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第二十四章 仕事初めは波乱の気配
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どこのご家庭も、忙しい朝は戦場の様相を呈している。
家族をちゃんと送り出し、自分も出勤しなければならない。身支度を整えた絵衣子はバッグを持って家を出た。
「ゆるちゃん、どこ? ゆるちゃーん!」
きょろきょろと女神を探していた絵衣子は、何かに思い当たったように、手をぽんと打ち合わせた。
玄関を出て、陽射しに手をかざして空を振り仰ぐ。
「ゆるちゃーん。そろそろ出勤の時間だから下りておいで!」
「ぴゃ!」
神楽坂家の屋根の上で、ぴょこんと背筋を伸ばした女神のゆるちゃん。
絵衣子が声を掛けると、ゆるちゃんは立ち上がって背中の白い翼を広げた。
「どうしたの? じっと空を見つめたりして」
「ん~ええと」
ふわりと絵衣子のもとに舞い降りたゆるちゃんは、ちょっと困ったようにもじもじしている。
「ゆるちゃん?」
「えへへ、絵衣子さん。この姿ではお話ししにくいです」
「ん? ああ、そういうことね、分かった」
頷いた絵衣子が体の力を抜いて目を瞑ると、とんっと地面を蹴ったゆるちゃんが、絵衣子の体に吸い込まれた。
『YURUFUWA-001、EIKO KAGURAZAKAとの融合を確認。シンクロシステムは正常に起動、動作を開始しました……』
どこからともなく電子音声が聞こえてくる、これは天界システムの七不思議だね。
「ふう。ゆるちゃん、これでいい?」
『はい、絵衣子さん。ありがとうございます』
絵衣子と融合することで大人びたゆるちゃんの声は、すーぱーゆるふわ神業お仕事系女神 YURUFUWA-001のものだ。
「それで、どうしたの?」
車のキーをポケットから取り出した絵衣子は、自分の体の中に存在する『ゆるちゃん』と会話する。
『なにか炎の気配がするんです』
「ちょ、ええ、また!?」
車に乗り込んだ絵衣子は驚いた。とりあえずエンジンをかけて、女神の言葉を待つ。
「ねぇ、ゆるちゃん。何か起こるっていうの?」
『ええ。そんな予感がするんです』
「ああ、またなの……」
女神の言葉はどこか歯切れが悪い。
絵衣子は小さなため息をついた。ここ数か月の間、もうG材倉庫はガタガタだなのだ。
「じゃあ、今日はゆるちゃんが……?」
『はい。心配なので、しばらくは私が見ていますね』
「うん。そうね、それじゃお願い」
そう答えて、気持ちを引き締めた絵衣子はゆっくりとアクセルを踏んだ。
☆★☆
海老の旨煮に癒されて、ちゃんと元気をもらったよ。
お正月休みも終わり、僕は日常へと回帰する。
追い出し部屋をぶっ壊すんだ。
休み明け早々、僕はアスファルトを踏み抜く勢いで、工場の長いメインストリートを歩く。
のほほんと休みを堪能している、老害どもをこの機会に出し抜いてやる。
吹きすさぶ北風は冷たくて、僕の決意を挫こうとするけれど。今回ばかりは負けていられないんだ。
点呼を終えて足早にG材倉庫の事務所に戻った僕は、メージャー片手にあちこちの寸法を測って回る。
思ったとおりだ。物置にしかなっていない無用の長机を事務所から追い出せば、追い出し部屋にある粗末なパソコンデスクくらい簡単に配置できる。
そして午後になると、第一倉庫の仲間があっという間に二階から机を持って降りて、G材倉庫事務所に運び入れてくれたんだ。
「さあ、ここから逆転だ」
気持ちを新たに机に向かう。引き出しもない粗末な机。不自由が多いけど。ちゃんと仕事ができるんだ、贅沢言ってられないよね。
どうしたんだろう? 今日は絵衣子さんではなく、すーぱーゆるふわ神業お仕事系女神様のほうが机に座っていた。絵衣子さんは調子でも悪いのかな?
僕の様子に気づいたのか、「またよろしくお願いします」女神様はぺこっとお辞儀して手を振ってくれた。
このとき魔女は……。事務所に居たよね、多分。
相変わらず、僕のお粗末な脳の短期記憶領域はあいまいだ。
家族をちゃんと送り出し、自分も出勤しなければならない。身支度を整えた絵衣子はバッグを持って家を出た。
「ゆるちゃん、どこ? ゆるちゃーん!」
きょろきょろと女神を探していた絵衣子は、何かに思い当たったように、手をぽんと打ち合わせた。
玄関を出て、陽射しに手をかざして空を振り仰ぐ。
「ゆるちゃーん。そろそろ出勤の時間だから下りておいで!」
「ぴゃ!」
神楽坂家の屋根の上で、ぴょこんと背筋を伸ばした女神のゆるちゃん。
絵衣子が声を掛けると、ゆるちゃんは立ち上がって背中の白い翼を広げた。
「どうしたの? じっと空を見つめたりして」
「ん~ええと」
ふわりと絵衣子のもとに舞い降りたゆるちゃんは、ちょっと困ったようにもじもじしている。
「ゆるちゃん?」
「えへへ、絵衣子さん。この姿ではお話ししにくいです」
「ん? ああ、そういうことね、分かった」
頷いた絵衣子が体の力を抜いて目を瞑ると、とんっと地面を蹴ったゆるちゃんが、絵衣子の体に吸い込まれた。
『YURUFUWA-001、EIKO KAGURAZAKAとの融合を確認。シンクロシステムは正常に起動、動作を開始しました……』
どこからともなく電子音声が聞こえてくる、これは天界システムの七不思議だね。
「ふう。ゆるちゃん、これでいい?」
『はい、絵衣子さん。ありがとうございます』
絵衣子と融合することで大人びたゆるちゃんの声は、すーぱーゆるふわ神業お仕事系女神 YURUFUWA-001のものだ。
「それで、どうしたの?」
車のキーをポケットから取り出した絵衣子は、自分の体の中に存在する『ゆるちゃん』と会話する。
『なにか炎の気配がするんです』
「ちょ、ええ、また!?」
車に乗り込んだ絵衣子は驚いた。とりあえずエンジンをかけて、女神の言葉を待つ。
「ねぇ、ゆるちゃん。何か起こるっていうの?」
『ええ。そんな予感がするんです』
「ああ、またなの……」
女神の言葉はどこか歯切れが悪い。
絵衣子は小さなため息をついた。ここ数か月の間、もうG材倉庫はガタガタだなのだ。
「じゃあ、今日はゆるちゃんが……?」
『はい。心配なので、しばらくは私が見ていますね』
「うん。そうね、それじゃお願い」
そう答えて、気持ちを引き締めた絵衣子はゆっくりとアクセルを踏んだ。
☆★☆
海老の旨煮に癒されて、ちゃんと元気をもらったよ。
お正月休みも終わり、僕は日常へと回帰する。
追い出し部屋をぶっ壊すんだ。
休み明け早々、僕はアスファルトを踏み抜く勢いで、工場の長いメインストリートを歩く。
のほほんと休みを堪能している、老害どもをこの機会に出し抜いてやる。
吹きすさぶ北風は冷たくて、僕の決意を挫こうとするけれど。今回ばかりは負けていられないんだ。
点呼を終えて足早にG材倉庫の事務所に戻った僕は、メージャー片手にあちこちの寸法を測って回る。
思ったとおりだ。物置にしかなっていない無用の長机を事務所から追い出せば、追い出し部屋にある粗末なパソコンデスクくらい簡単に配置できる。
そして午後になると、第一倉庫の仲間があっという間に二階から机を持って降りて、G材倉庫事務所に運び入れてくれたんだ。
「さあ、ここから逆転だ」
気持ちを新たに机に向かう。引き出しもない粗末な机。不自由が多いけど。ちゃんと仕事ができるんだ、贅沢言ってられないよね。
どうしたんだろう? 今日は絵衣子さんではなく、すーぱーゆるふわ神業お仕事系女神様のほうが机に座っていた。絵衣子さんは調子でも悪いのかな?
僕の様子に気づいたのか、「またよろしくお願いします」女神様はぺこっとお辞儀して手を振ってくれた。
このとき魔女は……。事務所に居たよね、多分。
相変わらず、僕のお粗末な脳の短期記憶領域はあいまいだ。
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