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第十五話 最深部

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 それから暫くは変わらない風景の中をEVEに襲われる事無く、進み続ける事が出来た静馬たち。
 そして、またたどり着く分かれ道にまたどの道を選ぶかを悩むことになる。

「また、分かれ道だな」

「どうする?」

「今度は四つだけど、後で分かり易くするために一番左で良いじゃない」

 念のためにと今まで陽が書いたマップも見せてもらってどういう方向に進んでいるのかを確認した静馬たちはそのまま話し合う。

「見たところどんどん広がって言ってるようだけど、そんなに広いのか?」

「わかんない。ただ、このままだとだいぶ彷徨う事になりそうだけどね」

「じゃあ、左に行くの止める?」

 和也が迷宮について聖に聞くが知らない為に予想を答える。
 そして、陽も不安なのか全員の顔を見ながらどうするかを聞いてきた。
 少し悩んだ静馬だったが、今更、道を変えたら後でめんどくさい事になると考えてそれを皆に伝えた。

「左で良いと思うよ。先の事を考えると毎回変えていく方が大変になっていくし」

「そう? ならいいけど」

 じゃあ、行くかと左の道に歩き出した静馬たちの頭上から一匹のラトが降ってきた。
 余りに突然の事に驚いた静馬たちだったが直ぐに天井とそのラトに注意を払う。
 降ってきたラトは着地に失敗したのか暫くはそのまま動かず、死んだように地に伏せていたが静馬たちが因牙武装を展開して警戒し始めるころには痛みが引いたのか警戒するような姿勢と声を上げ始める。

「おいおい、なんで上から降ってくるんだよ」

「穴っぽいのは無さそうなんだけどな」

 そんな事を言いながらもラトから目を離さない静馬と和也の二人。
 ラトとにらみ合いが始まるかと思ったその時、またも天井からラトが数匹落ちてくる。

「「きゃー、やだ」」

 全員が目の前のラトに意識を向けてしまっていた為にちょうど目の前に落ちたラトに驚き、しゃがみ込んでしまう陽と久本。
 その声が合図になったのか目の前にいたラトが静馬を目標に飛び掛かる。
 後ろにはしゃがみ込んだ陽がいることも有って嵐狐で斬り払おうと振るうが静馬は先ほどの陽たちの声に驚いて一瞬だけラトの動きを見逃してしまった為に嵐狐がラトを捉えれなかった。
 無防備になった静馬に襲い掛かるラトだったがその動きは横からの攻撃で防がれる。
 吹き飛び、壁にぶつかり息絶えるラトの姿に静馬が横を見ると盾を持った左手を伸ばした和也の姿が有った。
 どうやら、静馬の様子に和也がギリギリの所でラトに攻撃してくれたらしい。そして、そんな和也は静馬の視線に気が付いたのか笑みを見せると直ぐに右手に持った片手剣で後ろを指さす。

「惚けてる場合じゃないぞ!」

「あぁ、そうだな!」

 後ろでしゃがみ込んだ女子二人を守りながらも五匹のラトと戦う金村と聖。
 どうやら、後から降ってきたラトは全部がしゃがみ込んでしまった陽と久本の姿に襲いやすい獲物と判断したのか前にいた静馬たちを無視して襲い掛かったようだった。
 未だにしゃがみ込んだままの陽たちを庇いながら戦うのは金村も聖も厳しいのか防戦一方になっているのが分かる。
 静馬は一番近くにいた一匹に斬りかかろうとするが、タイミング良く金村の持つ槍状の因牙武装で吹き飛ばされてきたラトがそんな静馬の姿を見て鳴き声を上げ、その声を聴いて静馬に気が付いたのか斬られそうになっていた一匹は振り返りもせずに静馬の攻撃を避ける。

「ちっ、和也」

「おうよ!」

 その声に反応するように和也が飛んできたラトに片手剣を叩きつけて息の根を止め、更に前にいたラトにも斬りかかる。
 静馬も遅れてはならないと残りのラトに狙って動くが、既に金村や聖によって倒されたのか残るは一匹となっていた。そして、ようやく陽たちも落ち着いたようで立ち上がりながら辺りの様子を窺っていた。
 残った一匹は既に仲間たちがやられた事で逃げようとしているのか積極的に襲い掛かる事は無く、次第に壁際に追い込まれていく。
 そして、斬りかかろうとした和也の持っていた盾を踏み台にするように飛び掛かり、そのまま和也を飛び越えて静馬たちから逃げようとしたが、聖の因牙武装である八つの玉の一つが狙いすましたように当たり、そのまま地面に撃ち落されて息途絶えた。

「焦った……」

「ホントだよ」

 周りにEVEが残っていない事を確認した金村と聖は直ぐにそんな声を上げた。
 それはそうだろう。天井を確認した上で一匹だと思っていたラトがまた降ってきて陽と久本が驚きと恐怖で戦えなくなってしまったのだから。勿論、陽と久本は戦い終わると直ぐに金村と聖に謝っていた。

「本当にごめんね」

「ごめんなさい……」

「いいよ。あれは仕方ないよ」

「そうそう、それよりも先に進もうか」

 必死に謝っている二人の姿に心苦しくなってきたのか先に進む事を提案する聖に謝っていた二人も渋々と言った感じで謝るのを止めた。
 改めて歩き始めた静馬たちの耳に大きく響く音が飛び込んでくる。
 恐らく音的には少し前に聞こえてきた声のような物とは違う何か固い物を地面に勢いよく叩きつけたような音だろう。

「なぁ、今の音ってたぶん武司だよな?」

「だろうな。アイツのハンマーじゃなきゃ無理だろ」

「でも、大丈夫なのかな?」

「何が?」

「だって、衝撃でどっか崩れるかもしれないじゃん」

 静馬たちは陽の言葉につい天井や壁を見てしまう。
 元がトンネルだっただけ有ってしっかりと造られている為にぱっと見ではどこが脆いとかは素人目には分からなかったが、そういう危険が有ってもおかしくない。
 今でこそないが構造によっては過去に老朽化から天井の一部が崩落する事故が起きた事が有るだけに一瞬考えてしまうとつい気になってしまう。

「た、たぶん、大丈夫だよ」

「そうそう、それよりも早く進もうぜ」

 ちょっとだけ自信なさげにいう久本の言葉に和也も先に進む事でそういった事を考えない様にしようとしているのか急かしてくる。
 再び歩き出した静馬たちの目の前に音に驚いたのか飛び出してきたラトの姿が見える。
 どうやら、音の方に意識を向けているようで静馬たちに気が付いた様子は無い。
 その姿に因牙武装を展開した静馬だったが、直ぐに久本がさっきの事を気にしているのか倒したいと言ってくる。

「ねぇ、私、因牙武装が弓だからやらせてくれない?」

「あぁ、いいけど」

 そうして、前に出た久本は展開した因牙武装を構えてラトに狙いをつける。
 未だに静馬たちの事に気が付かないラトは静馬たちに背を向けて耳を立てて音を聞こうとしているたが、久本はその無防備な背中に矢を放った。
 響くラトの悲鳴に一瞬だけ顔を顰めた久本だったが、直ぐにその姿を黒い霧に変えたラトに一つ頷くと静馬たちに振り返った。

「じゃあ、行きましょ」

「だな。そろそろ他の連中と会いたいな」

 再び歩き出した静馬たちの話題は音の事も有って先を進んでいる筈のクラスメイトたちの事になっていく。
 迷宮に入ってからそこそこの時間が経っている事も有って追いつきたい一心の和也にしてみれば今まで会っていない事が不思議のようだ。

「音の事も有るし、追いついてきてるとは思うよ」

「そうだな。この道も先に通っている奴がいるのか、偶に気になる跡があるし」

「ん、分かるのか?」

「恐らくだけどね」

 そう言っている内にまたも分かれ道にたどり着いた静馬たちの耳に何か話声が聞こえてきた。
 息を潜めるように黙り込んだ静馬たちは顔を見合わせながらも声のする方を探る。
 徐々に近づいてくる声が聞こえてくるのは三方向に分かれた道の中で一番左に有るところからだった。
 そして、その道から姿を現したのは同じクラスのグループで何か揉めたような感じだったが静馬たちの姿を確認すると女子は今までの様子が嘘のように陽と久本に駆け寄った。
 その姿に同じグループの男子たちの反応は二つに分かれ、一つは深くため息をついて安堵の表情を見せ、もう一つは静馬たちに追いつかれたことが悔しかったのか近くを転がっていた小石を蹴っていた。
 近寄って話を聞いてみるとどうやら今出てきた道の先は行き止まりのようでその道を自慢げに選んだ事を攻められていたらしい。
 そうして、話ながらお互いにマッピングの内容を見比べたりして女子が落ち着かせてから再び進む事にした。
 二択になった道選びだったが特に全員が考える事も無く選んだのは真ん中に有った道だった。
 選んだ道は当たりだったのか次第に周りの様子が小綺麗な感じを受けるようになってきたと思った頃、それは目の前に姿を現した。
 大きく開けた部屋の壁一面のみ他とは違う材質で造られ、その中央に鎮座する不気味な扉。
 それを守護するように両サイドにはグリーンの迷彩服に身を包んだ自衛隊員だと思われる人が二人立っている。
 部屋に入ってきた静馬たちを見て一瞬だけ警戒するような素振りを見せた二人だったが、直ぐに静馬たちが高専の生徒だと気が付いたようでその顔に笑みを見せる。

「お疲れ様。ここはこの迷宮の最深部であそこの扉の奥がゲートルームだよ」

 何か確認しあった後に二人の内、一人が静馬たちに近づいてきて話しかけてくる。
 その人によるとその扉の向こうは立ち入り禁止で立ち入る事は出来ないが、高専の生徒たちがここにたどり着いたら軽く説明しているらしい。

「あの、貴方たちはどうしてここに?」

「あぁ、私たちは自衛隊のEVE迎撃を目的とした特殊部隊に所属しててその任務の一つに迷宮の調査及び管理が有ってね」

「それ、言って大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。だって、君たちの将来の進路の一つだからね」

 そう言って持っていたクリスタルを見せてくる隊員の姿に納得しながらも視線を扉へと向けた静馬。
 何度見ても何か不安を誘うような雰囲気を放つそれに暫く目が離せない。

「あの! 今までどれくらい生徒が通ったか分かりますか?」

「あぁ、事前に貰った資料と見合わせてるから分かるよ」

 扉を見つめている静馬を他所に和也は気になっていた事を隊員に聞いてみる。
 どうやら迷宮を使うに当たって話し合いが有ったのか携帯していたタブレットを操作しながら答える隊員。ついでにこの先で危ないと思ったら此処まで戻っておいでっと笑いかける姿に和也が返事する。
 そして、その声に扉から目を離した静馬を確認したのか、満足した和也に引っ張られる形で先に進む。

「ほら、行くぞ。陽たちも待ってるし」

「あぁ、わかった」

 軽く頭を振って気を取り直す静馬が視線を向けると既に静馬を除いたメンバーが通路の前に立っているのが見えた。
 静馬が来た事を確認した陽たちは歩きだし、置いてかれないようにと少し小走りになりながらも足を進めた静馬は直ぐに追いついた。

「なぁ、あいつ等は?」

「もう少しあそこで休むって」

 思い出したように今はいない一緒だったグループの事を陽に聞いてみるとそんな答えが返ってくる。
 無理をしていた訳ではないがあの扉をもう少し見たいし、隊員に話を聞いてみたいと言われたらしい。

「まっ、取りあえずは一組抜いたって事でいいじゃん!」

「……、そうだな」

 未だに少し脳裏に残る扉の姿を思い出しながら答えた静馬の姿に何か気になる事が有るのかと聞いてくる和也。

「いや、何でもない」

「そうか? なら、良いけど」

 そう言って前を歩き始めた和也の姿にあの扉の事を考えるのを止めようと頭を振った静馬はその後に続いた。
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