【完結】G材倉庫ジャック事件!

冴木 悠宇

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エピローグ

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 ……魔女は、もう元魔女なのだろう、彼女は笑っていた。
 きっと、誰も想像しなかったようなやわらかな笑顔で。
 このほど、かねてからの希望が叶って他部署への異動が決まったのだ。
 いちどやってみたかった仕事なのだそうだ。
 そう言って、くるりと軽やかに背を向ける。
 それだけで、他になんの言葉もなかったけど
 でも、もういいのだと思った。

 うん、後悔は……ない、よ。
 老害そのいちのダミ声は、毎朝点呼で聞かなきゃならないし。
 老害そのには、相変わらず空気が読めないようで、仕事中にのこのこ遊びに来る。
 もちろん、焼き芋を持って……。

 それにしても。
 たった数ヶ月の間に、あんな騒動と奇跡のような出来事がいくつも起こるなんてね。
 ひょっとしたら、G材倉庫の事務所は突然訪れた静けさに戸惑っているのかもしれないね。

 忘れないよ、ほんと忘れられない。
 僕は非日常の嵐が去ったあとの静寂と清々しさ、それから安堵を噛みしめていたんだ。
 今はほっとしてるよ。でもふとした時に、両腕で体を抱きしめなきゃならないときがある。
 きっと、心の疼きがきれいに拭えたわけではないんだろう。

 静謐が優雅に横たわる、がらんとした事務所で。
「静かですねー」
「ほんとですねー」
 なんてしみじみしていたんだけど。
「……あれ?」
 僕は首を傾げた。
 しみじみとお話していたのは、ゆるちゃんじゃない、そして依り代の絵衣子さんでもない。

 ほんものの女神様だ。
「はい」 
 目をぱちくりとさせている僕に、女神様がペットボトルのミネラルウォーターを手渡してくれた。
「乾杯しましょうか」

 もう始業時間は過ぎている。

 窓から差し込んでいる柔らかな朝日。

 桜にはまだはやい、春待ちの三月。

 淡い淡い陽の光を受けて、ペットボトルの中で透明な水がきらきらと輝いている。
 そういえば「乾杯しましょ」って話をしてたっけ。
 それはささやかなご褒美、そして祝福に違いない。

 キャップを取って、女神様と乾杯!

 グラスを打ち合わせる音はしなかったけど。

 僕にはその涼やかな音が確かに聞こえたんだ――。
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