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第十四話 薄闇の中で
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迷宮に入った静馬たちは直ぐに光の差し込まないこの迷宮の中が薄暗い理由に気が付いた。
元々トンネルだったこの迷宮の壁にはその名残りなのか壁にライトが取り込まれているのだ。
ただ、迷宮化されてもその明るさは変わる事が無かったようでその光はそこまで強い物ではなかった。
「やっぱり、ちょっと薄暗く感じるな」
「そうだね。でも、仕方ないんじゃないかな?」
「でも、もうちょっと明るい方が良いじゃん」
静馬が壁のライトや天井に目を向けながらもそう呟くと聞こえていたのか陽が宥めるように話しかけてくる。勿論、そんな事は静馬も分かっていたので、そこまで陽に対してきつく当たる事は無かった。
入口からまっすぐ伸びる道を進む静馬たちだったが、初めて入った迷宮の雰囲気に戸惑いながらも歩いている為にそこまで早いものではなかった。
ただ、先頭を歩く和也は遅れを取り戻したいのかどんどんと先に進みたがっているようでチラチラと急かすように振り返える。
「なぁ、特に問題ないようだからもっと早く進もうぜ」
「そう急ぐなって、和也」
「大丈夫だって。前に通った連中も特に何にもなかったっぽいし」
ついに痺れを切らしたのか提案してきた和也に金村は一度落ち着くように言う。
ただ、あまり効果は無いようで辺りを見ながら先に入ったクラスメイトたちの事を出して進もうとする。
仕方ないという様に金村は静馬たち後方を歩いているメンバーにどうするかと目で訴え、静馬たちも顔を見合わせた後に頷く。
「わかったよ。もう少し早く進もう」
「やりぃ!じゃ、行こうぜ!!」
静馬たちの反応に喜んで進んでいく和也。
不安を感じながら静馬たちはそんな和也と逸れない様に少し早く歩いて追いつこうとするが、嬉しさの余り和也が更に歩く速度を上げた事に気が付き、直ぐに無理に追いつこうとするのはやめる事にした。
「特に変わってるところは無いようだけど……」
「そうだね」
先を行く和也を追いながらもどこからEVEが襲ってくるか分からない為に注意を払いながら進む静馬たちだったが、不意に何か音が聞こえた気がしたと思うと前で立ち止まった和也の姿に気が付く。
「な、なんの音?」
「分からん。たぶん、何かの鳴き声だったと思う」
「んー、人じゃないのは確かだね」
不安そうにする久本の声に頷く陽。そして、そんな久本に金村と聖は自分たちが聞いた音の正体について思い当たる事を言った。
静馬も辺りを警戒しながら再び同じ音若しくは声が聞こえてこないかと耳を澄ましてみるが、聞こえるのは自分たちの話声と息遣いのみ。
「な、なぁ、俺なんかやったか?」
「たぶん、和也じゃないよ」
近づいてきた静馬たちに確認するように聞いてくる和也だったが、視線は辺りに向けていて何が原因かを探ろうとしている。
全員がバラバラながらも辺りを注意して見てみるが、何か変わった事も無く時間だけが過ぎていく。
「特に何かが起こるって事は無さそうだな」
「あぁ、ここから先はちょっと警戒しながら進んでいくか?」
「それが良さそうだ。良いよな?」
「うん。それでいいと思うよ」
何も起こらない事に少し気を緩めながら全員の顔を確認した静馬に金村が全員に聞こえるようにこれからの事について提案する。
そして、それを聞いた聖が同意しながらも全員に念を押すように確認すると陽は言葉で、静馬や久本、和也は頷く事で返した。
「なぁ、今更だけどちょっと歩く順番とか決めないか?」
周りを見ながら進み始めようと静馬が思った時、和也が急にそんな事を言い始めた。
勿論、それは本来なら迷宮に入る前に決めておく事なので陽たちも含めて誰も反対する事は無かった。
「なんか、忘れてると思った」
「だよね。でも、気が付いただけ良かったんじゃない?」
「そうかも知れないけどさ……」
こういった時にやらなければいけない事を忘れていたというのは今までしっかりと学んできた身としてはハイテンションになって我を忘れていた和也に言われるというのが余計に気になった静馬だった。
まぁ、それは静馬だけではなく、久本もそうであったようで陽に慰められているのが静馬から見えた。
「ここって確か学校と同じEVEしか出ないはずだよな?」
「たぶんな」
「ちょっと待って」
そんな様子に気が付かない和也は不思議そうにしながらもEVEについて確認してくる。
事前に橘が言っていた事を信じるなら学校で戦った事の有るEVEが生息しているはず。そんな風に考えた静馬だったが、直ぐにここは学校ではない事を思い出して他のEVEがいるかもしれない可能性を考え出す。
それを見た陽は何かを思い出したのか、持っていた荷物から冊子を取り出して迷宮について書いてるページを開く。その陽の行動に全員が顔を見合わせた後にそのページを覗き込んむとそこにはこの迷宮で出てくるEVEについて少し書かれていた。
「確かに先生が言った通りの事がこれにも書いて有るね」
「ただ、これ以外の可能性も考える事って書いて有るな」
「仕方ないんじゃない。一応、人の手が入ってるっていても迷宮なんだから」
「まぁ、取りあえずは順番決めて先に進むか」
静馬のその言葉に全員が頷く。
「誰が先頭行く?」
「俺、行こうか? 盾、あるし」
自分の因牙武装を話に出して提案してくる和也に静馬は金村や聖を見ると特に反対は無いのか頷く。
そして、それを皮切りに全員が話始めた。
結局、因牙武装の事も含めてクラストップ5の実力を持っている和也と静馬が先頭に、因牙武装が特異系の陽と聖がその後ろ、最後尾は金村と久本になった。
そう決めている間も時より聞こえてくる音に驚きながらも進み始めた六人だったが、直ぐにその足を止める事となる。
「なぁ、これはどこ選べばいいと思う?」
「どうだろうな」
歩き始めてたどり着いた場所は少し広がった広場のようになった場所とそこから伸びる三つの道が有った。
流石に分かれ道になっているとは思わなかったが、直ぐに金村や陽たちと目を合わせて誰がマッピングするかを話始める。
既に入口からはそこそこ歩いてきていたが、今までは一本道だったからここまで書くのは問題が無かった。そして、続けて書いていくのはいいが問題は誰が書くかだった。
「私、やろうか?」
「頼んだ」
すぐさま荷物から紙とペンを取り出して書き始める陽を見ながらもどの道を進むか悩み始める。
右、左、真っ直ぐの三方向全てが少し下っているように感じるがぱっと見では特に違いが有るようには見えない。
試しに左の道の奥を覗いてみようと近寄った静馬だったが、そこから見た光景は今までと変わらず、EVEすらいるとは思えないほどだった。
「なぁ、どこにする?」
「まぁ、左か右で良いんじゃない」
後ろからそんな声が聞こえてきたので振り返った静馬にどうするかを聞いてくる金村と聖、その傍にはどうするよと言わんばかりの視線を向ける和也たちがいる。そして、陽もここまでのマッピングは済んだようで同じようにこっちを見ていた。
「左右、どちらかなら良いんじゃないか?」
「なら、左にしようぜ!」
「俺はどっちでもいいし、左でいいだろ」
和也の言葉に金村が同意した事で決まり、和也と静馬を先頭に直ぐにその道を進み始めた。
だが、数歩歩くとまるで図ったように静馬たちの頭上から何かが襲い掛かってくる。
「げっ、なんだ!?」
そう言って頭を狙ってきた何かを避けながらも因牙武装を構える静馬たち。
脅威と思っていないのかその数を増やしながらも襲い続けるそれは蝙蝠のような姿をしたものだった。
「たぶん、蝙蝠が元になってるヴェスペルト!!」
「きゃっ」
「数が多いぞ!」
「くっ、和也は盾を使ってまず遠ざけるようにしながら剣を振ってくれ」
襲い掛かってくる姿から蝙蝠型EVEのヴェスペルトと分かった静馬だったが、薄暗さに紛れて襲ってくるヴェスペルトの動きにうまく嵐狐を当てる事が出来ない。
そして、先に襲い掛かった個体に目をやっていた陽の後ろから襲い掛かったのを聖が庇いながらも追い払う。
なんとか対応しようと静馬は和也にそう言って体勢を立て直そうとする。
「たぶん、九体いる!」
「静馬、後ろ!」
「おう! サンキュー!」
後ろから襲い掛かってきたヴェスペルトに和也の声で反応して嵐狐を振るった事でまず一体を倒した静馬だったが、その隙を狙う様にまた他の個体が襲い掛かってくる。
だが、それは和也が間に入って盾を構える事で防ぎ、盾にぶつかった衝撃で体勢を崩したヴェスペルトを和也は逃さずに切り落とす。
和也を狙っていた一体はそんな和也の動きに襲い掛かるのを止めて、そのまま徐々に上昇しようとするがその前に聖によって倒される。
陽たちもやられっぱなしという訳ではなく、お互いに庇い合いながらもヴェスペルトに攻撃する事で徐々にその数を減らしていった。
「これで最後か?」
「そうだな」
そう言って最後の一体を倒した和也だったが、流石にここで気を緩める事は出来ないのか辺りの様子を窺い、和也と同じように静馬たちも互いに無事を確認しながらも辺りに対しての警戒は解いてない。
少し荒くなってしまった呼吸と心拍数を整えていくうちに勝ったという実感が出てきたのか笑みが漏れ始める。
「焦ったけど、なんとかなったな!」
「まぁな」
「ただ油断し過ぎてたな、俺たち」
「そうだな。まだ入ったばかりなのに」
「まぁまぁ、まだ始まったばかりなんだし、今後気を付けて行こっ」
自信ありげにいう和也だったが、聖の言葉には思い立る事が有ったのか直ぐに黙り込んでしまう。
流石に久本がそんな和也を見てフォローし始めると直ぐにその事が嘘のように騒ぎ始める。
「そう言えば、迷宮内だと倒したEVEが消えるって本当だったんだね?」
「あぁ、知ってはいても実際に見ると不思議に感じるな」
切られて息絶えたヴェスペルトが次第にその姿を黒い霧に変えていく光景を見た陽はそんな事を口にしたが、同じ事を思っていた静馬も頷きながらその光景を見つめる。
一瞬、静馬の頭の中で自分たちも最悪の場合はこのように消えてしまうのかと考えてしまうが忘れるように頭を振る。
「だな! そし、先に進むか!!」
「へいへい」
また、先頭を歩き出した和也に続くように続いて歩き出した静馬たちだったが、その様子には先ほどの事も有って何かしたの警戒は残っていた。
変わり映えのしない光景が続く中で何となくだが徐々に下っているように感じる静馬たちだったが、学内の迷宮とは違うからか先に進めば進むほどに何かいつもよりも疲労感を感じていた。
あれからどれぐらい進めたのかと考え始めた頃、ちょうどいい様に開けた場所にたどり着く。
「ねぇ、少しここで休憩しない?」
「久美ちゃん……、そうだね。休憩しようよ」
何か危険は無いかと確認していた静馬の後ろからそんな声が掛けられる。
同じように辺りを見ていた和也と目を合わせた後に振り返り、陽や久本たちの少々疲れた様子をみた。
「まぁ、大丈夫そうだしそうしようか」
「えぇ、俺……」
不満そうな声を上げようとした和也に金村が近寄って殴ってその声を防いだが、殴った本人も辺りどころが悪かったのか手を痛そうに抑える。
そんないつもと変わらない光景に笑いそうになった静馬たちだったが、疲れているのは確かだったのでその場で少し休むことにした。
「なぁ、前の連中とどれ位離れていると思う?」
「どうだろうな。分かれ道も有ったから分からないけどそんなに離れていないんじゃないか」
「たぶんね。もしかしたら、橘先生に追いつかれる方が早いかもね」
「えぇー、流石にそれは嫌だぞ」
座り込んで荷物から飲み物を取り出しておもいおもいに休む静馬たちだったか、そんな話に和也が直ぐにでも出発したいような雰囲気を出し始める。
まだそんなに休めてない事も有って静馬と陽だけではなく、久本たちもそんな和也を宥めて少しでも長く休もうとした。
「でも、橘先生に追いつかれるのはヤバい気がするよね」
「まぁ、そろそろ行くか?」
「さぁ、行こう。どんどん、行こう!」
渋々といった感じで立ち上がった静馬たちは急かすようにはしゃぐ和也にため息をつきながらも先に進むことを決めた。
元々トンネルだったこの迷宮の壁にはその名残りなのか壁にライトが取り込まれているのだ。
ただ、迷宮化されてもその明るさは変わる事が無かったようでその光はそこまで強い物ではなかった。
「やっぱり、ちょっと薄暗く感じるな」
「そうだね。でも、仕方ないんじゃないかな?」
「でも、もうちょっと明るい方が良いじゃん」
静馬が壁のライトや天井に目を向けながらもそう呟くと聞こえていたのか陽が宥めるように話しかけてくる。勿論、そんな事は静馬も分かっていたので、そこまで陽に対してきつく当たる事は無かった。
入口からまっすぐ伸びる道を進む静馬たちだったが、初めて入った迷宮の雰囲気に戸惑いながらも歩いている為にそこまで早いものではなかった。
ただ、先頭を歩く和也は遅れを取り戻したいのかどんどんと先に進みたがっているようでチラチラと急かすように振り返える。
「なぁ、特に問題ないようだからもっと早く進もうぜ」
「そう急ぐなって、和也」
「大丈夫だって。前に通った連中も特に何にもなかったっぽいし」
ついに痺れを切らしたのか提案してきた和也に金村は一度落ち着くように言う。
ただ、あまり効果は無いようで辺りを見ながら先に入ったクラスメイトたちの事を出して進もうとする。
仕方ないという様に金村は静馬たち後方を歩いているメンバーにどうするかと目で訴え、静馬たちも顔を見合わせた後に頷く。
「わかったよ。もう少し早く進もう」
「やりぃ!じゃ、行こうぜ!!」
静馬たちの反応に喜んで進んでいく和也。
不安を感じながら静馬たちはそんな和也と逸れない様に少し早く歩いて追いつこうとするが、嬉しさの余り和也が更に歩く速度を上げた事に気が付き、直ぐに無理に追いつこうとするのはやめる事にした。
「特に変わってるところは無いようだけど……」
「そうだね」
先を行く和也を追いながらもどこからEVEが襲ってくるか分からない為に注意を払いながら進む静馬たちだったが、不意に何か音が聞こえた気がしたと思うと前で立ち止まった和也の姿に気が付く。
「な、なんの音?」
「分からん。たぶん、何かの鳴き声だったと思う」
「んー、人じゃないのは確かだね」
不安そうにする久本の声に頷く陽。そして、そんな久本に金村と聖は自分たちが聞いた音の正体について思い当たる事を言った。
静馬も辺りを警戒しながら再び同じ音若しくは声が聞こえてこないかと耳を澄ましてみるが、聞こえるのは自分たちの話声と息遣いのみ。
「な、なぁ、俺なんかやったか?」
「たぶん、和也じゃないよ」
近づいてきた静馬たちに確認するように聞いてくる和也だったが、視線は辺りに向けていて何が原因かを探ろうとしている。
全員がバラバラながらも辺りを注意して見てみるが、何か変わった事も無く時間だけが過ぎていく。
「特に何かが起こるって事は無さそうだな」
「あぁ、ここから先はちょっと警戒しながら進んでいくか?」
「それが良さそうだ。良いよな?」
「うん。それでいいと思うよ」
何も起こらない事に少し気を緩めながら全員の顔を確認した静馬に金村が全員に聞こえるようにこれからの事について提案する。
そして、それを聞いた聖が同意しながらも全員に念を押すように確認すると陽は言葉で、静馬や久本、和也は頷く事で返した。
「なぁ、今更だけどちょっと歩く順番とか決めないか?」
周りを見ながら進み始めようと静馬が思った時、和也が急にそんな事を言い始めた。
勿論、それは本来なら迷宮に入る前に決めておく事なので陽たちも含めて誰も反対する事は無かった。
「なんか、忘れてると思った」
「だよね。でも、気が付いただけ良かったんじゃない?」
「そうかも知れないけどさ……」
こういった時にやらなければいけない事を忘れていたというのは今までしっかりと学んできた身としてはハイテンションになって我を忘れていた和也に言われるというのが余計に気になった静馬だった。
まぁ、それは静馬だけではなく、久本もそうであったようで陽に慰められているのが静馬から見えた。
「ここって確か学校と同じEVEしか出ないはずだよな?」
「たぶんな」
「ちょっと待って」
そんな様子に気が付かない和也は不思議そうにしながらもEVEについて確認してくる。
事前に橘が言っていた事を信じるなら学校で戦った事の有るEVEが生息しているはず。そんな風に考えた静馬だったが、直ぐにここは学校ではない事を思い出して他のEVEがいるかもしれない可能性を考え出す。
それを見た陽は何かを思い出したのか、持っていた荷物から冊子を取り出して迷宮について書いてるページを開く。その陽の行動に全員が顔を見合わせた後にそのページを覗き込んむとそこにはこの迷宮で出てくるEVEについて少し書かれていた。
「確かに先生が言った通りの事がこれにも書いて有るね」
「ただ、これ以外の可能性も考える事って書いて有るな」
「仕方ないんじゃない。一応、人の手が入ってるっていても迷宮なんだから」
「まぁ、取りあえずは順番決めて先に進むか」
静馬のその言葉に全員が頷く。
「誰が先頭行く?」
「俺、行こうか? 盾、あるし」
自分の因牙武装を話に出して提案してくる和也に静馬は金村や聖を見ると特に反対は無いのか頷く。
そして、それを皮切りに全員が話始めた。
結局、因牙武装の事も含めてクラストップ5の実力を持っている和也と静馬が先頭に、因牙武装が特異系の陽と聖がその後ろ、最後尾は金村と久本になった。
そう決めている間も時より聞こえてくる音に驚きながらも進み始めた六人だったが、直ぐにその足を止める事となる。
「なぁ、これはどこ選べばいいと思う?」
「どうだろうな」
歩き始めてたどり着いた場所は少し広がった広場のようになった場所とそこから伸びる三つの道が有った。
流石に分かれ道になっているとは思わなかったが、直ぐに金村や陽たちと目を合わせて誰がマッピングするかを話始める。
既に入口からはそこそこ歩いてきていたが、今までは一本道だったからここまで書くのは問題が無かった。そして、続けて書いていくのはいいが問題は誰が書くかだった。
「私、やろうか?」
「頼んだ」
すぐさま荷物から紙とペンを取り出して書き始める陽を見ながらもどの道を進むか悩み始める。
右、左、真っ直ぐの三方向全てが少し下っているように感じるがぱっと見では特に違いが有るようには見えない。
試しに左の道の奥を覗いてみようと近寄った静馬だったが、そこから見た光景は今までと変わらず、EVEすらいるとは思えないほどだった。
「なぁ、どこにする?」
「まぁ、左か右で良いんじゃない」
後ろからそんな声が聞こえてきたので振り返った静馬にどうするかを聞いてくる金村と聖、その傍にはどうするよと言わんばかりの視線を向ける和也たちがいる。そして、陽もここまでのマッピングは済んだようで同じようにこっちを見ていた。
「左右、どちらかなら良いんじゃないか?」
「なら、左にしようぜ!」
「俺はどっちでもいいし、左でいいだろ」
和也の言葉に金村が同意した事で決まり、和也と静馬を先頭に直ぐにその道を進み始めた。
だが、数歩歩くとまるで図ったように静馬たちの頭上から何かが襲い掛かってくる。
「げっ、なんだ!?」
そう言って頭を狙ってきた何かを避けながらも因牙武装を構える静馬たち。
脅威と思っていないのかその数を増やしながらも襲い続けるそれは蝙蝠のような姿をしたものだった。
「たぶん、蝙蝠が元になってるヴェスペルト!!」
「きゃっ」
「数が多いぞ!」
「くっ、和也は盾を使ってまず遠ざけるようにしながら剣を振ってくれ」
襲い掛かってくる姿から蝙蝠型EVEのヴェスペルトと分かった静馬だったが、薄暗さに紛れて襲ってくるヴェスペルトの動きにうまく嵐狐を当てる事が出来ない。
そして、先に襲い掛かった個体に目をやっていた陽の後ろから襲い掛かったのを聖が庇いながらも追い払う。
なんとか対応しようと静馬は和也にそう言って体勢を立て直そうとする。
「たぶん、九体いる!」
「静馬、後ろ!」
「おう! サンキュー!」
後ろから襲い掛かってきたヴェスペルトに和也の声で反応して嵐狐を振るった事でまず一体を倒した静馬だったが、その隙を狙う様にまた他の個体が襲い掛かってくる。
だが、それは和也が間に入って盾を構える事で防ぎ、盾にぶつかった衝撃で体勢を崩したヴェスペルトを和也は逃さずに切り落とす。
和也を狙っていた一体はそんな和也の動きに襲い掛かるのを止めて、そのまま徐々に上昇しようとするがその前に聖によって倒される。
陽たちもやられっぱなしという訳ではなく、お互いに庇い合いながらもヴェスペルトに攻撃する事で徐々にその数を減らしていった。
「これで最後か?」
「そうだな」
そう言って最後の一体を倒した和也だったが、流石にここで気を緩める事は出来ないのか辺りの様子を窺い、和也と同じように静馬たちも互いに無事を確認しながらも辺りに対しての警戒は解いてない。
少し荒くなってしまった呼吸と心拍数を整えていくうちに勝ったという実感が出てきたのか笑みが漏れ始める。
「焦ったけど、なんとかなったな!」
「まぁな」
「ただ油断し過ぎてたな、俺たち」
「そうだな。まだ入ったばかりなのに」
「まぁまぁ、まだ始まったばかりなんだし、今後気を付けて行こっ」
自信ありげにいう和也だったが、聖の言葉には思い立る事が有ったのか直ぐに黙り込んでしまう。
流石に久本がそんな和也を見てフォローし始めると直ぐにその事が嘘のように騒ぎ始める。
「そう言えば、迷宮内だと倒したEVEが消えるって本当だったんだね?」
「あぁ、知ってはいても実際に見ると不思議に感じるな」
切られて息絶えたヴェスペルトが次第にその姿を黒い霧に変えていく光景を見た陽はそんな事を口にしたが、同じ事を思っていた静馬も頷きながらその光景を見つめる。
一瞬、静馬の頭の中で自分たちも最悪の場合はこのように消えてしまうのかと考えてしまうが忘れるように頭を振る。
「だな! そし、先に進むか!!」
「へいへい」
また、先頭を歩き出した和也に続くように続いて歩き出した静馬たちだったが、その様子には先ほどの事も有って何かしたの警戒は残っていた。
変わり映えのしない光景が続く中で何となくだが徐々に下っているように感じる静馬たちだったが、学内の迷宮とは違うからか先に進めば進むほどに何かいつもよりも疲労感を感じていた。
あれからどれぐらい進めたのかと考え始めた頃、ちょうどいい様に開けた場所にたどり着く。
「ねぇ、少しここで休憩しない?」
「久美ちゃん……、そうだね。休憩しようよ」
何か危険は無いかと確認していた静馬の後ろからそんな声が掛けられる。
同じように辺りを見ていた和也と目を合わせた後に振り返り、陽や久本たちの少々疲れた様子をみた。
「まぁ、大丈夫そうだしそうしようか」
「えぇ、俺……」
不満そうな声を上げようとした和也に金村が近寄って殴ってその声を防いだが、殴った本人も辺りどころが悪かったのか手を痛そうに抑える。
そんないつもと変わらない光景に笑いそうになった静馬たちだったが、疲れているのは確かだったのでその場で少し休むことにした。
「なぁ、前の連中とどれ位離れていると思う?」
「どうだろうな。分かれ道も有ったから分からないけどそんなに離れていないんじゃないか」
「たぶんね。もしかしたら、橘先生に追いつかれる方が早いかもね」
「えぇー、流石にそれは嫌だぞ」
座り込んで荷物から飲み物を取り出しておもいおもいに休む静馬たちだったか、そんな話に和也が直ぐにでも出発したいような雰囲気を出し始める。
まだそんなに休めてない事も有って静馬と陽だけではなく、久本たちもそんな和也を宥めて少しでも長く休もうとした。
「でも、橘先生に追いつかれるのはヤバい気がするよね」
「まぁ、そろそろ行くか?」
「さぁ、行こう。どんどん、行こう!」
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――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
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