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第三話 力の形

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 前を歩く和也と陽に案内されながら進む道すがら静馬は思った以上に会話に花が咲く事に内心で楽しさを感じながら二人に話しかける

「そいや、二人はLinkはやってる?」

「勿論、何? 交換する?」

 笑いながら聞き返してくる和也と頷く陽に嬉しくて頷き返しながらスマートデバイスを取り出してLinkを起動、登録画面を出す。

「PLコードかフリック、どっちにする?」

 私はフリックやった事無いからやってみたいと言う陽に和也と二人で顔を見合わせてそれで良いかと頷いて登録を始める。

「へぇ、こんなんなんだ……」

「よし、交換できた」

 全員が無事に交換できた事を確認してスマートデバイスをしまう。

「にしても、やっぱ去年開校しただけあって綺麗だな」

 そう言って相変わらず周りを気にしている静馬に和也と陽の二人は笑いながら答える。

「そりゃな、逆に古びた感じとかだったら嫌だぜ」

「でも、新しい校舎でも稀に欠陥が有ったりするからね」

「いや、欠陥なんてそうそう無いだろ?」

 そう聞き返した和也にまたも笑いながら教えてくれた。
 なんでも知り合いの通ってる高校が校舎を新しく立て直したのに直ぐに雨漏りした事が有ったらしく、それだけならまだしも学生の悪戯で四階の手洗い場で溢れた水が床に浸み込んで二階まで被害が出たとか。
 勿論、学校側も依頼した業者に問い合わせをして確認してもらったり、修繕してもらったりと苦労したらしい。
 もっとも、生徒からしたら思わぬハプニングながら次はどこがという予想を立てたりと楽しんでいたとかいないとかと言っていた。
 因みに次の校舎トラブルは冬に雪が降ってまた雨漏り(?)が起きるんじゃないかというのが大方の予想になっているとの事。

「さ、流石にウチは去年一年通して使ってるからそんな事は無いと思うよ」
 
「それよりももう直ぐだよ!」

 そう言って陽が話を変えるように指差す先には目的の教室に入っていくクラスメイトの姿が見える。
 近づくほどに聞こえてくる話し声には期待と不安が入り混じっているのが分かる。

「やっと、手に入るんだな……」

「そうだね、楽しみだね!」

 待ちきれなくなった和也は今までより歩く速度を上げて教室に向かい、それに続くように笑顔を浮かべた陽、そんな二人の様子に笑みが零れながらも自分自身も楽しみになっている静馬が教室に入った。



 教室に入ると部屋の隅々に置かれた機械に向かって何かをしている白衣を着た職員たちとそれを見ながら立っている橘やクラスメイトの姿が視界に入ってくる。
 橘は職員たちと少し打ち合わせのように話しているが、教室に着いた生徒には何も指示を出していないのかクラスメイトはまだ移動してきた時と同じように個々が仲の良い友達同士で集まっているのが分かる。
 静馬たちが部屋に入ってから少し経つと打ち合わせが終わったのか、橘が振り向いて直ぐに学生番号順に並ぶよう指示を出す。
 騒ぎながらも並び直し、それを確認した橘は一度職員に目配せした後に話始めた。

「よし、全員いるわね」

「じゃあ、簡単に説明するけどこれからエヴォルオ・クリスタルの生成を行うわ」

 職員たちが慌ただしく動き始めた中で話す橘に静馬を含めた生徒全員が意識を向けようと思うも直ぐに職員たちに目が行ってしまう。
 そんな事に気が付いている橘は一度ため息をしてから手を叩き、何とか注目を集める事に成功して話を続ける。

「クリスタルは非常に貴重な物よ」

 だからこそという言葉と共に始まるクリスタルの取り扱いについての話。
 周りの反応が気になった静馬は話を聞きながらも軽く目線を周りに向ける。
 エスペランサーになりたいが為に高専に入った面々なだけに話もソコソコにこれからの事を考えてニヤついてる者や辺りが気になって仕方ないと言わんばかりに周りの様子を気にする者など話を聞いている者が少ない事が分かる。
 橘もそんな事は分かっているのだろう、一瞬だけ諦めの表情を見せてから締めくくるように言った。

「まぁ、長々と話したけど、どうこう悩むようならいつも身に着けて持ち歩くのが一番よ」

 忙しそうに動く職員たちを一度見てからもう少し待つように言って橘は静馬たちに背を向けて作業を見守る。
 それを見た生徒たちは近くにいる人とどんなのが生成されるかなどを話始める。
 着々と進められる準備の中、漸く準備を終えたのか一人の職員が橘に話しかけた。

「じゃあ、番号順にやっていくから、呼ばれたら前に来てここに手を置いて」

 振り返り待っていた生徒たちにそう言って橘の指した先にはちょうど機械の中心にあたる場所に手の置けるような場所が有り、そのまま流れを説明していく。

「その後は機械が起動してクリスタルを生成してその奥にクリスタルが現れるから、それを受け取ったらそっちの扉から隣の部屋に移動して指示に従いながらクリスタルを因牙武装に展開してみてね」

 次に手の向けられた方向には入ってきたのとは違う扉が有る。
 どこに繋がっているかは静馬には分からなかったが、話からすると因牙武装を展開して使っても問題ない部屋なのだろう。
 
「で、クリスタルを正常に展開出来たらまた教室に戻って待ってね」

「じゃあ、一番から順番に来て」

 橘のその声に待っていましたと言わんばかりにいそいそと一人目の生徒が機械に近づく。
 それに合わせて周りで準備していた職員たちも動いて、機械が起動してクリスタルが生成されていく。
 静馬はその姿を見ながらも番号順ながらも近くにいる和也と陽に声を掛けようと思ったが、二人とも既にクリスタルの事で頭が一杯なのか視線がずっと機械から逸れる事がない。
 クリスタルの生成に必要な時間は一人当たりでそこまで長くない為か一人、また一人とクリスタルを生成して隣の部屋に行く。
 そんな姿を見送っていた静馬は有る事に気が付く。
 クリスタルを喜んで手に持ち、隣の部屋へと足を進めるクラスメイトの中にクリスタルを複数持っている者、一つしか持っていない者や何やら色が付いているクリスタルを持っている者がいる事に。
 その事について静馬は不思議に思って授業か何かで知った事かどうか思い出そうと頭を捻るも思い当たる事は無く、気になりはしたが和也の順番が近づいた事に気が付いて意識がそっちに向く。
 目を輝かせながら前に向かって行く和也の姿に楽しみにしていたんだろうなと思い、更にあの様子だと終わった後にも絡んできそうだなと考えてしまう。
 そうしている内に和也はクリスタルの生成を終えて隣の部屋へと姿を消し、続いて視界の隅で陽が立ち上がったのに気が付いた。
 静馬が視線をそっちに向けると陽が前の生徒に続く形で歩いて行くのが見える。
 和也とは違って少しだけ落ち着いた様子が見て取れたので軽く手を振ってみると陽は気が付いてくれて嬉しそうにしながら前に向かった。
 そして、今までと同じようにクリスタルを手に隣の部屋へと消えていった陽の姿を確認しながら静馬は和也と陽の違いに目を向ける。
 見えた範囲ではどうやら和也はクリスタルが複数、陽は一つだけだが青白く色のクリスタルが生成されたようだ。
 他のクラスメイト人によって違いが有る事から何らかの意味が有るんだろうと思う静馬。
 そうした事を考えていると徐々に生徒の数が減り、自分の番が近づいている事に少しずつ静馬は緊張を覚えていく。
 そして、ついに静馬の番が周ってくる。
 編入という事も有って一番最後になったのか、既に周りには橘と慌ただしく動いていた職員の姿しかない。
 流石に同じような人間がいないと不安を覚えるが、それでもやっと手に入るという感情にそれすらも忘れてしまいそうになる。

「じゃ、最後ー」
 橘のその声に静馬は機械に近づいて手を置く。
 周りの職員の動きに合わせて機械が静かに起動、機械を通して何かが体の中を通る感覚を感じる。
 そして直後、静馬は中指に痛みを感じるが直に無くなるが分かった。
 手を置いて、そして痛みを感じてからどれくらいの時間がたっただろうか。
 未だに静かに振動する機械を見つめ続ける静馬はだんだん不安が脳裏に過ぎる。
 そして、漸く機械が停止、手を置いていた場所の少し奥が一部開き、中からクリスタルを乗せて上がってくるのが見えた。
 興奮を何とか押し殺しながら、震えそうになる手を無理やり動かして出てきたクリスタルを手に取る。
 瞬間、クリスタルを通してそこから溢れた何か身体中を駆け巡る感覚と共に自然と力が満ち溢れてくるような状態に陥る。
 
「あー、やっと今年も終わったー」

「お疲れー。じゃあ、軽く不具合が無いか確認し終えたら次を手伝いに行くぞ」

 その声に静馬は我に返り、振り返ると既に橘の姿はそこには無く、残っていた職員たちも機械をチェックしようと動いていて邪魔になりそうだった。
 このままではまずいと隣の部屋に移る事を思い出して、急いでそちら向かおうと動き出すと扉を開けている橘の姿が目に入る。
 どうやら監督役として立ち会うのであろう橘を追って静馬も隣の部屋へと足を進めた。



 静馬が隣の部屋に入るとそこは広い空間を何区画かに区切り、その一画一画に似たような機械が所狭しと置かれている場所だった。
 どうすれば良いのかも分からず、周りを見る静馬の視界には既に先に来ていたクラスメイトたちが担当だと思う職員とコンビを組んで、指示されるままにクリスタルを因牙武装に展開させて何かを調べているところだった。
 何人かが同じようにしている中、辺りを見渡している静馬に気づいたのだろう職員が一人、手が空いていたのか静馬に近づいて話しかけてきた。

「貴方が最後の生徒さんですね?」

 そう言って手に持った書類か何かを見て静馬に間違いない事を確認した職員は後を着いてくるように伝えて歩き出す。
 静馬もそれに続き、案内されながらも辺りを見てみると弓を構えている人や短い短剣を数本持っている人が見えた。
 結局、入り口から部屋の隅まで案内された静馬は歩きながら見た中に和也や陽がいない事に少し寂しさを覚えたが、そんな事を考えている場合じゃないと気持ちを変える為に軽く頭を振って職員の指示に従った。

「では、因牙武装の確認を行います」

 端末を片手に手に持った職員にクリスタルの確認をされながら静馬は指定された場所に立った。

「では、最初に展開をしてもらいます」

 展開と言われても静馬にはどうすれば良いのか分からなかった。
 勿論、職員もそんな事は想定内だったのだろうか直ぐに戸惑う静馬に声を掛けてくる。 

「手に持っているクリスタルに身体中から力を分け与えるイメージをしてください」

 クリスタルに力を分け与えるようにイメージ……、力を分け与えるイメージ。
 漠然としたイメージしか思い浮かばないまま、目を瞑りながらも何か思い浮かべやすいモノは無いかと考える。
 かすかに聞こえる職員からの声で胸の辺りか目に見えない何かを手を通してクリスタルに動いていく様に思い始める。
 すると目を閉じている筈なのにそれに反応したのかクリスタルがだんだんと光りだすのが目で見ているように鮮明にその光景が分かる。
 光が強くなるのに合わせるように身体から力がクリスタルに向けて動いている。
 静馬は何故かそんな風に感じる事が出来る事に驚きを感じるが同時に納得する。
 たぶん、これがエヴォルオ因子なんだと。
 そして、徐々に身体中だけではなく、この部屋にも因子が漂っている事もなんとなく感じる事が出来た。
 未だに光が強くなっていくクリスタルに合わせるように身体中だけではなく周りからも因子が集まるように、そしてクリスタルの周りを覆いつくして何かが形成されていく。
 それに合わせるように強かった光も徐々に弱まっていくのが感じ取れ、静馬は今まで瞑っていた目を開けた。

 一番最初に目に入ったのは鮮やかに装飾された鞘だった。
 柄頭にクリスタルが埋め込まれ、床から静馬の腰ぐらいまでの長さで鮮やかな鞘に収まっている刀がそこに存在していた。

「刀剣系で刀ですか」

 呆然としたままの静馬に気を留めず、手に持った端末に何かデータを入力しながら話す職員。
 
「では、その刀に意識を集中して貰って、思い浮かんだ言葉を教えて頂いてよろしいですか?」

「わ、わかりました」

 そう声を掛けられた事で我に返った静馬は慌てながらも刀に意識を向ける。
 恐らくそうした方がいいだろうと改めて目を瞑り、何もない暗闇の中で手に持った刀の重さに徐々に意識が向いていく。
 どれくらい時間が経ったか、暗闇の中に霞がかった感じで何かが頭の中に浮かんでくるが、しっかりと分かるほどではない。
 なんだろうと思いながらもその先を見ようと集中するが、嘲笑われていると思うぐらいに追いかければ追いかけるほど逃げていくように感じる。
 繰り返される状況に 意地になってどうにか何かを確かめようとした瞬間だった。 

嵐狐らんこ……?」

 余りの事に目を見開き、そう呟くと今まで霞がかっていたものがすっきりした。
 そして、それがこれの事だと刀に視線を向けながら理解する。

嵐狐らんこですか。では、こちらに来ていただいて次に鞘から抜いてください」

 刀に目を向けていた静馬に職員はそう声を掛け、端末から操作する事で静馬の立っていた場所から少し離れたところに一本の棒を用意する。
 そんな事をしり目に静馬は鞘から抜いて姿を現した刀身を眺め見惚れてしまう。
 だが、そんなに長い事していられる訳もなく、綺麗な刀身とそれから発せられるなんとも言えない雰囲気に飲まれないよう一つ深呼吸をする。

「では、的に向かって斬り掛かって下さい」

 静馬の様子を気にせず、端末を操作していた職員に促されるままに的の棒に向かって嵐狐を振るう。
 初めて持つ因牙武装に普通なら戸惑ってしまう筈なのに静馬は何も思わずすんなりと振るえた事に驚きを覚えながらも、心の何処かで何を驚いているのか分からないと感じてしまう。
 途中で刀身が止まる事も無く、すんなり的を真っ二つにした切れ味に流石に因牙武装なだけはあるなと思う静馬。
 転がる切れた的の破片に目を向けながら、その結果徐々に湧き上がってくる嬉しさを噛み締めながら手に持った嵐狐を見つめ、自然と顔がにやけそうになるのを堪える。
 データを入力しているであろう職員の指示が出るまで軽く嵐狐を振るい、感触を確かめていると準備が整ったのか的が新しい物に切り替わる。
 そして、合わせるように職員から飛んでくる指示に従って静馬は動き、どんどんと工程を進めていく。
 周りにいたクラスメイトも徐々に減っていく中、職員からの言葉が終わりを告げる。
  
「……注入後の変化有りと。では、これで確認は終了しましたのでクリスタルに戻すイメージをしてください」

 言われるがままに行動する静馬を確認した職員は端末の操作を終えて静馬に話しかけた。

「ありがとうございました。教室へ戻っていただいて大丈夫です」



 静馬は辺りを見回すも先ほどと同じように残っているのは職員だけの状況。
 監督役だった橘も既に移動してしまったのか姿を見つける事が出来ない。
 慌ただしく動く職員たちをしり目に教室に戻る為に静馬は部屋を出るが、元々終わった時点でクラスメイトの姿が見受けられない状況だった為に廊下にも人影がなかった。
 行きの道順を思い出しながらも歩き出す静馬だったが、少し先に佇む二つの人影を見つける。
 どうやら和也と陽が待っていてくれたようで二人が話しているのが静馬にも分かった。
 そして、近づく静馬に気が付いた和也たちが声を掛けてきた。

「おっ、やっと来たか」

「待ってたよ。どうだった?」

 そんな言葉にポケットに入れたクリスタルの感触を確かめながら静馬は答える。

「ん、いい感じのモノだったよ」

 立ち止まったままもまずいので教室に戻る事を提案しながら歩き出した静馬に続くように二人も歩き、お互いに因牙武装について話始めた。

「そう言う二人はどうだった?」

「「こっちもだよ」

 嬉しそうに答える二人の姿に顔を見合わせながらも笑いあう。
 やっぱりみんな同じだったと笑いながら言う陽とからかう様に話しかけてくる和也に静馬はちょっと顔を逸らしながら言う。

「なんかこう、手に持ってみるとね」

 恥ずかしすぎる状況にどうしても照れてしまうが、何とか誤魔化そうと四苦八苦するも静馬は二人と話を続けて教室まで戻った。
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