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武士道
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剣道にとって一瞬の隙は命取りだ。
面、小手、胴。一本とれば試合は決する。
相手が格上であっても関係ない。
一瞬の隙をつき一本をとれば、格下であっても勝てるのだ。
わたしは剣道をしていた時、決して自分を格上だと思ったことはない。
どんな相手に対しても、油断することはなかった。
後輩相手にやさしくしろ。先輩に失礼だ。初心者に大人げない。
常に全力で臨んできたわたしに、その行動を批判されたこともあった。
しかしわたしはそうは思わなかった。
試合会場で剣を交えたとき、その人はもう立派な剣士なのだ。
初心者、上級者、先輩、後輩、格下、格上、そんなものは関係ない。
相手が剣士である以上、手を抜くことは失礼に値する。
少なくともわたしはそう思い、常に全力で試合に臨んできた。
ああ、この人も真剣だったんだ。
目前に迫り来る相手の剣。
そして相手の必死な形相。
それを見たわたしは自分を恥じた。
わたしは今まで何を考えていたのだろう?彼に対してなんて失礼なことをしたのだろう?
人を殺すのが怖い?
それがどうだというのだ。
彼は少なくとも、殺す気でわたしに臨んできた。
しかしわたしは死とか家族とか変なことを考えて、のらりくらりと躱してきたのだ。
それは剣士として許すまじ行為だ。
一本を取れば相手が死ぬ?そんなことは考えなくていい。
真剣勝負に臨んだ時点で、相手は立派な剣士なのだ。
その一本の延長戦にたとえ死があろうと、わたしは向かってきた1人の剣士に真剣に向き合わなければならない。
どんな剣士に対しても真剣に臨み全力を出す。
それがわたしの武士道なのだから。
「剣崎流 攻の型 白虎!」
迫りくる剣。あと1秒遅ければ、その剣はわたしの胸を捉えていただろう。
しかしそれよりも早く剣を振るう。
わたしはぐっと足に力を込めて一歩踏み出すと、真っすぐに相手の喉に向けて突きを放った。
「ぐはっなんだと!」
白虎は瞬殺の一手。
その剣戟の速度は音速を越える。
剣は相手の喉を貫き、更にその勢いは相手を後方に大きく弾き飛ばした。
わたしの剣が相手の喉を貫き、貫いた相手の喉から大量の血が飛ぶ。
ああっ人を殺すとはこういうことなんだ・・・。
初めて奪う命。
人を死んだことは見たことがある、しかしその人が死ぬ瞬間をマジかに見るのは初めてだった。
急速に消える瞳の光。
今まで動いていたのが噓のように筋肉が収縮し、その動きを止める。
死ぬということを一言で例えると、それは『この世界からの退場』であった。
生きていたら声で周りに意思疎通ができる、目で見ることでこの世界を知ることができる、人と出会うことで愛を語り合うことができる。
しかし死んでしまえば何もできない。
目も見えないし、声も聞こえない、そして愛する者も守れない。
そう、死んでしまえば、この世界では何もできなくなるのだ。
わたしは前世の記憶を持ち、今、この世界でメイとして生きている。
しかし前世で生きてきた世界には干渉できない。友人にも会えないし、前世の両親にも会えない。
そう、いくらメイで生きていようとも、前世の世界には干渉できないし知ることすら叶わないのだ。
きっと今、この世界でも同じこと。
だから今は、メイ=マルチーズとして精一杯生きる。
この世界で退場せずに、大好きな周りの人を守って見せる。
幸いにもわたしにとっては2度目の人生。
相手が誰であろうと、わたしは精一杯生き延びていくんだ。
倒れて動かなくなった従者をの男を見下ろしながら、わたしは心からそう誓うのであった。
◇◇◇◇
相手を倒したわたしは剣についた血を振り払うと、まっすぐに周りを見渡し現在の状況を整理した。
今、立っているのは3人。
わたし、アヤさん、そしてカシムだ。
どうやらアヤさんは、対峙したもう一人の従者の男を倒したようだ。
もう一人の従者は、ぐったりと横になりピクリともしない。
どう殴ったのかわからないが、顔面が陥没しており見る影もなかった。
このケガならもう生きていないだろう。
そしてカシムに切られたゲンキさん。
激しい出血を伴いぐったりと地面に横になっている。
しかし時折ぴくぴくと痙攣しており、辛うじて生きているようだ。
だがこの出血なら、おそらく助からないだろう。
それほどまでに激しいケガを負っている。
少なくとも、わたしの回復魔法の力では彼を助けることは不可能だ。
そして前方では、アヤさんとカシムが拳と剣を交えていた。
立ち回りを見るとカシムは従者の二人と比べても、かなり強かった。
アヤさんもなんとか相手の攻撃を凌いでいるものの、相手の剣を躱すことで精いっぱいだ。
彼女が殺されるのも時間の問題だ。
それならわたしが今やるべきことは、アヤさんへの加勢だ。
カシムが強敵であっても二人がかりで挑めば勝機はある。
そう判断したわたしは、アヤさんを加勢する為に前に出ようとした。
しかしアヤさんは大声でわたしに叫んだ。
「メイ、お願い!カシムはわたしが何とかする。だからゲンキを助けて・・・」
その言葉にわたしは思わず足を止める。
「でも、わたしの力では彼を助けることができません。アヤさんも劣勢です。それならわたしは今助けられる命を守りたい。だから貴女に加勢するのが最善手だわ」
「わかっているわ。だけど私は貴女に最後の望みを託したいの。
失敗してもいい、でも諦めたらそこで確率は0になるから・・・。
だから最後まで足掻きたい。
ゲンキはわたしの幼馴染。
お調子者で、怒りっぽくて、単細胞で、デリカシーがなくて嫌なとこはいっぱいある。
だけどゲンキは誰よりも真っすぐで、正義感が強くて、そしてカッコイイわ。
私は彼が好き!だからお願い!
助からなくても仕方ない。だけど彼がせめて安らかに眠れるように、癒しの魔法をかけてあげて・・・」
その言葉にわたしはアヤさんへと向けていた、足を止める。
「わかったわ。ゲンキさんはわたしに任せて。
だけどアヤさん、絶対に死なないで。絶対に勝って。それだけは絶対、約束よ」
今のわたしの回復魔法の力では、彼を助けることは不可能だ。
しかしアヤさんは愛する者の為に、必死で頑張っている。
だからわたしはその気持ちにこたえたい。
たとえ駄目だとわかっていても、最後まで足掻きたい。
そう思うと、いつのまにかわたしはゲンキさんの元へと駆け寄った。
そして両手を傷口に当て、回復魔法を唱える。
「ヒール!」
ちかちかと白い光が瞬き、ゲンキさんの傷口を包み込む。
しかし患部からドクドクと血が流れ、その勢いは全く治まらない。
顔はどんどん青くなり、急速に体温が失われていく。
考えろ、このままでは何度やっても一緒だ。
弱いヒールでは、沈みゆく船の水をバケツでかきだしているようなものだ。
そんなものはやっていても意味がない。
入ってくる水の方が多く、少しづつ水をかきだしたところで焼き石に水だからだ。
今のわたしはそんな状況だ。
「マルチーズ家の役たたずめ。貴女がわたしの妹なんて反吐がでるわ」
「メイ。あれだけ期待して愛してあげたのに、貴女はその期待を裏切ると言うの・・・」
「この出来損ないめ。二度とこの部屋から出てくるな」
マルチ―ズ家の役たたず・・・。
大好きだったお姉さま、お父様、お母様。
彼女達は聖女になれなかった、わたしを突き放した。
そう、今のわたしは役たたず。
聖女の力には程遠く、大切な仲間を守る力も持っていない。
もし、聖女の力を持っていれば、ゲンキさんを助けることができるのに。
アヤさんの涙を見ずに済むのに・・・。
近くで戦うアヤさんの姿が目に入る。
アヤさんは必死で戦っている。
あれだけ劣勢だったのに、今は気力を振り絞り互角以上の戦いを繰り広げている。
大量のウルフ達との死闘、彼女の魔力は残り少なく体力は殆ど残っていないだろう。
しかし今、彼女は限界以上の力を発揮している。
そんな彼女の力の源。
それは、ゲンキさんを守りたい という強い意志だ。
彼女の瞳には、そんな闘志が漲っていた。
わたしも負けてられない。
何か打開する術はないか、必死で思考を巡らせる。
どうしてわたしの回復魔法は威力が低いの?
魔力はいっぱいあるのに・・・どうして?
その時、とある会話が頭をよぎった。
「わたしね、まだ聖女の力に目覚めないの。お姉さまはわたしくらいの歳には目覚めたと言うわ。お母様達に嫌われたらどうしよう・・・」
3歳のわたしは涙を見せながら、とある女性に相談した。
周りからの期待と重圧、それでも目覚めない聖女の力。
大好きな家族から嫌われてしまうかもしれない恐怖に、幼い頃からわたしは苦しんでした。
そのしぐさに、白髪交じりの女性はしわくちゃの笑顔を見せると、わたしの頭を優しく撫でた
「いいかいメイ?魔力はその人その人で性質が違うのよ?」
「性質?」
そうだ。あれはお婆様のお婆様、わたしが5歳の時に亡くなった大婆様の言葉だ。
大婆様はわたしと同じくマルチーズ家最高の魔力を持ち、初代聖女にも負けずとも劣らない最強の聖女だった。
大婆様はやさしくて、よくわたしを可愛がってくれた。
そのやさしい手と、やさしい笑顔。
どうして今まで忘れていたのだろう?
「メイ。実はね。かつてワシは魔法が苦手だったんだよ」
「大婆様が?まさかー」
「うふふ。そのまさかなのさ。でもある時、ワシはきっかけを掴んだんじゃ。
そしたら、聖女の力に目覚めたんじゃよ。
そして今では歴代最強の聖女と周りが騒ぎ立てると来たもんじゃ。
昔はマルチーズ家のおちこぼれと馬鹿にしていたのにね・・・」
「本当に?大婆様は落ちこぼれだったの?どうやってきっかけをつかんだの?」
「それはメイ自身が考えないといけないね。ただヒントをあげよう。
ヒールいや魔法には、決まった形は存在しないんじゃよ。その人にあった別の形が存在するんじゃ。」
「形?」
「ああ、落ちこぼれの時のワシは周りの魔法の形を模倣して呪文を唱えていた。
だけどそれじゃーダメなんだよ。
ワシは小さな時から花が好きだった。だから大きな花畑をイメ―ジして呪文を唱えたんじゃ。そしたら前よりも上手に魔法が使えるようになったんじゃ」
「わたしもお花が好き。お花をイメージしたらわたしも魔法が上手になるかな?」
「それはどうじゃろうね。メイの魔法の形がお花ならきっとうまくいくだろうね」
そうだ。その後、わたしは大婆様の言葉に浮かれて、家に帰って花をイメージして魔法の練習をしたんだ。
でもダメだった。
そしてがっかりしたわたしは今の今までその大婆様の言葉を忘れてしまっていたのだ。
(わたしだけの魔法の形。そして大婆様はお花が好きでそれをイメージした?)
そしてわたしの一番好きな物・・・。
試してみる価値はありそうだ。
わたしは決意を込めた眼差しでゲンキさんを見る。
もう時間がない、この魔法を失敗したらもう彼は助からない。
これが最後のチャンス。
大婆様の言葉にかけるしかない!
わたしが一番大好きな物。
それは剣だ。
すべてを切り裂き、希望をつなぐ光の剣。
それは怪我はおろか、あらゆる病や災厄を断ち切る希望の剣だ。
そんな剣をイメージし、わたしは最後の魔法を唱えるのであった。
面、小手、胴。一本とれば試合は決する。
相手が格上であっても関係ない。
一瞬の隙をつき一本をとれば、格下であっても勝てるのだ。
わたしは剣道をしていた時、決して自分を格上だと思ったことはない。
どんな相手に対しても、油断することはなかった。
後輩相手にやさしくしろ。先輩に失礼だ。初心者に大人げない。
常に全力で臨んできたわたしに、その行動を批判されたこともあった。
しかしわたしはそうは思わなかった。
試合会場で剣を交えたとき、その人はもう立派な剣士なのだ。
初心者、上級者、先輩、後輩、格下、格上、そんなものは関係ない。
相手が剣士である以上、手を抜くことは失礼に値する。
少なくともわたしはそう思い、常に全力で試合に臨んできた。
ああ、この人も真剣だったんだ。
目前に迫り来る相手の剣。
そして相手の必死な形相。
それを見たわたしは自分を恥じた。
わたしは今まで何を考えていたのだろう?彼に対してなんて失礼なことをしたのだろう?
人を殺すのが怖い?
それがどうだというのだ。
彼は少なくとも、殺す気でわたしに臨んできた。
しかしわたしは死とか家族とか変なことを考えて、のらりくらりと躱してきたのだ。
それは剣士として許すまじ行為だ。
一本を取れば相手が死ぬ?そんなことは考えなくていい。
真剣勝負に臨んだ時点で、相手は立派な剣士なのだ。
その一本の延長戦にたとえ死があろうと、わたしは向かってきた1人の剣士に真剣に向き合わなければならない。
どんな剣士に対しても真剣に臨み全力を出す。
それがわたしの武士道なのだから。
「剣崎流 攻の型 白虎!」
迫りくる剣。あと1秒遅ければ、その剣はわたしの胸を捉えていただろう。
しかしそれよりも早く剣を振るう。
わたしはぐっと足に力を込めて一歩踏み出すと、真っすぐに相手の喉に向けて突きを放った。
「ぐはっなんだと!」
白虎は瞬殺の一手。
その剣戟の速度は音速を越える。
剣は相手の喉を貫き、更にその勢いは相手を後方に大きく弾き飛ばした。
わたしの剣が相手の喉を貫き、貫いた相手の喉から大量の血が飛ぶ。
ああっ人を殺すとはこういうことなんだ・・・。
初めて奪う命。
人を死んだことは見たことがある、しかしその人が死ぬ瞬間をマジかに見るのは初めてだった。
急速に消える瞳の光。
今まで動いていたのが噓のように筋肉が収縮し、その動きを止める。
死ぬということを一言で例えると、それは『この世界からの退場』であった。
生きていたら声で周りに意思疎通ができる、目で見ることでこの世界を知ることができる、人と出会うことで愛を語り合うことができる。
しかし死んでしまえば何もできない。
目も見えないし、声も聞こえない、そして愛する者も守れない。
そう、死んでしまえば、この世界では何もできなくなるのだ。
わたしは前世の記憶を持ち、今、この世界でメイとして生きている。
しかし前世で生きてきた世界には干渉できない。友人にも会えないし、前世の両親にも会えない。
そう、いくらメイで生きていようとも、前世の世界には干渉できないし知ることすら叶わないのだ。
きっと今、この世界でも同じこと。
だから今は、メイ=マルチーズとして精一杯生きる。
この世界で退場せずに、大好きな周りの人を守って見せる。
幸いにもわたしにとっては2度目の人生。
相手が誰であろうと、わたしは精一杯生き延びていくんだ。
倒れて動かなくなった従者をの男を見下ろしながら、わたしは心からそう誓うのであった。
◇◇◇◇
相手を倒したわたしは剣についた血を振り払うと、まっすぐに周りを見渡し現在の状況を整理した。
今、立っているのは3人。
わたし、アヤさん、そしてカシムだ。
どうやらアヤさんは、対峙したもう一人の従者の男を倒したようだ。
もう一人の従者は、ぐったりと横になりピクリともしない。
どう殴ったのかわからないが、顔面が陥没しており見る影もなかった。
このケガならもう生きていないだろう。
そしてカシムに切られたゲンキさん。
激しい出血を伴いぐったりと地面に横になっている。
しかし時折ぴくぴくと痙攣しており、辛うじて生きているようだ。
だがこの出血なら、おそらく助からないだろう。
それほどまでに激しいケガを負っている。
少なくとも、わたしの回復魔法の力では彼を助けることは不可能だ。
そして前方では、アヤさんとカシムが拳と剣を交えていた。
立ち回りを見るとカシムは従者の二人と比べても、かなり強かった。
アヤさんもなんとか相手の攻撃を凌いでいるものの、相手の剣を躱すことで精いっぱいだ。
彼女が殺されるのも時間の問題だ。
それならわたしが今やるべきことは、アヤさんへの加勢だ。
カシムが強敵であっても二人がかりで挑めば勝機はある。
そう判断したわたしは、アヤさんを加勢する為に前に出ようとした。
しかしアヤさんは大声でわたしに叫んだ。
「メイ、お願い!カシムはわたしが何とかする。だからゲンキを助けて・・・」
その言葉にわたしは思わず足を止める。
「でも、わたしの力では彼を助けることができません。アヤさんも劣勢です。それならわたしは今助けられる命を守りたい。だから貴女に加勢するのが最善手だわ」
「わかっているわ。だけど私は貴女に最後の望みを託したいの。
失敗してもいい、でも諦めたらそこで確率は0になるから・・・。
だから最後まで足掻きたい。
ゲンキはわたしの幼馴染。
お調子者で、怒りっぽくて、単細胞で、デリカシーがなくて嫌なとこはいっぱいある。
だけどゲンキは誰よりも真っすぐで、正義感が強くて、そしてカッコイイわ。
私は彼が好き!だからお願い!
助からなくても仕方ない。だけど彼がせめて安らかに眠れるように、癒しの魔法をかけてあげて・・・」
その言葉にわたしはアヤさんへと向けていた、足を止める。
「わかったわ。ゲンキさんはわたしに任せて。
だけどアヤさん、絶対に死なないで。絶対に勝って。それだけは絶対、約束よ」
今のわたしの回復魔法の力では、彼を助けることは不可能だ。
しかしアヤさんは愛する者の為に、必死で頑張っている。
だからわたしはその気持ちにこたえたい。
たとえ駄目だとわかっていても、最後まで足掻きたい。
そう思うと、いつのまにかわたしはゲンキさんの元へと駆け寄った。
そして両手を傷口に当て、回復魔法を唱える。
「ヒール!」
ちかちかと白い光が瞬き、ゲンキさんの傷口を包み込む。
しかし患部からドクドクと血が流れ、その勢いは全く治まらない。
顔はどんどん青くなり、急速に体温が失われていく。
考えろ、このままでは何度やっても一緒だ。
弱いヒールでは、沈みゆく船の水をバケツでかきだしているようなものだ。
そんなものはやっていても意味がない。
入ってくる水の方が多く、少しづつ水をかきだしたところで焼き石に水だからだ。
今のわたしはそんな状況だ。
「マルチーズ家の役たたずめ。貴女がわたしの妹なんて反吐がでるわ」
「メイ。あれだけ期待して愛してあげたのに、貴女はその期待を裏切ると言うの・・・」
「この出来損ないめ。二度とこの部屋から出てくるな」
マルチ―ズ家の役たたず・・・。
大好きだったお姉さま、お父様、お母様。
彼女達は聖女になれなかった、わたしを突き放した。
そう、今のわたしは役たたず。
聖女の力には程遠く、大切な仲間を守る力も持っていない。
もし、聖女の力を持っていれば、ゲンキさんを助けることができるのに。
アヤさんの涙を見ずに済むのに・・・。
近くで戦うアヤさんの姿が目に入る。
アヤさんは必死で戦っている。
あれだけ劣勢だったのに、今は気力を振り絞り互角以上の戦いを繰り広げている。
大量のウルフ達との死闘、彼女の魔力は残り少なく体力は殆ど残っていないだろう。
しかし今、彼女は限界以上の力を発揮している。
そんな彼女の力の源。
それは、ゲンキさんを守りたい という強い意志だ。
彼女の瞳には、そんな闘志が漲っていた。
わたしも負けてられない。
何か打開する術はないか、必死で思考を巡らせる。
どうしてわたしの回復魔法は威力が低いの?
魔力はいっぱいあるのに・・・どうして?
その時、とある会話が頭をよぎった。
「わたしね、まだ聖女の力に目覚めないの。お姉さまはわたしくらいの歳には目覚めたと言うわ。お母様達に嫌われたらどうしよう・・・」
3歳のわたしは涙を見せながら、とある女性に相談した。
周りからの期待と重圧、それでも目覚めない聖女の力。
大好きな家族から嫌われてしまうかもしれない恐怖に、幼い頃からわたしは苦しんでした。
そのしぐさに、白髪交じりの女性はしわくちゃの笑顔を見せると、わたしの頭を優しく撫でた
「いいかいメイ?魔力はその人その人で性質が違うのよ?」
「性質?」
そうだ。あれはお婆様のお婆様、わたしが5歳の時に亡くなった大婆様の言葉だ。
大婆様はわたしと同じくマルチーズ家最高の魔力を持ち、初代聖女にも負けずとも劣らない最強の聖女だった。
大婆様はやさしくて、よくわたしを可愛がってくれた。
そのやさしい手と、やさしい笑顔。
どうして今まで忘れていたのだろう?
「メイ。実はね。かつてワシは魔法が苦手だったんだよ」
「大婆様が?まさかー」
「うふふ。そのまさかなのさ。でもある時、ワシはきっかけを掴んだんじゃ。
そしたら、聖女の力に目覚めたんじゃよ。
そして今では歴代最強の聖女と周りが騒ぎ立てると来たもんじゃ。
昔はマルチーズ家のおちこぼれと馬鹿にしていたのにね・・・」
「本当に?大婆様は落ちこぼれだったの?どうやってきっかけをつかんだの?」
「それはメイ自身が考えないといけないね。ただヒントをあげよう。
ヒールいや魔法には、決まった形は存在しないんじゃよ。その人にあった別の形が存在するんじゃ。」
「形?」
「ああ、落ちこぼれの時のワシは周りの魔法の形を模倣して呪文を唱えていた。
だけどそれじゃーダメなんだよ。
ワシは小さな時から花が好きだった。だから大きな花畑をイメ―ジして呪文を唱えたんじゃ。そしたら前よりも上手に魔法が使えるようになったんじゃ」
「わたしもお花が好き。お花をイメージしたらわたしも魔法が上手になるかな?」
「それはどうじゃろうね。メイの魔法の形がお花ならきっとうまくいくだろうね」
そうだ。その後、わたしは大婆様の言葉に浮かれて、家に帰って花をイメージして魔法の練習をしたんだ。
でもダメだった。
そしてがっかりしたわたしは今の今までその大婆様の言葉を忘れてしまっていたのだ。
(わたしだけの魔法の形。そして大婆様はお花が好きでそれをイメージした?)
そしてわたしの一番好きな物・・・。
試してみる価値はありそうだ。
わたしは決意を込めた眼差しでゲンキさんを見る。
もう時間がない、この魔法を失敗したらもう彼は助からない。
これが最後のチャンス。
大婆様の言葉にかけるしかない!
わたしが一番大好きな物。
それは剣だ。
すべてを切り裂き、希望をつなぐ光の剣。
それは怪我はおろか、あらゆる病や災厄を断ち切る希望の剣だ。
そんな剣をイメージし、わたしは最後の魔法を唱えるのであった。
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