その時、どんな顔をしていたのだろう?久しぶりに僕の顔を見た会社のスマホは、驚いただろうね。
電話先は上司だ。さすがに独断での行動はまずい、許可くらいは取っておかなきゃね──。
建前でもいい、これは正当な手順を踏んだ報告なんだ。
「ああ、もう!」
……いつも通り上司は電話に出ない。
たっぷり6コール目で、ようやくつながった。
「どうした?」
(どうしたじゃない、この状況で……!)
おっとあぶないあぶない。
頭に血が上ってるな、冷静になれ冷静に!
僕はG材倉庫に起きている状態をかいつまんで報告した。「魔女さんが泣いてます」ってハッタリをかますのも忘れない。
そして、すぐに第一倉庫にも電話をかける。
第一倉庫へも事情を説明して電話を切る。僕は一瞬だけ静かに息を吐いてから、両手でぴしゃりと頬を叩いた。
「こうしちゃいられない!」
そして、すぐさま事務所へと取って返した。
電話で上司に状況説明する際に、少しだけ? 緊急性を盛っておいたからなのか。上司は血相変えて来てくれた。
「何があったのか、まずは落ち着いて説明して――」
上司がそう言ってる途中で、それは起きたんだ。
ぱしっ!
乾いた破裂音と衝撃に、僕は首をすくめた。その直後、網膜を焼くかのような紫電の雷光が事務所内で弾けた。
「――ちょっといいですか?」
女神様の背中の羽が微か震えて大きく広がった。
いつもは、ふんわりゆるゆるの柔らかな翼が、今は紫がかった光を帯びている。
女神様が腰に帯びている聖剣が、カタカタと震えはじめた。
「落ち着きなさい、アスティレイア」
女神様は、荒ぶる聖剣の柄を優しく撫でた。
「ご安心ください。人間相手にこの聖剣を抜くつもりはありません」
その声は静かで、けれど心を刺すような冷たさだった。
そして……。
「こんな量の仕事、私一人でどうにかできないです! いいですか? 請求書は無理でしょうけど。これなんかパンチで穴をあけてファイルに閉じるだけなんですよ? 魔女さんに聞きましたよ、昨日はそんなに忙しくなかったって。だったら、こっちの書類の事務処理だって出来るはずですよねっ!」
「……私、そんなことしていいんですかって言ったんですぅ。でもハツオが『だいじょうぶ、この女神様は出来るから。うへへへいっ』て笑ったんですぅ」
女神様の怒りに、魔女が燃料をたっぷりどぷどぷと注いでいる。
「あ、あれ?」
僕は、真剣な表情で上司に訴えかける女神様の足元に、微かな光が収束していることに気付いた。集まっていく光は次第に何かの模様を形作り始める。
「え、ええええ? なにこれ、魔法陣? あわわ、ちょっと、女神様?」
僕は、ぽんぽんと女神様の肩を叩いてみる。
「なんですか!? 最近のG材倉庫はおかしいんですよ何もかも! ハツオがぜぇんぶ指揮を執ってるし! これはGさん苛めですかっ! G材倉庫ジャックなんですかっ!」
女神様が叫んだ瞬間だった。
床にくっきりと浮かび上がった魔法陣から突き上げた、まばゆい光の柱が事務所の天井を刺し貫いた。
そこで、女神様は「はっ」と我に返ったようだ。
「ぴゃあ! ユルティマ・セレニティが発動しちゃいます!」
「な、な、なんですか、その世界がが滅びそうなフレーズはっ!」
「よく気が付きましたね、全方位殲滅専用特級魔法なんです!」
なんて物騒な名前の魔法なんだ。女神様だし魔法が使えるんだろうなぁとはうっすら思っていたけど、こんな特大なのどうするの?
「得意げな顔してないで止めましょう、今すぐに!」
魔法陣はいよいよ輝きを強め、足元からは微かな振動が体を這い上がってくる。あははは、もう笑うしかない。
耐震強度に問題があるG材倉庫は倒壊の危機だ。
魔女は事務所の隅っこに逃げて縮こまっている。上司に至っては立ったまま気絶しているようだ。
「そ、そうですねっ! すぐにキャンセルします!」
……あ、出来るんだ。
なにそれ、魔法にもクーリングオフってあるのん?
「えい」
女神様が勢いよく聖剣を引き抜くと、全方位殲滅専用特級魔法「ユルティマ・セレニティ」は、ぽむっとあっさり消え去った。
「ぴゃあ……。間に合いました。ここら一帯が消し飛ぶとこでした」
ぽつりと怖いことをつぶやいて、背中の羽を柔らかく畳んだ女神様は、手の甲で額の汗をぬぐっている。
強力な破壊魔法は消え去った。
安堵する間もなく、微かな光の残滓をじっと見つめていた僕は、ひとつの決意を固めていた。
その時、どんな顔をしていたのだろう?久しぶりに僕の顔を見た会社のスマホは、驚いただろうね。
電話先は上司だ。さすがに独断での行動はまずい、許可くらいは取っておかなきゃね──。
建前でもいい、これは正当な手順を踏んだ報告なんだ。
「ああ、もう!」
……いつも通り上司は電話に出ない。
たっぷり6コール目で、ようやくつながった。
「どうした?」
(どうしたじゃない、この状況で……!)
おっとあぶないあぶない。
頭に血が上ってるな、冷静になれ冷静に!
僕はG材倉庫に起きている状態をかいつまんで報告した。「魔女さんが泣いてます」ってハッタリをかますのも忘れない。
そして、すぐに第一倉庫にも電話をかける。
第一倉庫へも事情を説明して電話を切る。僕は一瞬だけ静かに息を吐いてから、両手でぴしゃりと頬を叩いた。
「こうしちゃいられない!」
そして、すぐさま事務所へと取って返した。
電話で上司に状況説明する際に、少しだけ? 緊急性を盛っておいたからなのか。上司は血相変えて来てくれた。
「何があったのか、まずは落ち着いて説明して――」
上司がそう言ってる途中で、それは起きたんだ。
ぱしっ!
乾いた破裂音と衝撃に、僕は首をすくめた。その直後、網膜を焼くかのような紫電の雷光が事務所内で弾けた。
「――ちょっといいですか?」
女神様の背中の羽が微か震えて大きく広がった。
いつもは、ふんわりゆるゆるの柔らかな翼が、今は紫がかった光を帯びている。
女神様が腰に帯びている聖剣が、カタカタと震えはじめた。
「落ち着きなさい、アスティレイア」
女神様は、荒ぶる聖剣の柄を優しく撫でた。
「ご安心ください。人間相手にこの聖剣を抜くつもりはありません」
その声は静かで、けれど心を刺すような冷たさだった。
そして……。
「こんな量の仕事、私一人でどうにかできないです! いいですか? 請求書は無理でしょうけど。これなんかパンチで穴をあけてファイルに閉じるだけなんですよ? 魔女さんに聞きましたよ、昨日はそんなに忙しくなかったって。だったら、こっちの書類の事務処理だって出来るはずですよねっ!」
「……私、そんなことしていいんですかって言ったんですぅ。でもハツオが『だいじょうぶ、この女神様は出来るから。うへへへいっ』て笑ったんですぅ」
女神様の怒りに、魔女が燃料をたっぷりどぷどぷと注いでいる。
「あ、あれ?」
僕は、真剣な表情で上司に訴えかける女神様の足元に、微かな光が収束していることに気付いた。集まっていく光は次第に何かの模様を形作り始める。
「え、ええええ? なにこれ、魔法陣? あわわ、ちょっと、女神様?」
僕は、ぽんぽんと女神様の肩を叩いてみる。
「なんですか!? 最近のG材倉庫はおかしいんですよ何もかも! ハツオがぜぇんぶ指揮を執ってるし! これはGさん苛めですかっ! G材倉庫ジャックなんですかっ!」
女神様が叫んだ瞬間だった。
床にくっきりと浮かび上がった魔法陣から突き上げた、まばゆい光の柱が事務所の天井を刺し貫いた。
そこで、女神様は「はっ」と我に返ったようだ。
「ぴゃあ! ユルティマ・セレニティが発動しちゃいます!」
「な、な、なんですか、その世界がが滅びそうなフレーズはっ!」
「よく気が付きましたね、全方位殲滅専用特級魔法なんです!」
なんて物騒な名前の魔法なんだ。女神様だし魔法が使えるんだろうなぁとはうっすら思っていたけど、こんな特大なのどうするの?
「得意げな顔してないで止めましょう、今すぐに!」
魔法陣はいよいよ輝きを強め、足元からは微かな振動が体を這い上がってくる。あははは、もう笑うしかない。
耐震強度に問題があるG材倉庫は倒壊の危機だ。
魔女は事務所の隅っこに逃げて縮こまっている。上司に至っては立ったまま気絶しているようだ。
「そ、そうですねっ! すぐにキャンセルします!」
……あ、出来るんだ。
なにそれ、魔法にもクーリングオフってあるのん?
「えい」
女神様が勢いよく聖剣を引き抜くと、全方位殲滅専用特級魔法「ユルティマ・セレニティ」は、ぽむっとあっさり消え去った。
「ぴゃあ……。間に合いました。ここら一帯が消し飛ぶとこでした」
ぽつりと怖いことをつぶやいて、背中の羽を柔らかく畳んだ女神様は、手の甲で額の汗をぬぐっている。
強力な破壊魔法は消え去った。
安堵する間もなく、微かな光の残滓をじっと見つめていた僕は、ひとつの決意を固めていた。
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