【完結】G材倉庫ジャック事件!

冴木 悠宇

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第二十二章 ゆるふわ女神と天界への帰省

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クリスマも終わり。
 年末の慌ただしさと、新年へのわくわくが同居した街の様子はとても賑やかだ。神楽坂家でも楽し気なそわそわが伝播していた。

「それでは、絵衣子さん。いざ、天界へ!です」

「ほらほら、ゆるちゃん。忘れ物はない? ハンカチ持った? 天界の通信端末は?」

 依り代である【神楽坂 絵衣子かぐらさか えいこ】から分離したゆるちゃん……。
 その神名を「すーぱーゆるふわ神業”お仕事系”女神、 YURUFUWA-001」は、絵衣子からピンク色をした可愛らしいポシェットを受け取った。

 肩から掛けようとして背中のきれいな翼にポシェットが引っかかり、しばらくもがいていたゆるちゃんは涙目で絵衣子を見た。

「ぴゃあ……」

「もう、お仕事はできるのにねぇ」

 まるで手の掛かる子供みたい。
 柔らかく微笑んだ絵衣子は、ゆるちゃんの翼を避けてポシェットを肩からかけてやる。女神のしろである絵衣子だが、彼女にとっては娘のような存在なのだ。

「ありがと、絵衣子さん」

 ゆるちゃんはポシェットをぽんぽんとたたいて、嬉しそうに「ほにゃっ」と笑った。

 背中の翼を広げて、ぶるるっと体を震わせる。ぱたぱたと翼を揺らしながらとんっと地面を軽やかに蹴ったゆるちゃんは、ふわりと空へ舞い上がった。

「いってきまぁす」

「楽しんできてね、ゆるちゃん。帰りはお迎えに行った方がいいかな?」

「だいじょぶです」

 冬空で踊るゆるちゃんの姿は、空間の揺らめきと共に消えた。数日間の別れ……。お里帰りなのだけど、ちょっと心配してしまう。
 冬空を振り仰いだ絵衣子は、ひとひらの寂しさを心の隅に転がして、くすりと笑った。

☆★☆

 展開へのゲート内は、虹色の光に満ちている。眩くもあたたかな光の粒子の中を進む。

「もうちょっと」

 ゆるちゃんの期待が、笑顔をさらに輝かせる、体を加速させる。
 ぽん!
 軽やかな破裂音と共に異界へのゲートをくぐり抜けた、すーぱーゆるふわ神業”お仕事系”女神、ゆるちゃんは天界へと帰還した。

「わぁ」

 空中から展開を見渡して、久々の光景に眼を瞬かせる。
 天界はもうすでに大宴会ムードだ。派手なお飾りが木々を彩り、綺麗なのぼりがこれでもかと立ち並び、そこかしこに大きな酒樽が乱立している。
 そして食欲をそそる、いい匂いが漂ってくる。
 軽やかに天界の大地を踏み、ゆるちゃんはゆっくりと翼を畳んだ。

「やっぱり天界の年末年始っていいなぁ……」

 天界の優しい風が、ゆるちゃんの髪をふわりと撫でる。
 お楽しみの宴に参加する前に、帰還のきかん報告をしなければならない。ゆるちゃんは、天界をべる全能神の元へと向かった。

「おお、戻ったのか女神よ」

「はい、全能神様」

「そうかそうか、よく戻ったな!」

 まるで帰省した娘を迎えた父親のようである。全能神はふわふわの金髪を揺らし、彫りの深い顔に笑みを浮かべた。

 ぽん。大きな手でやさしく頭を撫でられて。ゆるちゃんはくすぐったそうに首をすくめた。

「締めくくりの日に、大変な目にあったようだな?」

「はい、それはもうブチ切れました」

 さすがなんでもお見通しの全能神。
 ふんす! 真剣な表情で、力を込めて両手を握ったゆるちゃんだけど。
 感情の爆発と、オマケに広範囲殲滅魔術こうはんいせんめつまじゅつ『ユルティマ・セレニティ』の暴発未遂を起こした。
 押し寄せた自己嫌悪に、その晩ビール三杯を飲み干して同化した絵衣子が酔っぱらって大変なことになったのは秘密だよね。

「そうか。まぁ、女神が無事ならそれでいい」

 ほーっと、長いため息をついた全能神を、ゆるちゃんは「てへへ」と頭をかきながら見上げた。
 ……ぺし。
 いやいや、ぽんと肩を叩かれたゆるちゃんは「ぴゃっ!」と背筋を伸ばした。

「ゆるちゃん、おかえりなさい」

 やさしい声が肩越しに響いた。

「あ、初瀬野はつせのさん! じゃなかった菩薩様」

「今年もお疲れ様。ほら、宴がはじまりますよ……」

 全能神から宴に招待された菩薩様が、瞳を閉じて右手をそっと耳にあてる。
 遠く、宴会の会場付近からお囃子はやしが聞こえはじめた。

 その美しい音色、命の鼓動こどうを感じさせるリズムは心を高揚させる。
 ほら、天界で新年を祝う大宴会の始まりだ。
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