天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

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ヒーリング・ソード

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「心臓を一突きにしたんだ、あの男はもう助からない。

あの嬢ちゃんは回復魔法を使えるみたいだが、それこそマルチーズ家の聖女ではない限り、不可能だ」



目の前のカシムはそう言うと、横なぎに剣を振るう。

剣にはうっすらと緑色のオーラを纏っていた。

飛び散る草の葉がそのオーラに触れると、真っ二つに引き裂かれる。

魔力を纏えば、刃物の攻撃であろうと拳で受けることができる。

しかしもう殆ど魔力は残っていない、奴の攻撃を受けるだけの魔力がない。

そう判断した私はバックステップで後ろに飛ぶ。



「どうした逃げるだけか?腰抜けめ」



カシムは連続で剣を振るいながら、私を挑発する。

思わず反撃して殴りたくなる衝動にかられるが、ここはぐっと我慢だ。

私は身をよじりながら次々と攻撃を躱していった。

どれも魔力でガードできない私にとって、必殺の一撃だ。

私の見立てではカシムの強さはBランク冒険者クラス。

その為、万全の状態であったら、ここまで防戦一方にはならなかった筈だ。

ゲンキだってこんな簡単にやられてはいなかったであろう。



メイ・・・。

私は倒れるゲンキに寄り添い必死に回復魔法を唱えるメイを見る。

彼女が冒険者ギルドにやってきた時の衝撃は覚えている。

数多の冒険者パーティーは、こぞって彼女を争奪するために動き出したからだ。

メイは珍しい回復魔法を使える貴重な人材だ。

それにかなり可愛らしい容姿をしている。

最初、そんな子が冒険者になるなんて私は信じられなかった。

たしかにメイの回復魔法の力はそこまで高くない、しかしそれは有名な聖女と比較したらの話であって、一般的な神官と同等レベルの力を有していた。

実際に今回初めて彼女とパーティーを組んだが回復魔法もさることながら、その魔力量には驚いた。

ウルフ達との戦いでは、数えきれない魔法を唱えていたにもかかわらず彼女の魔力は尽きなかったからだ。

さらに剣術まで使え、かなりの力を有している。

だが今の彼女の力ではゲンキの傷は治せない。

でも彼女なら何とかしてくれるのじゃないか、彼女には何か底知れない力があるのではないか?

何故だかそんな予感がしたのだ。



「どうした?よけているばかりじゃ俺には勝てないぞ」



カシムは笑いながら剣を振るう。

メイは今、必死にゲンキを治す為に奮闘している。

ゲンキは幼馴染だ。

そして誰よりも私は彼の傍に居て、彼を見守ってきた。

衝動的な告白だった、しかし私の気持ちは本気だ。

私は彼が好き、他の誰よりも大好き。

彼を守る為にも、そしてわたしの我儘に付き合い悪戦苦闘してくれているメイの為にも。



「私は負けるわけにはいかないんだ!!」



「死ね!」



右斜め横に一閃。

相手は躊躇くなく私を切りつける。

しかしわたしは剣を振るう右手を蹴り上げた。



「なに!?」



突然の反撃、カシムは体制を崩し体がガラ空きになる。

その隙をつき、一気に奴の懐に飛び込むと、顔面に拳を叩きこんだ。



ガン



しかしカシムは顔に魔力を纏い、私の拳をガードする。

まるで鉄の板を殴ったような衝撃に、私は思わず顔をしかめた。

でも止まってはいけない。

素手の最大の長所は、瞬発力と連続攻撃だ。

ひるまずに次々と拳を叩きこむ。

相手の体はのけ反り、唇が切れて口から血を流す。

しかし力いっぱい殴っているのに、ダメージはそれだけだった。

倒れる素振りすらない。

何故なら、奴は身体強化魔法で体を鋼のような強度に強化していたからだ。

あまりの強度に逆に私の方がダメージを受けて、ミシミシと骨が砕ける音が響き渡り私の右拳が砕けた。



「ツッ」



そのあまりの激痛に私は思わず顔をしかめる。



「なんだ、そんな程度の攻撃しかできないのか?いいからとっとと死ね!」



カシムは攻撃を耐えてニヤリと笑みを浮かべ、服の袖で切れた口を拭き血を拭う。

そして私の心臓を狙い、剣を前に突き出した。



その剣に合わせて私は体を右によじりその攻撃の位置をずらす。

そして左手を前に突き出すると、迫りくる剣を手のひらで受け止めた。

魔力を纏い貫通力と切断力をあげた剣。

それはなんの抵抗もなく私の手のひらを貫き、貫通する。

だが私はそのまま剣の奥まで貫通させると、貫かれながら剣を握る右手を掴んだ。



「くっ放せ、放せ」



カシムはつかまれた右手を振りほどこうと、ぐりぐりと剣を押し当てる。

その度にボタボタと血が流れ、ミシミシと筋肉が引きちぎられていく。

しかし私はその手を離さない。

最後の力を振り絞り、相手の右手をギュッと握りしめた。



「待っていたのよ。貴方が油断して不用意に攻撃するのを。これでやっと捕まえたわ。私の一撃受けてみなさい!」



そう言うと、私は右手に魔力を込める。

私の得意属性は雷。

ビリビリと電流が流れ、激しいスパークを伴い右手は強く輝いた。



「まっ待て!やめろ!はっ話会おうじゃじゃないか?」



「何よ今更。食らいなさい!ライジングインパクト!」



そしてカシムの顔面に全力の拳を叩き込んだ。



◇◇◇◇

想像するのは光の剣。

込める力は癒しの力。



自身の魔力が高まっていくのがわかる。

今までのわたしの魔法はなぜか、うまくその力が伝わっていないような感覚だった。

そう、まるでチェーンの切れた自転車をこぐような感覚だ。

車輪は空回りして、その力がうまく伝わらず進むことができない。

そんな感覚に似ていた。

しかし今回は違う。

魔力がスムーズに伝わり、イメージ通りに魔法が生成されているのがわかる。



(大婆様、ありがとうございます)



もしこのまま成功してゲンキさんを治療することができれば、私は聖女と同等以上の力を身に着けたことになるであろう。

そしてこのままマルチーズ家に戻れば、私は聖女として温かく迎えてくれるはずだ。

お父様、お母様、お姉さま・・・。

私は突き放されたとはいえ、未だに彼らのことが大好きだ。



彼らはこの世界で唯一血の繋がった家族であり、この世界で唯一手に入れた家族の温まりだった。家族との日々は今のメイの大切な思い出として、強く心に残っている。

あの時、確かに彼らは私を愛してくれていた筈だ。



いや本当にそうだったのであろうか?

それが本当の愛なら、聖女になれなかったくらいで突き放したりはしない。

結局、彼らはメイではなく聖女の力を愛していたにすぎないのだ。

その気持ちを前世の記憶が否定する。



なら、わたしには何もないのか?

いや冒険者になったわたしは家族とは違う温もりを手に入れたはずだ。

そうだ!



ライラさん・・・、そして『星空の集い』の仲間達、そして臨時とはいえパーティーを組んだアヤさんを始めとした『元気で頑張ろう』の皆さん。

彼らとの日々は、家族に裏切られて傷心していた私の心を癒してくれた。

ピンチの時も、背中を預けて一緒に戦いに臨むことができた。



そうだ・・・これが本当の人間の繋がりなんだ。



冒険者の仲間達とは血が繋がっていない。

しかし命を預け信頼できる大切な存在だ。

友に戦い、友に笑い、そして友に愛を語り合う。



それは愛情とは違う、友情だ。

しかし友情は無償の存在であり、身分や地位に囚われない平等な関係だ。

そしてその無償の関係は、時に血の繋がりを超越する。



マルチーズ家との家族愛は、偽りだった。

だから私はたとえ聖女の力を身につけたとしても彼らの元には帰らない。

そして聖女にもならない。

聖女ではなく一人の剣士として、その癒しの力を振るう。

家族よりも友情を大切にし、自由に生きていく。

そう決意を込めると、私は両手を掲げその呪文を唱えた。



「ヒーリング・ソード!」



呪文と共に眩い金色の光が包み込む。

金の光は、聖女の力。

放つ力は、剣士としての一振りの剣。



そして眩り光が止む。



すると、私の右手には金色に輝く1本の剣が握られていた。
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