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第九話 海と空と女難
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窓の外でさんさんと光り輝く太陽と青い空、光を反射して雄大に広がる海が今の気持ちをいい方向へと導いていく。
走るバスの中で盛り上がる一角も有れば我関せずと過ごす人もいる。目指すは海に面し、山に囲まれた平地に建っている学院の所有する大型宿泊施設で校外学習を行う場所だ。
既に国の管理下に置かれてはいるが自然発生した迷宮が存在していて、研究と高専の生徒たちが潜れるようにされている。
未攻略ながら管理下に置かれている為、そこまでの危険性は無いらしいが去年ははしゃぎ過ぎた生徒の数人がケガをした為に全生徒に対して注意が有った。ただ、現在確認されている迷宮の中でも少し特殊な構造をしている為に余程の事が無ければそんな事は起きないらしい。
また、それとは別に教師同士の模擬戦も企画されているので迷宮よりもそっちを楽しみにしている生徒も多かった。
少し前に行われた覚悟を決める為の初体験が全生徒に与えた影響は大きかったが、それでも立ち止まる事を許されていない事も有って徐々に立ち直っていった。
そうして、今は上級の簡易迷宮にすら意気揚々と潜っていけるようになった中での今回の校外学習は学校側が考えていたよりも生徒たちにとっては良い気晴らしになったようだ。
「どうしたの? 」
「いや、ちょっと思い出しただけ」
隣に座っていた陽に声を掛けられて静馬は我に返って陽に返したが未だにあの時の事を、感触を思い出してしまう事に苦笑してしまう。
「あぁ、その顔からすると橘先生と訓練をした時の事かな? 」
ニヤニヤ顔で聞いてくる陽に静馬は嫌な事を思い出したと今までとは違う苦い顔で陽を見つめると陽自身もその時に自分も味わった事思い出したようでニヤニヤ顔から顔を曇らせる。
まぁ、そうだろうなと静馬は思いながらもこの微妙な雰囲気になってしまったのをどうにかしようとからかう様に話しかけた。
「あれはもうやりたくないってか、あの時は逃げたのは酷いぞ」
「終わった後に誤ったじゃん。そろそろ許してよ」
それにと続ける陽の表情がやっとマシな物へと変わり、今までの雰囲気が嘘のように話が弾みだす。
「確かにそうだけどさー。俺、その後に追加来たし」
「あ、いや、それは和也君が……」
拗ねたようにいう静馬に焦ったのか陽が意味有り気に和也の名前を呟く。
その事に気が付いた静馬は首を傾げながらその事について聞こうと陽に話しかけようとするとまるで誤魔化すかのように後ろに座っていた和也が身を乗り出しながら話しかけてくる。
「おいおい、そんな過去の話は止めようぜ」
焦っているのか口早に話しかけてくる和也に一層の疑問を持ちながらも静馬は和也の言葉と何か訴えかけてくるような目の陽に話を変える事にした。
「そんなんより静真は自由時間は何やるつもりなんだ? 」
聞いてくる和也に静馬はたぶん着いた直後に有る自由時間だよなと思いながらもそのスケジュールを思い出して設けられた時間がそこまで長くなかった事から既に決めていた事を話す。
「ん~、これと言って考えてないけど、部屋でまったりしてると思うよ」
その言葉には聞いてきた和也だけではなく、陽も驚きの表情を浮かべながら静馬を見ていた。
確か、海に入れるとは聞いていたし、冊子には書いてあった事を思い出した静馬だったが、あまり泳いだりするのが好きではない事を伝えるがそれでも二人の様子は変わる事は無い。
「はぁ? 折角、海に来てるんだから泳ぐとかって選択肢は無いのかよ」
「そうだよ。もったいないよ」
既に二人は着いた後の事を考えているのか笑みを浮かべながら静馬に考え直すことを進めてくる。
「いや、そんな事言われても泳ぎたいと思わないし」
「もしかして、水着も持って来てないって事は」
「流石に持って来てはいる」
ハっとした顔になった後に真剣な顔をして聞いてくる和也と心配そうな顔をしている陽に静馬はちょっと引きながら答えるが、余計に二人が声を上げて説得しようとする。
流石にうるさくなってきたのか、和也の隣に座っていた神崎が寝ていたのか寝ぼけた様子で少し文句を言ってくるが騒がしくしている二人は見事に無視をして、静馬だけが謝る羽目になった。
「なら、泳ごうぜ」
相も変わらずマイペースな和也は既に決まった事のようにそう言っていたが、相手にするのが面倒になってしまった静馬は少し笑いながら相槌を打って窓の外を見る事にした。
だんだんと男の妄想が混じり始めた和也の話を聞き流しながら窓から見える空と海のコントラストで目と心を癒す静馬。
「やっぱり泳ぐのとか嫌いなの? 」
そんな陽の声に横を向くと心配そうな顔をしながらも若干和也から離れている陽の姿。
どうやら陽は静馬が和也や自分の話で期限を損ねているように思っているようだった。そんな勘違いした陽の姿に静馬は少し笑いながらもそれを解消するように話しかけた。
「嫌って訳じゃないよ」
「でも、そんな風には見えないから」
「いや、久しぶりに海に入るから」
思い出すだけでも小学校の時以来じゃないかなと話す静馬の姿に安心したのか、陽は一つ安心したようにため息をついて笑いかける。
「そうなんだ。良かった」
そして、相も変わらずに一人空回りするように力説し続ける和也に少し怒りながら話しかけた陽に便乗して静馬も一瞬だけ脳裏に過ぎった何か思い出したくない過去の記憶から逃げるように意識を向ける。
「しっかし、和也は本当に嬉しそうだな」
「嬉しそうっていうか五月蠅いだけだよ!」
「何言ってんだよ!これからの事を考えると少しはしゃぎたくなるもんだろ!!」
可笑しいほどハイテンションな和也は静馬の呟いた言葉が聞こえていたのか、瞬時に反応して陽の視線や神崎の蔑んだような視線に気が付かずに静馬に話しかけてくる。
「それに考えてみろ、海だぞ海!ここまで来て泳がないって考えが俺には考えられないぞ!!」
「ふーん、なんかそれだけでは無さそうな気がするけどね」
もう何を言っても無理と判断したのか、和也の話に合わせながらも陽は何か思い当たる節が有るのかジト目で和也の事を見つめる。勿論、静馬も何となく言いたい事は分かっているので同じような目で和也を見つめる。
その二つの視線に気が付いた和也は冷や汗を掻きながらどうにか誤魔化そうと話を逸らしだすが、直ぐに二人によって元に戻されてしまう。
また、和也の隣に座っている神崎までもがそれに混じってきた為に既に逃げ場も残されておらず、徐々に口ごもっていく。
そして、遂に何も言えなくなったかと言うタイミングで急に和也の表情が一気に明るくなった。
「そ、それよりそろそろ着くみたいだぞ」
「はーい、そろそろ着くから皆降りる準備してね」
丸で和也は逃げ切ったというような安堵の表情で言うのに合わせてバスは左へと曲がり、正面に今回の校外学習で使われるだろう宿泊施設が見えてくる。
すると橘が事前に準備するように静馬たち生徒全員に聞こえるように声を掛け、その言葉の数分後にバスは停車し、各自が忘れ物をしていないかを確認して次々とバスから降りていく中で和也はは我先にという感じに逃げるように降りていき、その姿に静馬や陽たちは笑いながら後に続いた。
「へぇ、結構いい感じの所に泊まるんだな」
バスを降りた静馬の耳に飛び込んできたのはそんな和也の声と小綺麗な外見をした宿泊施設の姿だった。
まだ後ろに陽や何人かのクラスメイトがいる為、そそくさと少し移動した後に一瞬だけ和也の方を見てみると宿泊施設とその周りをキョロキョロと見ているのが静馬には見えた。
「はいはーい、見てるのも良いけど皆一回こっちに整列してね」
橘の声に導かれるように移動して一度クラス毎に並びなおした静馬たちの前で生徒全員がいる事を確認した橘たち教師陣によって簡単なこの後のスケジュールの確認が終わった時に宿泊施設の方から女性が一人此方に向かって歩いて来たのが静馬の目に入る。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「どうも、今年もよろしくお願いします」
「お部屋の準備は済んでおりますのでお入りください」
「ありがとうございます」
どうやらこの施設を管理している関係者の代表らしく、橘たちと軽く話した後に短く切り揃えた髪を揺らしながら一礼してから生徒たち全員を見渡してまた施設の方に戻っていく。
その短時間とはいえ、モデルと言っても通じるほどの外見をしていた代表さんの凛々しい姿に男女関係なく一部の生徒が見惚れ騒ぎ始めていた。
そして、そんな生徒たちの騒ぎを治める為に手を叩きながら話すことで注目を集めた橘が生徒たちに向かって話始める。
「それじゃあ、みんな冊子に書いてある通りの部屋分けだから順番に各部屋の代表がカウンターでカギを思ったら部屋に行って良いわ。その後に関してだけど、着替えて海に集合よ」
「「「はーい」」」
その声と共に生徒たちが自分たちのグループに分かれ、クラス毎に順番に施設の中に入っていく。
「静真! こっち来いよ」
その声に静馬が視線を向けると和也が手を振りながら呼んでいるのが見えた。既に同じグループのメンバーは和也の周りに集まっているようで自分が一番最後になってしまった事を謝りながら合流する為に静馬は和也の元へと向かった。
「誰が鍵貰いに行く?」
何かを期待するように和也はそう言って静馬や同室のメンバーのクラス一のめんどくさがり屋な金村信二と無関心を貫いている聖真に聞いてくる。そんな和也に静馬を除いた二人はいつものようにメンドイや興味ないと返したので自然と和也の視線が静馬へと向く。
「パスかなー」
「……、良し!なら、俺が貰ってくるな!!」
少し悩んだ静馬だったが妙に真剣な目で見つめてくる和也の異様さに押されて自分が代表になるのは辞める。するとその反応が余程嬉しかったのか小さくガッツポーズして笑顔でカウンターに向かった。
「「よろしくー」」
「……、まるで犬みたいだな」
素早い和也の動きにその背中を見送る三人だったが、静馬が和也の行動からボソッと呟いた一言が二人にはツボだったようで噴き出し笑い始めた。
そんな笑い始めた二人と話ながら和也を待っているとさっさとカギを貰ってくる生徒が多かったのか、回りに残っている人の数がどんどんと減っていく。
「なぁ、なんで和也は遅いんだ?」
「さぁ?」
「知らなーい」
直ぐに戻ってくると思っていた和也が戻ってこない事を疑問に思った静馬が二人に聞いてみるが相も変わらずの反応で予想していたとため息をついてカウンターを見てみる。するとそこには先ほど見かけた代表さんに何かと話しかけている和也の姿が在った。
どうやら和也も見惚れていた生徒の一人だったらしく、どうにかして仲良くなれないかと頑張っているようだったが、その姿に静馬たち三人は軽く怒りを覚えた。
どうも直ぐには戻ってくる事が無さそうな姿の和也に静馬たち三人は顔を見合わせて頷いた後、和也の分も含めた荷物を手に取って立ち上がる。
少しずつ近づいて行っても背を向けているからかまったく気が付かない和也に三人に気が付いた代表さんは何か感じ取ったのか、少しずつ和也から愛想笑いをしながら離れようとする。
そして、三人が和也の真後ろに立っても当の本人が全く気が付かず、無理やり話を終らせるために他の二人が視線でやれと静馬に合図を送り、静馬は和也の頭を後ろから殴る。
「痛ってー」
「ほう、そうか。それは良かった」
頭を押さえてしゃがみ込んだ和也の相手をし始めた金村を静馬は見ながら、視界の縁でこれ幸いと仕事へと向かう代表さんを見送って聖と協力しながら和也が逃げれないように三人で取り囲む。
「えっ、信二?それに二人ともどうしてそんなに笑顔なんだ……?」
和也は今の状況が未だに理解できないようで痛む頭を押さえならがら三人の顔を見まわしている。だが、三人は何も言わずに微笑むだけ。
漸く思い当たる何かが分かったのか引き攣った笑みを見せ、和也は助けを求めるように周りを見渡すが生憎と他のクラスメイト達は既に自分たちの部屋向かった後か我関せずと無視を決め込んでいた。
「そんなにキョロキョロしなくて良いからさ」
「鍵貰ってんなら、早く部屋に逝こうぜ」
そんな金村と聖の言葉に顔を真っ青に染めて謝り始めた和也を無視するように二人は和也の両腕を掴み、静馬はそんな和也の荷物とカウンターに置かれているカギを手に持って先導するようにエレベーターに向かって歩き始めた。
「な、なぁ、さっきの逝こうって」
「気にすんなって」
「そうそう、全部部屋についてから聞いてやるから」
腕を掴まれ、連行され始めた和也は聞き間違いを期待して両サイドの二人に聞くが二人は間違いじゃないという様に部屋に行く事しか話さない。
そして、そんなやり取りが背後から聞こえてくる事に静馬は笑いを堪えながら進み、そんな四人を橘は笑って、僅かに残っていたクラスメイト達は合掌して見送った。
走るバスの中で盛り上がる一角も有れば我関せずと過ごす人もいる。目指すは海に面し、山に囲まれた平地に建っている学院の所有する大型宿泊施設で校外学習を行う場所だ。
既に国の管理下に置かれてはいるが自然発生した迷宮が存在していて、研究と高専の生徒たちが潜れるようにされている。
未攻略ながら管理下に置かれている為、そこまでの危険性は無いらしいが去年ははしゃぎ過ぎた生徒の数人がケガをした為に全生徒に対して注意が有った。ただ、現在確認されている迷宮の中でも少し特殊な構造をしている為に余程の事が無ければそんな事は起きないらしい。
また、それとは別に教師同士の模擬戦も企画されているので迷宮よりもそっちを楽しみにしている生徒も多かった。
少し前に行われた覚悟を決める為の初体験が全生徒に与えた影響は大きかったが、それでも立ち止まる事を許されていない事も有って徐々に立ち直っていった。
そうして、今は上級の簡易迷宮にすら意気揚々と潜っていけるようになった中での今回の校外学習は学校側が考えていたよりも生徒たちにとっては良い気晴らしになったようだ。
「どうしたの? 」
「いや、ちょっと思い出しただけ」
隣に座っていた陽に声を掛けられて静馬は我に返って陽に返したが未だにあの時の事を、感触を思い出してしまう事に苦笑してしまう。
「あぁ、その顔からすると橘先生と訓練をした時の事かな? 」
ニヤニヤ顔で聞いてくる陽に静馬は嫌な事を思い出したと今までとは違う苦い顔で陽を見つめると陽自身もその時に自分も味わった事思い出したようでニヤニヤ顔から顔を曇らせる。
まぁ、そうだろうなと静馬は思いながらもこの微妙な雰囲気になってしまったのをどうにかしようとからかう様に話しかけた。
「あれはもうやりたくないってか、あの時は逃げたのは酷いぞ」
「終わった後に誤ったじゃん。そろそろ許してよ」
それにと続ける陽の表情がやっとマシな物へと変わり、今までの雰囲気が嘘のように話が弾みだす。
「確かにそうだけどさー。俺、その後に追加来たし」
「あ、いや、それは和也君が……」
拗ねたようにいう静馬に焦ったのか陽が意味有り気に和也の名前を呟く。
その事に気が付いた静馬は首を傾げながらその事について聞こうと陽に話しかけようとするとまるで誤魔化すかのように後ろに座っていた和也が身を乗り出しながら話しかけてくる。
「おいおい、そんな過去の話は止めようぜ」
焦っているのか口早に話しかけてくる和也に一層の疑問を持ちながらも静馬は和也の言葉と何か訴えかけてくるような目の陽に話を変える事にした。
「そんなんより静真は自由時間は何やるつもりなんだ? 」
聞いてくる和也に静馬はたぶん着いた直後に有る自由時間だよなと思いながらもそのスケジュールを思い出して設けられた時間がそこまで長くなかった事から既に決めていた事を話す。
「ん~、これと言って考えてないけど、部屋でまったりしてると思うよ」
その言葉には聞いてきた和也だけではなく、陽も驚きの表情を浮かべながら静馬を見ていた。
確か、海に入れるとは聞いていたし、冊子には書いてあった事を思い出した静馬だったが、あまり泳いだりするのが好きではない事を伝えるがそれでも二人の様子は変わる事は無い。
「はぁ? 折角、海に来てるんだから泳ぐとかって選択肢は無いのかよ」
「そうだよ。もったいないよ」
既に二人は着いた後の事を考えているのか笑みを浮かべながら静馬に考え直すことを進めてくる。
「いや、そんな事言われても泳ぎたいと思わないし」
「もしかして、水着も持って来てないって事は」
「流石に持って来てはいる」
ハっとした顔になった後に真剣な顔をして聞いてくる和也と心配そうな顔をしている陽に静馬はちょっと引きながら答えるが、余計に二人が声を上げて説得しようとする。
流石にうるさくなってきたのか、和也の隣に座っていた神崎が寝ていたのか寝ぼけた様子で少し文句を言ってくるが騒がしくしている二人は見事に無視をして、静馬だけが謝る羽目になった。
「なら、泳ごうぜ」
相も変わらずマイペースな和也は既に決まった事のようにそう言っていたが、相手にするのが面倒になってしまった静馬は少し笑いながら相槌を打って窓の外を見る事にした。
だんだんと男の妄想が混じり始めた和也の話を聞き流しながら窓から見える空と海のコントラストで目と心を癒す静馬。
「やっぱり泳ぐのとか嫌いなの? 」
そんな陽の声に横を向くと心配そうな顔をしながらも若干和也から離れている陽の姿。
どうやら陽は静馬が和也や自分の話で期限を損ねているように思っているようだった。そんな勘違いした陽の姿に静馬は少し笑いながらもそれを解消するように話しかけた。
「嫌って訳じゃないよ」
「でも、そんな風には見えないから」
「いや、久しぶりに海に入るから」
思い出すだけでも小学校の時以来じゃないかなと話す静馬の姿に安心したのか、陽は一つ安心したようにため息をついて笑いかける。
「そうなんだ。良かった」
そして、相も変わらずに一人空回りするように力説し続ける和也に少し怒りながら話しかけた陽に便乗して静馬も一瞬だけ脳裏に過ぎった何か思い出したくない過去の記憶から逃げるように意識を向ける。
「しっかし、和也は本当に嬉しそうだな」
「嬉しそうっていうか五月蠅いだけだよ!」
「何言ってんだよ!これからの事を考えると少しはしゃぎたくなるもんだろ!!」
可笑しいほどハイテンションな和也は静馬の呟いた言葉が聞こえていたのか、瞬時に反応して陽の視線や神崎の蔑んだような視線に気が付かずに静馬に話しかけてくる。
「それに考えてみろ、海だぞ海!ここまで来て泳がないって考えが俺には考えられないぞ!!」
「ふーん、なんかそれだけでは無さそうな気がするけどね」
もう何を言っても無理と判断したのか、和也の話に合わせながらも陽は何か思い当たる節が有るのかジト目で和也の事を見つめる。勿論、静馬も何となく言いたい事は分かっているので同じような目で和也を見つめる。
その二つの視線に気が付いた和也は冷や汗を掻きながらどうにか誤魔化そうと話を逸らしだすが、直ぐに二人によって元に戻されてしまう。
また、和也の隣に座っている神崎までもがそれに混じってきた為に既に逃げ場も残されておらず、徐々に口ごもっていく。
そして、遂に何も言えなくなったかと言うタイミングで急に和也の表情が一気に明るくなった。
「そ、それよりそろそろ着くみたいだぞ」
「はーい、そろそろ着くから皆降りる準備してね」
丸で和也は逃げ切ったというような安堵の表情で言うのに合わせてバスは左へと曲がり、正面に今回の校外学習で使われるだろう宿泊施設が見えてくる。
すると橘が事前に準備するように静馬たち生徒全員に聞こえるように声を掛け、その言葉の数分後にバスは停車し、各自が忘れ物をしていないかを確認して次々とバスから降りていく中で和也はは我先にという感じに逃げるように降りていき、その姿に静馬や陽たちは笑いながら後に続いた。
「へぇ、結構いい感じの所に泊まるんだな」
バスを降りた静馬の耳に飛び込んできたのはそんな和也の声と小綺麗な外見をした宿泊施設の姿だった。
まだ後ろに陽や何人かのクラスメイトがいる為、そそくさと少し移動した後に一瞬だけ和也の方を見てみると宿泊施設とその周りをキョロキョロと見ているのが静馬には見えた。
「はいはーい、見てるのも良いけど皆一回こっちに整列してね」
橘の声に導かれるように移動して一度クラス毎に並びなおした静馬たちの前で生徒全員がいる事を確認した橘たち教師陣によって簡単なこの後のスケジュールの確認が終わった時に宿泊施設の方から女性が一人此方に向かって歩いて来たのが静馬の目に入る。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「どうも、今年もよろしくお願いします」
「お部屋の準備は済んでおりますのでお入りください」
「ありがとうございます」
どうやらこの施設を管理している関係者の代表らしく、橘たちと軽く話した後に短く切り揃えた髪を揺らしながら一礼してから生徒たち全員を見渡してまた施設の方に戻っていく。
その短時間とはいえ、モデルと言っても通じるほどの外見をしていた代表さんの凛々しい姿に男女関係なく一部の生徒が見惚れ騒ぎ始めていた。
そして、そんな生徒たちの騒ぎを治める為に手を叩きながら話すことで注目を集めた橘が生徒たちに向かって話始める。
「それじゃあ、みんな冊子に書いてある通りの部屋分けだから順番に各部屋の代表がカウンターでカギを思ったら部屋に行って良いわ。その後に関してだけど、着替えて海に集合よ」
「「「はーい」」」
その声と共に生徒たちが自分たちのグループに分かれ、クラス毎に順番に施設の中に入っていく。
「静真! こっち来いよ」
その声に静馬が視線を向けると和也が手を振りながら呼んでいるのが見えた。既に同じグループのメンバーは和也の周りに集まっているようで自分が一番最後になってしまった事を謝りながら合流する為に静馬は和也の元へと向かった。
「誰が鍵貰いに行く?」
何かを期待するように和也はそう言って静馬や同室のメンバーのクラス一のめんどくさがり屋な金村信二と無関心を貫いている聖真に聞いてくる。そんな和也に静馬を除いた二人はいつものようにメンドイや興味ないと返したので自然と和也の視線が静馬へと向く。
「パスかなー」
「……、良し!なら、俺が貰ってくるな!!」
少し悩んだ静馬だったが妙に真剣な目で見つめてくる和也の異様さに押されて自分が代表になるのは辞める。するとその反応が余程嬉しかったのか小さくガッツポーズして笑顔でカウンターに向かった。
「「よろしくー」」
「……、まるで犬みたいだな」
素早い和也の動きにその背中を見送る三人だったが、静馬が和也の行動からボソッと呟いた一言が二人にはツボだったようで噴き出し笑い始めた。
そんな笑い始めた二人と話ながら和也を待っているとさっさとカギを貰ってくる生徒が多かったのか、回りに残っている人の数がどんどんと減っていく。
「なぁ、なんで和也は遅いんだ?」
「さぁ?」
「知らなーい」
直ぐに戻ってくると思っていた和也が戻ってこない事を疑問に思った静馬が二人に聞いてみるが相も変わらずの反応で予想していたとため息をついてカウンターを見てみる。するとそこには先ほど見かけた代表さんに何かと話しかけている和也の姿が在った。
どうやら和也も見惚れていた生徒の一人だったらしく、どうにかして仲良くなれないかと頑張っているようだったが、その姿に静馬たち三人は軽く怒りを覚えた。
どうも直ぐには戻ってくる事が無さそうな姿の和也に静馬たち三人は顔を見合わせて頷いた後、和也の分も含めた荷物を手に取って立ち上がる。
少しずつ近づいて行っても背を向けているからかまったく気が付かない和也に三人に気が付いた代表さんは何か感じ取ったのか、少しずつ和也から愛想笑いをしながら離れようとする。
そして、三人が和也の真後ろに立っても当の本人が全く気が付かず、無理やり話を終らせるために他の二人が視線でやれと静馬に合図を送り、静馬は和也の頭を後ろから殴る。
「痛ってー」
「ほう、そうか。それは良かった」
頭を押さえてしゃがみ込んだ和也の相手をし始めた金村を静馬は見ながら、視界の縁でこれ幸いと仕事へと向かう代表さんを見送って聖と協力しながら和也が逃げれないように三人で取り囲む。
「えっ、信二?それに二人ともどうしてそんなに笑顔なんだ……?」
和也は今の状況が未だに理解できないようで痛む頭を押さえならがら三人の顔を見まわしている。だが、三人は何も言わずに微笑むだけ。
漸く思い当たる何かが分かったのか引き攣った笑みを見せ、和也は助けを求めるように周りを見渡すが生憎と他のクラスメイト達は既に自分たちの部屋向かった後か我関せずと無視を決め込んでいた。
「そんなにキョロキョロしなくて良いからさ」
「鍵貰ってんなら、早く部屋に逝こうぜ」
そんな金村と聖の言葉に顔を真っ青に染めて謝り始めた和也を無視するように二人は和也の両腕を掴み、静馬はそんな和也の荷物とカウンターに置かれているカギを手に持って先導するようにエレベーターに向かって歩き始めた。
「な、なぁ、さっきの逝こうって」
「気にすんなって」
「そうそう、全部部屋についてから聞いてやるから」
腕を掴まれ、連行され始めた和也は聞き間違いを期待して両サイドの二人に聞くが二人は間違いじゃないという様に部屋に行く事しか話さない。
そして、そんなやり取りが背後から聞こえてくる事に静馬は笑いを堪えながら進み、そんな四人を橘は笑って、僅かに残っていたクラスメイト達は合掌して見送った。
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